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過去編弍一一永久に一一

11月も中旬になり、日向中野球部は年内最後の練習試合をしていた。

その日も正義は大活躍していた。打順は三番で、三打数三安打で打点四という活躍であった。

これから最終回の日向中の攻撃。5-5で、日向中は一番の綾小路からの攻撃である。・・・が、一番の綾小路と二番の小鳥遊梓が凡退し、バッターは田倉。

「2アウトだ!締まってこー!」

すかさず相手のキャッチャーは気合いを入れさせた。

それもそのはずである。何せ相手は『日向の天才』こと田倉正義。

甘い球ならサク越えは間違いない。

「打ったれ、正義!」

仲間の声援を受け、正義は無言で打席に入った。

一球目、アウトローの際どいコースにカーブが決まった。相手の監督はホッとしたように声を上げた。

「ナイスボールだ!その球なら打たれんぞ!」

キャッチャーは同じボールを同じコースに要求した。

二球目、全く同じコースにカーブが投げられた。

正義はその意外なリードに意表を付かれ、空振り。

監督の中富は正義が少々焦り気味だと気付き、声をかけた。

「正義、サイン見ろよ?」

サインは正義にしか出さないサインだった。

正義は右手でヘルメットのつばを触った。

そして、三球目、ストレート。インコースの難しい所に投じてきた。

だが、正義はそこに来ることを読んでいた。

ピッチャー心理を完全に知っている正義の読み・・・

そう、それが『日向の天才』の意味。

正義はそのボールを見事に捉えた。正義の打球は勢いが落ちることなく左中間へ飛んで行った。

・・・そして、サクを越えた。

正義にとっては初めてのサヨナラホームランだった。

そして、正義は悠々とダイアモンドを一周した。

「っしゃぁぁ!ナイバッチだ、正義!」

「ありがとう、みんなの声援があったから打てたんだよ!」

歓喜冷め止まぬ日向中ナインを中富が制し、話を始めた。

「年内最後の練習試合、勝利おめでとう。・・・まぁ、これからは体力作りを重点に置いた練習になるが、精一杯努力して辛い冬を越えて、春にはさらに強力なチームになって欲しい。私からは以上だ」

