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カラスは春告げる  作者: ふく
第1章

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第14話 メガネは何を覆うのか

カラスは、ウグイスにはなれないのかーーー


~男子高校生が高校野球のウグイス嬢を目指すお話~

ザワッ……「ああ、『三人姉妹』ね」彼のその一声で、部室内がまた一段と困惑の色を強くして、騒がしくなってしまった。隙を狙ってこっそり抜け出せばいいものを、何が何だかわからないまま未だこの場所に居続ける僕だけど、このあきちゃん先輩を目の前にして何故か僕も冷や汗をかいてきた。何なんだろうこの人は。


「さ、三人姉妹……」


「チェーホフかあ……」


「オリガ、マーシャ、イリーナ……」


「はいいいいい!俺、オリガかマーシャかイリーナやりたいです!!!」


みんなが好き勝手にザワザワしている中、突如松原くんが手を挙げて宣言した。


そして松原くんの高らかな宣言を皮切りに、部室内はより一層騒がしくなる。


「わたしはオリガに立候補します!」


「え……普通に女子だよね、イリーナかなあ……」


「マーシャ!」


「わたしもマーシャ!」


「マーシャ結構おいしいよね」


部員たちは口々に、自分のやりたい役を宣言し始めた。ひええ、こんなにも役を演じたい人たちがいるんだ。


僕はまた演劇部の熱気というか独特の雰囲気に圧倒されて、ちょっと疲れたのもあって壁を背にしゃがみこんでしまった。視界にはみんなの足元が映る。ボーっとみんなの足を眺めていると、スリッパが両足とも同じ色の人は当然いるが、左右違う色のスリッパを履いている人も結構いることに気がついた。なんだろう。松原くんも、えんじと緑のスリッパをはいていた。


そんなことを考えていたら、ふと目の前に二本の足が立っている。スリッパの色は、えんじと緑だ。


「あ……」


松原くん、と思って顔を上げると、そこに立っていたのはあきちゃん先輩だった。先ほどと変わらずうっすら微笑みをたたえているが、眼鏡の奥の瞳はあまり笑っていない。


「真野くん、だよね?」


「あ、はい」


名前、知られている。


「色々面倒なことに巻き込んじゃってごめんね。(かえで)が暴走して迷惑かけちゃって」


「楓……?」


「あっ松原。松原楓」


松原くんのフルネームを初めて知る。松原楓だって。名前も何だか洒落てるなあ。


「あ、いえ。僕も訳が分からずだたここにいるだけで」


「怖いでしょ」


「え?」


「自分自身を使って人前で何か表現したい、やりたいって願望がある人たちが集まってると、ちょっと怖い感じしない?」


「ああ……怖いというか、なんとなくそれはわかります。僕とは違う世界の人たちだなって」


「息苦しいでしょ」


「え?」


「この部室」


あきちゃん先輩は僕の隣にしゃがんで、顔を覗き込むようにじっと僕を見ていた。彼がどういう意図で、僕にそんなことを聞いてくるのかわからなかった。正直怖かった。僕の中にある何かを見出そうとしている感じがして、怖かった。


「えっと、あの僕は、演劇部に入るつもりはありません」


「ん? うん、わかってるよ」


僕はあきちゃん先輩から向けられる視線に耐え切れずすっとんきょうな返事をしてしまったけど、彼は微笑んだままだ。


「僕、そろそろ帰ります」


僕が立ち上がろうとしたその時。


「おいー! お前なにあきちゃん先輩と親しげにしゃべってんだ!」


「あ、楓くん」


「あ?!」


「あはは。俺がお前の代わりに、真野くんにちゃんと名前を教えておいてあげたから」


「えっ、何話してたんすか」


「別に特別なことは……それより落ち着いたね」


「落ち着いてないっすよ。今から役の性別関係なく立候補可能かどうか、多数決取ろうとしてます」


「ねえ、『三人姉妹』ってタイトル通り三人姉妹が主人公なの?」


僕は2人の会話を遮って、思わず楓くんに聞いてしまった。


「そうだよ。でも女だろうが男だろうが関係ねえ。そういうことじゃないだろ。性別関係なく一人の人間として純粋にその役柄を見れた方が、観客側も気づけることあると思うんだ」


「それと楓が主演をやりたいこととはまだ別の話だろ?」


あきちゃん先輩がおちょくるように笑う。


「だ、だからあ……」


まだ出会って間もないけど、この楓くんという完璧な長身イケメンは、あきちゃん先輩には敵わないらしい。困ったような照れたような子どもみたいな顔になった楓くんを見て、ふふっと少し笑ってしまった。


「皆さん、静粛に!!」


木村部長の良く通る一声で、一気に部室が静かになる。


「今から、多数決をとります。今年のお披露目公演オーディションにおいて、役の性別に関係なく立候補を許可するかどうか。ただし、これはあくまで立候補が可能かどうかであって、最終的に役をきめるのは演出のあきらです。立候補して最高のパフォーマンスができたとしても、性別不問で配役を決定するかどうかは演出の意向によります」


……僕は本当に部外者なんだけど、またふと疑問に感じることがあって、隣の彼に小声で尋ねた。


「楓くん、」


「あ? だから楓くんって言うな」


「今木村部長が言ってたのって、もし多数決で性別不問で立候補OKになったとしても、演出? の人が最初から性別関係なくやるつもりなかったらオーディション無駄ってこと?」


「お、おい、本人の前でよく言うよ」


あ、そうか。あきらさんで、あきちゃん先輩。今更ハッとしてあきちゃん先輩の方を向いたけど、あきちゃん先輩は相変わらずニコッと微笑んでいた。正直僕はこの微笑みが苦手だと思った。この人が演出? なんだ。


「あの、あきちゃん先輩はどういうつもりでいるんですか?」


「だからお前そういうことを……あきちゃん先輩すみませんっ」


「あはは、そうだねえ。真野くんはどう思う?」


「……」


「……」


僕は、あきちゃん先輩の瞳をじっと見つめた。彼も僕の瞳をじっと見つめている。


「……あの、」


「ん?」


「男性のみバージョンと、女性のみバージョン2種類を作るのはダメなんですか?」

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