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カラスは春告げる  作者: ふく
第2章

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第22話 俳優志望

カラスは、ウグイスにはなれないのか――


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

「川崎先輩さっきもすごかったんだけど、すごいんだよ。今日の下校アナウンスも川崎先輩だったけど。」


「うん、なんか楽しそうな部活で良かったな」


「まあ今のところはね」


「いじめられたら言うんだぞ」


「なんだよそれ、保護者か」


「なんとなく、あの先輩たちの対処法みたいなのちょっとわかった気がする、さっきので」


「え!ほんとに!?すごー」


「先輩たちというか、1名は確実にわかった」


「??まあいいや。じゃあさ、早速聞いてよ。来月の遠足、なんだっけ、けんなんとか」


「健脚会」


「そう、それのなんかステージ?出し物のやつで、放送部が司会するみたいでさ、それが真野くんのデビューだね!とか言われて。僕石川先生に裏方希望ですって言ったんだけどさ」


「あー、それか。俺もやる」


「えっ?なに?」


「昨日一緒に運んでもらった資料、健脚会のやつだよ」


「ああ、そっか……え、なにどういうこと?」


「基本的に行事系は生徒会が運営してて、今度の健脚会もそうなんだけど、俺も手伝えって言われてる。」


「そうなんだ」


「今度なにやりたいか希望聞かれるから、ステージって言っとくわ」


「え!いいよ!」


「なんで?」


「いや、ただでさえ嫌なのに、近くに前田がいるって思ったら余計……」


「心強いだろ」


「なんで!」


とりあえず、明日は休みだ。この一週間はとんでもなく長かった気がする。色々なことがあり過ぎた。そして色んな人に出会った。


放送部に入ることも決まり、不安な気持ちでいっぱいではあるが、実際僕は部活というものがどういうものか全く知らないわけで、漠然とした不安があるだけでフワフワしている。具体的にあれが心配だとか、ああいうのが面倒だなあというのがわからないのだ。それだけは、逆に良かったのかもしれない。


バッチーン!!!!


「さいっってーー!!!!!」


突然、平手打ちのような良い音と、女の子の声が急に響き渡る。


僕と前田は同時に歩みを止め、通りかかっていた傍の公園の方へ目をやった。


ちなみに僕と前田は徒歩組だ。家から学校まで歩いて20分もかからない。そして今この場所は、学校からそう離れていない場所にある小さな公園であった。遊具はブランコ二つのみ。ベンチがポツンと一つだけ寂しく置いてある。その中に、うちの高校らしき制服を着た、男女。


「あれ……」


僕は、その女子生徒の方に見覚えがあった。


「最低です、さよなら!」


女子生徒は目の前の男子生徒にセリフを吐き捨て、走って去っていく。少し巻き髪の、長めの髪がなびいていた。やっぱりそうだ。


「演劇部の人」


「え?」


「坂巻さんだ!坂巻あんずさん!」


「へー」


「え、すごくない?僕一回しか会ってないのにフルネームで覚えてるなんて」


「たしかに。なんで?」


「え?」


「気になるの?」


「え?!いや、違う違う違うそういうことじゃなくて!」


「ちょっと!!!」


前田に予想外のことを言われてワタワタと焦りだした僕を、その一声で仕留めて息の根を止めてやると言わんばかりの声だった。


坂巻あんずさん。演劇部一年生。楓くんたちと一緒に演劇をやっている人。あのキラキラした楓くんとやり合っていた、気の強そうな女子。


「あんた、真野くんでしょ」


僕たちを、いや、僕をじっと睨んでいる。


「今見たこと、誰かに言ったら許さないから」


この前演劇部の部室で聞いた時の声と違う。腹を通り越して、地の底から出しているような、低く芯の通った、暗い声だった。


「楓とか、まじでやめてよね」


僕ははい、とすら言えないまま、彼女もそれを待たずに去っていった。


僕と前田はしばらく呆然と彼女の後ろ姿を見つめて、立ち尽くしていた。この時になって、さっきまで僕はとても楽しかったんだなと気づいたのだった。


     


     


「テニス部の松野先輩、さっそく1年生に手出したらしいよ?」


「えーまじ?誰?」


「演劇部の子。」


「ふーん、かわいいの?」


「知らない。ていうかその子から松野先輩に近づいたっていう噂もある。」


「そうなの?来るもの拒まず系なの?松野先輩って」


「だったらうちいっちゃおうかなー」


月曜日。学校に着くと、教室内がざわついていた。何の話をしているのか、嫌でも耳に入ってくる。僕たち以外にも目撃者がいたのか、それとも相手のあの男子生徒、松野先輩?が言いふらしたのかはわからない。


「真野くん、早速言いふらしたの?」


前田が席に着くなり、挨拶もなしにキツイ冗談を飛ばしてきた。


「な、ちょっと、変なこと言うなよ!そんなわけないだろ。僕だって今来たばっかりだよ。」


「でもあの子からしたら、お前が言いふらしたみたいに思うかもしれないだろ。」


「えー、やっぱりそうなるの?他にも見てた人いたんでしょ、どうせ。」


「放送室行って来いよ。『言いふらしたのは僕じゃありません』ってアナウンス。」


「……朝から冗談キツイよ、前田。」


「あ、ごめん。」


「ごめんなあ、真野も前田くんも」


「うっうわあああああああああああああ!!!!!」


いつの間にか隣にいた、楓くん。


「驚きすぎだろ、なーんかちょいちょいリアクション芸ぶっこんでくるよなあ、真野って」


「そうそう、昔からそう」


「そうなんだ、大人しそうな顔してなー」


「ちょっと!普通に会話し始めるな!楓くん、隣のクラスとはいえうちの教室来過ぎじゃない?友だちいないの?」


「なんだよそれえ!ひどくね!?いるわ友だち!クラス全員と最低一言ずつ言葉交わしてますわ!」


「すご!それはすごい、えらいよ。すみません。」


「え、いつから俺に対する扱いそんなに雑になった?」


「うちの真野が失礼を、申し訳ありません。」


「あ、いえいえとんでもない」


「もー!そのノリなんなんだよ!もういいわ!そんなことより何、楓くんもこの件何か絡んでるの?」


「おー、いやいや、まあ今回はというか今回も、なんだけどあいつ結構やらかし突っ走り系女子だから。坂巻あんず。気にしなくていいよ。」


「そ、そうなの?え、ていうか本当に僕言いふらしてないよ。」


「わかってるって。発信元はだいたい目星ついてる。坂巻にも俺から言っといたし。真野と前田くんは関係ないって。」


「やっぱり疑ってたんだ……」


「目星って、誰なの?」


前田が聞いた。


「いや、まあ完全にあっちサイドだよ。松野先輩の方。あの人というかあの人の周りあんまりいい噂ないんだよ。」


「楓くん前から知ってる人なの?」


「松野先輩、今はまだ高校生だからってことでそんなに仕事してないんだけど、事務所入ってんのよ。結構大手の。あ、これ一応内緒ね。」


「え、事務所……芸能事務所ってこと?」


「そう。あの人も俳優志望。」

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