過去編壱――正義――
7人の脳裏にはある一人の部員の姿が蘇っている。
約半年前に帰らぬ人となった一人の部員・『田倉正義』を・・・
「なぁ、正義、バッティング教えてくれよ〜」
隆哉は何とも情けない声で聞いた。
「そんなこと言っても・・・僕はそんなにバッティング上手くないよ・・・」
正義は自信なさげに言った。そんなところに吉良がやって来た。
「何言ってんだよ、正義。お前ほどのバッティングセンスの持ち主はそうそういないぜ?」
「う、うん。ありがとう、青雲君。・・・じゃあ、隆哉君、まずはトップの作り方から・・・」
田倉正義。チーム内では『日向の天才』と呼ばれ、また、他校の野球部から相当恐れられていた。
そんな正義は外野手で、もちろん入部当初から試合に出ていた、天才の中の天才であった。
ただ、彼の唯一の短所は消極的な性格であることであった。しかし、その性格は練習になると消え失せ、練習中はチームで一いちばん積極的なプレーをしていた。そして、何より監督よりも厳しかった。
「・・・とまぁ、僕が教えられるのはこのくらいかな」
正義はバッティングについての説明を終えた。
「マジでわかりやすい説明だったな!ありがと、正義」
「うん。あとは隆哉君の努力次第。頑張って!」
正義は隆哉に励ましの言葉をかけ、帰ることにした。早急に帰り支度を済ませ、校門を出た。
校門を出ると、幼なじみで、今でもクラスメイトである神宮なぎさ(ジングウナギサ)が立っていた。
「なぎさ・・・?」
「待ってたよ、正義。・・・たまには一緒に帰らない?」
正義はいつもと少し違うなぎさの様子が気になり、聞いてみた。
「ねぇ、部活とかで何かあったの?」
「何もないよ!とにかく、早く帰ろうよ」
「分かったよ。んじゃ、帰ろうか」
そうして二人は帰路を歩き始めた。とりわけ二人の家は学校から歩いて25分ぐらいかかる程遠い位置にあった。
「なぎさ、何で今日は僕と帰りたいの?」
正義はいきなり
「一緒に帰らない?」と言ってきたことに疑問があったため、聞いてみた。なぎさは頬を赤らめながら独り言のように小さな声で言った。
「だって、この頃正義あたしに冷たいじゃん・・・一年のときはもっと優しかったのに・・・」
そう言うなぎさはどこか寂しそうであった。
「なぎさ・・・」
「もう正直に言うよ。・・・あたしはずっと前から正義のことが好き。物心ついたときにはもう好きだった。だから二年になって、同じクラスになったから凄く嬉しかった。・・・でも、正義ったら鈍感で・・・」
「・・・ごめん。でも、僕もなぎさが大事なんだ。だから僕は完璧を目指した。そう、なぎさのために。」
「ねぇ、正義、あたしと付き合って。あたしは別に完璧なんか求めてない。・・・あたしは正義じゃなくちゃだめみたい」
正義はその言葉を聞いて笑みがこぼれた。
「・・・いいよ。それに、僕もなぎさみたいな強気な人じゃなきゃだめだと思うし」
「強気って、もう・・・正義ったら一言多いんだから・・・」
そうして正義となぎさは付き合うことになった。
二人は幼い時のように手を繋いで帰った。
だが、その一ヶ月後に二人で帰るようになったためにある事件が起きることをまだ誰も知るよしはなかった・・・
えー、笠原です。
今回は野球とは全く関係ない方になってしまいましたが、お許しください・・・m(__)m
田倉正義の生きている時の話でしたが、いかがだったでしょうか。
まぁ、今回は繋ぎなんで、いかに彼が凄いプレーヤーなのかは次回以降に持ち越しですが、田倉の性格ぐらいは分かって頂けたと思います。
さて、次回はなぜ田倉のおかげで野球部が強くなったのか・・・
そんなことを書きたいと思います。