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17話



翌日、学院に着いて真っ先に厨房へ向かいチェルシュに渡されたバスケットを給仕に預けてから教室へ向かう。


「おはようございます、皆様」


挨拶をすれば相変わらずルルネアが駆け寄って…は、来なかった。


「おはよう、リア」


おそらく前日駆け寄ったことを諌められ改善したのであろう。

隣にハルニッツが居るのは念の為だろうか…

飛び掛りたい衝動を抑えるかのようにスカートを握り締めるルルネアの姿は玩具を前にした仔犬のようだ。


「ルル、その様に握り締めては皺が出来てしまうだろう。それでは美しくない」

「うぅっ……ハル兄様も厳しいわ…」

「ふふっ、失礼とは存じますがルル様の所作には愛らしさがありますもの。仔犬のようで抱き締めてしまいたくなりますわ」

「抱き締めてもいいのよ!お友達なんだから!」


両腕を広げ……ルルネアはシュテーリアに抱き着く。

抱き締めてもいいと言いながら抱き着いてくるのは何故だろうか?

そして、ルルネアの落ち着きのなさは一体何なのだろうか……

そう思いつつもルルネアの背に手を回し、宥めるように叩いた。


「リアは本当に優しいわ。大好きよ」


満面の笑みを見せてルルネアは、静かに体を離す。

表情が少し曇っている気がして声を掛けようとするがタイミング悪くエルリックが入室してきた。


本日最初の授業は基礎魔法…エルリックの専門分野だ。

地獄を見る気しかしない。


「皆さん、おはよう。本日の授業に変更が出ました。今日1日を掛けて基礎魔法全てを覚えて頂きます。否を聞く気はありません。宜しいですね?」

(横暴かっ!)


肯定しか許されないのなら疑問形で投げ掛けてくるなと言いたい。

諦めは付くが確認しなければならない事もある。


「ヒスパニア先生、質問がございます」

「どうぞ」

「基礎魔法とは言え魔法を行使する以上、魔力量の少ない方はすぐに枯渇してしまいますわ。今日1日でと言うのは無理があるのでは?」

「問題ありませんよ、シュテーリア・エアリステ。きちんと回復薬がありますからね」


コトンと小さな音を立てて机に置かれたのは透明感のある水色の液体が入ったクリスタルカットの小瓶だ。

シュテーリアは、この小瓶の中身をよく知っている。

美しい透明感のある水色の液体……その味は甘味が口の中に広がったと思った瞬間に猛烈な苦味と渋味が襲ってくるのだ。

この鬼教師は、貴族の子息子女に更には王族にそんな物を飲ませるつもりなのだ。


「せ、先生…これは、考え直したほうが良いのでは……」

「僕も流石にそれは……」

「それの味ひっどいよねぇ……」


声を上げたのは双子のサストリーとドミトリーである。

魔術師の家柄ということもあり、アレの正体を知っているのだろう。

いや、そもそもアレを作り出したのはモストン侯爵だったか。


「何も言わずに飲んだら毒物と勘違いするくらいの薬だからね」

「わかりますわ。初めて口の中に入れた時、拷問だと思いましたもの」

「僕はイタズラで飲んだら大変な目にあったよ〜」


経験者は語る、だ。

周りが露骨に引いているが、そんな事は関係ない。

これだけは止めさせなければならないのだ。


「ソレは子供には少量でも効きすぎますわ」


魔力回復薬、またの名を魔力増幅薬とも呼ばれている。

保持していた量よりも過分に魔力を得ることになれば魔力酔いを起こしたり、最悪の場合暴発するようなこともあるのだ。

まぁ、エルリックや基礎魔法の履修を終えている面々を見れば暴発くらい簡単に抑えられるのだろうが……


「そうですか?暴発するほど増幅させれば魔力量の底上げもできて一石二鳥ではありませんか」


まさかのコメントだ。

要するにエルリックは基本となる魔力量が少ない子供は増幅薬で魔力を溢れさせ、魔力量自体の底上げを行おうとしていたのだ。


「ありませんね。そんな事したら儚くなられる可能性もあるではありませんか」

「貴族の子息子女が、そんな脆弱な……」

「……叔父様、王族やモストン公爵家エアリステ侯爵家の魔力量の多さは遺伝ですわ!他家の子息子女を同列で考えるのはおやめ下さいませ。わたくしだって昨日知ったばかりですわ。他家の家庭教師がお優しく愛情溢れる方々だったなんて……」