中富が話し終えると、日向中ナインは正義の周りに集まった。

「今日も見事な読みだったな、正義!やっぱりお前には敵わんな」

青雲が感嘆の表情で正義に話しかけた。

「あのパターンは今まで無かったから難しかったんだけど、決め手はやっぱりリードの組み立てだったよ」

あまり人を誉めない梓が今日の正義には感動したようで、正義に賞賛の言葉をかけた。

「さすがは正義君。打ち崩せないピッチャーはいないって感じだね」

すると、すぐに彼女の幼なじみの隆哉が口を挟んできた。

「まさか、梓が人を誉めるとは・・・なんて珍しいことか。それに俺、梓が誰かを誉めてるとこ見たことないし」

「わ・・・私だって人を誉めることくらい・・・ある」

さっきから梓の顔が少し赤い。

「わー、梓が照れたぞー!みんな!見にこいよ」

「ちっ、違う!・・・隆哉、勝手なことを言うな!・・・私は単に寒くて・・・ちょっ、みんなして見るな!」

青雲がその様子を見て、意外そうに呟いた。

「梓さんってこういうキャラなんだ・・・」

割と近くにいたため、青雲の呟きは梓にも聞こえた。

「・・・うぅ、知られたくなかった・・・見られたくなかった・・・」

その様子を見て正義がその場を制した。

「みんな、よしなって。梓さんが嫌がってるじゃないか」

同じようにキャプテンの君也が厳しい言葉をかけた。

「そんな下らないことして楽しいか?隆哉」

「べっ、別に・・・」

「だったら止めておけ。それ以上やるならそれ相応の制裁が下されるぜ・・・」

「わ、分かったよ・・・悪かった、梓」

梓は泣き目で隆哉を睨んだ。そんな梓を見て、青雲が小声で隆哉に言った。

「お前、女を泣かせるなんて・・・正直ンとこ最悪だな」

「あぁ、やっちまったわ・・・」

その時、グランドの外から正義を呼ぶ声がした。

「正義ー!帰ろー!」

正義はバスケ部の練習をしていたはずのなぎさがグランドの外にいることに驚きを隠せなかった。

「なぎさ!?」

「正義?羨ましいなぁ。休日まで彼女と帰宅とは。俺なんて・・・」

隆哉が言いかけた言葉を青雲が制した。

「気にするな。俺も同じだから」

「青雲〜、仲間だな〜・・・」

「同志よ!」

青雲と隆哉はなぜかこの時から意気投合した。なぜなら悲しい共通点があるからだ。

すると君也が正義に言葉をかけた。

「正義、今日はもう終わりだから早く帰りなよ。それに、彼女に寒さを感じさせちゃいけないからね」

「・・・じゃあ、先に帰るね。また明日」

そう言って正義はなぎさと帰ることにした。




一緒に帰るときに話すのはだいたいなぎさである。

相変わらず今日もなぎさが正義に話しかけている。

「正義、今日のホームラン凄かったよ!」

「え?何で知ってるの?」

「バスケの練習終わって帰ろうとしたらちょうど正義の打席だったんだよ」

「見ててくれたんだ。ありがとう」

なぎさは正義がサヨナラホームランを放ったことをまるで自分のことのように喜んでいる。

「それにしても正義は昔から野球上手かったけど、中学になったら誰も敵わないぐらい上手くなったよね。やっぱ凄いな、正義は」

「いくら上手くてもみんな上手いからうかうかしてられないけどね」

「ずっといちばんでいてよ。野球でも、私にとっても・・・」

「・・・大丈夫。僕はずっとなぎさにとっていちばんであり続けるから」

「絶対だよ!約束だよ!・・・破ったらただじゃおかないんだからね!」

なぎさは頬を赤らめながら正義に言ってきた。

「ふふ、頬真っ赤だよ。なぎさ、熱くなりすぎ」

「え・・・、そう・・・かな?」

「うん。真っ赤」

そう言って正義はなぎさの頬を軽くつついた。

「正義・・・?」

「かわいいよ。なぎさ」

「もう、正義ったら!」

そんな話をしながら二人は歩いていた。

そして、山道に差し掛かったとき、前方からバランスを崩したような車が走って来るのが見えた。ガードレールもないこの山道を走るには危険すぎる。


そして、その車は正義となぎさに向かって来た!

「なぎさ!危ない!!」

正義は素早くなぎさの前に立った。

「正義!!」

その車は正義に接触し、正義を突き飛ばした。

突き飛ばされた正義は林に飛ばされ、脇腹に倒木の枝が刺さった・・・!!

「・・・!」

あまりの痛みに正義は声を出せない。

そこへすぐになぎさが駆けつけた。

「・・・正義!しっかりして・・・!!」

「な・・・ぎさ・・・」

正義はやっとのことで息をしている。

「私にとって・・・いちばんでいるんでしょ?」

「ごめん・・・でも・・・」

「でもって何よ・・・!まだ・・・まだ正義は生きているじゃないの!」

なぎさは叫びながらも涙が止まらない。

そうしているうちにだんだんと正義の呼吸は少なくなっていく。

「いやよ・・・、約束・・・守ってよ・・・!」

「・・・微笑んで・・・なぎさ・・・」

「そんなこと・・・出来るわけ・・・ないじゃない・・・」


そう言いながらもなぎさは何とか笑顔を見せようとした。

「・・・ありがとう・・・なぎさ・・・」


正義の目が閉じた・・・


「正義・・・!」


一一なぎさ・・・


「いや・・・」


一一大好きだよ・・・


「正義ぃ・・・」


一一なぎさ・・・


「いやぁああああ!!」



悲痛な叫びが山道に小だました・・・一一


笠原です。


今回は過去編二話目ということで正義君がなぜ死んでしまったのかということを執筆させて頂きました。


どうだったでしょうか?


正直のところ、自分自身最後のあたりは執筆中少し悲しくなってしまいました(泣)


ついでに前回と今回のお話が恋っぽくなってしまったことをお詫びしますm(__)m




さて、次回からは現代に戻って日向中野球部は練習の日々に励みます。


そんな彼らを見守ってやってください!


それではまた!

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