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閑話4:父と息子


帰宅し、私室に送り届けたシュテーリアを魔法で眠らせたフェルキスは父の書斎にいた。

目の前に座るのは父であり、宰相でもある父レイスだ。

自身が持つ温度のない冷やかな翠眼と同じ特色の瞳を正面から見て、フェルキスは親子とはこうも似るものかと心の内で自嘲気味笑った。

それはレイスも同じだったようで2人は互いに目を軽く伏せ、改めて向き合った。


「先日話した通り、チェルシュの試験も兼ねて片付けて参りました」

「そうか。裏にいる者は分かったのか?」

「申し訳ありません、此度の者にも呪術が掛かっておりましたもので…焼け死にました」


実際、今までの生け捕りにした暗殺者は皆一様に黒幕の名を言えず焼け死んでいたのだが、今回に限っては事実ではない。

フェルキスが虚偽の報告をしたのには理由がある。

それはシュテーリアが最後に使った魔法が原因だった。

悶え苦しむ暗殺者の体から強制的に吸い出されていく魔力は蒸発するように消え、魔力の枯渇と共にアレらは亡き者になったのだ。

魔法に関する書には全て目を通しているフェルキスでさえ見た事のない魔法だった。

縁者ですらない人間の魔力を離れた位置から操作する事は不可能に近いのだが、シュテーリアはそれをやって見せたのだ。

だが、これを知られれば彼女は魔法研究所に送られ危険と見なされれば二度と外に出る事は叶わなくなるだろうとフェルキスは踏んだ。

もしシュテーリアが使い手で無ければフェルキスも、そう指示を出すからだ。

父であれば…と信じたい気持ちもあったが、隠したのはレイスが宰相を務めているからに他ならない。

暗殺者を始末するついでに影の使い方でも学ばせ、ついでにチェルシュの試験も終わらせてしまおうと安易に考えていたのだが、難題を持ち帰ってしまった訳である。

要点のみを簡潔に話すフェルキスの表情には焦りも翳りも見えず、ただ淡々と報告は終わる。


「リアはどうしている」


気遣わしげなレイスは父親の顔を覗かせ、フェルキスを見る。


「今は寝ています。今日は精神的に負担も大きかったでしょうから、傍についていようかと」

「そうか。リアの事はお前に任せるが…フェルキス、あまり急くなよ?」

「……はい」


レイスは息子であるフェルキスにも同様の視線を向けた。

魔王様の如き宰相とは言え、彼も一人の人間であり父親なのだ。

優秀に育った子供たちは頼もしく愛しいと常々思っているのだがフェルキスに伝わっているのかは微妙なところである。


「フェルキス…何か困ったことがあれば、直ぐに言いなさい」

「はい」


一言了承の返事をしても尚、シュテーリアの魔法の話をしないのはフェルキス自身が父親に似ているとの自覚があるからだ。

国の平穏の為なら身内と言えど…そう教えられてきた以上、今回の事柄に関してはレイスを頼る訳にはいかない。

自分に与えられた役割以上に大切なモノが出来るとフェルキスは思っていなかった。

それが出来てしまった瞬間からフェルキスの最優先事項はシュテーリアなのだ。

彼女を守る為ならば親も友も国でさえも欺こうと心に決め、フェルキスはレイスの前に立っている。


「それでは父上、これにて報告を終わります。シュテーリアが不安がらせてはいけないので行きますね」


そう微笑み頭を下げて退室し、眠るシュテーリアのもとへ向かった。

次回更新予定日は7月2日0時です。

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