「おかしいな?私も可愛い姪には愛情を持って教育していたよ?」

「……わたくし、椅子に縛り付けられてソレを飲まされた時は死を覚悟しましたわ」

「君が逃げるものだから仕方なく、ね」


穏やか且つ冷やかな笑顔で睨み合う叔父と姪に周囲は騒然とする。

「え?椅子に縛り付けられて??」

「流石に嘘だろ!?」

「死を覚悟する授業なんて聞いてないわ」

大きな声を発する者はいないが、皆の反応は一様に恐怖だ。

このトラウマ製造機は自分の姪だけではなく、他家の子息子女にまでトラウマを植え付ける気なのかと呆れを隠せない。


「仕方ありませんね。まぁ、まずは座学を……」


この世界の魔法は光属性と闇属性に大きく分けられる。

光属性は光の4元素《火、土、風、水》で構成され、闇属性は闇の4元素《氷、雷、操術、無属》で構成される。

光属性に関しては全ての民が僅かであろうと持っているものだが、元素に関しては得手不得手が出てくる。

何れかの元素に資質が偏っている者もいれば、均等な資質持ちもいる。


まず四角錐の器を想像して欲しい。

この空の四角錐の大きさが属性全体の魔力量を指し、そこに火元素の資質、水元素の資質、風元素の資質、土元素の資質というものが入る。

この四角錐の器を無茶な方法で大きくしようとした場合や魔力のコントロールが拙かった場合、もしくは精神面へ何らかの異常が見られた場合には暴走に至るケースがあり、その際には最も多く持った資質の魔法が発現し、自身や他者を害する事が多くある。

また、極端に資質の少ない元素の魔法は使えないこともあるとエルリックは説明する。

実際は、魔力を結晶化した魔石を利用して魔力の譲渡を行った場合はその限りではないのだが、これは闇属性に関わるものと同じく専攻学科に進んでからの授業内容となる為、1年生には説明しなかったようだ。


次に説明を受けたのは混合魔法についてである。簡単な例として上げられたのは治癒魔法だ。

多少の安眠効果や鎮痛効果を持つ程度の治癒魔法は下位魔術師程度の風元素と水元素の魔法が使えて、更に光属性の付加を行える魔力コントロールができれば使用できるのだ。

こういった具合に組み合わせることで全く別の魔法を使うこともできるのだが、1年時の履修内容ではなく、これは2年に上がってからの内容となる。


魔術師に関しても各元素毎に専門魔術師がおり、その中でも下位魔術師、中位魔術師、高位魔術師と分かれる。

そもそも魔術師になるには魔法科の専攻が必要になり、尚且つ属性全体の魔力量の多さ、どの資質に特化しているか、どの程度の魔力コントロールが出来るのか、各元素についてどれ程の理解をしているか、という部分が重要視される。

治癒士については4元素の資質が均等であり、尚且つ魔力量も多く、魔力コントロールが卓越しており、更に闇属性を求めないことが条件となっているという。

下位火元素魔術師であればキャンプファイヤー程度の炎を発現でき、中位火元素魔術師であれば教室全体を渦巻く炎の発現と形状操作、高位火元素魔術師ともなればどの対象に熱を感じさせるかという部分まで操作することも、村1つ焼くことも造作もないことだとエルリックは言う。

城に仕えるのは中位以上の魔術師のなかでも優秀な人物達だ。


また、全属性と言われる者も居るが現在公表されている全属性魔術師は高位魔術師のフリオのみであり他は公表されていない。

ちなみに全属性の魔術師は禁術の多さから公表されず国王とその側近にしか知らされない。

ゲームの知識を入れれば、中位にランス、ハルニッツ、バディウス、モストン公爵家の双子、フェルキスがいるのだが、それはゲームがスタートする3年後の階級である。

現在の彼らがどの位置に属するかはシュテーリアには知る由もない。

また、先程の例を用いて説明するが全属性は2属性の四角錐の器が同じ大きさであり、尚且つ8元素全ての資質が均等に近い者のことを言う。

シュテーリアは全ての資質を持っているものの操術が他に比べて著しく低くバランスが悪い為に全属性の下位に属するか微妙な位置にいた。

それを踏まえて既にエルリックによる操術の強化を行っているので、しっかりと学び続ければ中位程度にはなれるのではないかと踏んでいる。

またゲームのヒロインは無属が著しく低く、シュテーリアと同様に全属性の下位に属するか微妙な位置にいたがシュテーリアが死の間際に無属に全て振り切って魔力を結晶化した魔石を遺しており、その魔力を取り込むことで全属性の高位魔術師になるのだが……それは置いておこう。


シュテーリアからして見ればエルリックに学ぶよりも前にゲームの知識があったからなのか前世のRPGゲームに慣れていたからなのか特別難しい部分は無かったのだが、貴族の子息子女から見れば頭を抱えるものだったらしい。

とはいえ、1番頭を抱えてそうなルルネアが平然とした素振りをしているので他の者も問題はないだろうと思う。

もしくは、まるで理解できず放心状態なのだろうか……


午前の授業は座学で終わり、午後は簡単な魔法の習得を目指すことになるとの言葉を受けて解散になった。


「シュテーリア・エアリステ様はいらっしゃいますか?」


教室の入口から声を掛けてきたのは以前執務室の前で会ったお下げ髪の給仕だ。


「昼食時になりましたので、こちらをお持ちしました」


手に持っているのは預けていたバスケットだ。


「まぁ、ありがとう」

「滅相もございません。執務室へお持ちするのであれば私がお運びさせて頂きます」

「お願いするわね」

「畏まりました」


給仕を伴い相変わらず執務室に篭ったままだというフェルキスの元へ向かった。

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