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107話


父のもとに向かう母と別れ、片付けに勤しんでいるであろう仲間たちのもとに向かう。

明らかに人数が少なく、近くにいた令息に声をかけた。


「人が少ないように思うのだけれど、皆様はどちらに?」

「上級生の方々が続々と推薦を受けられたようで雇用先の方とお話に向かわれました」


彼の言う通りシュテーリアの視界に映る範囲内にいる上級生といえばヴァシュカや家自体が何か商いをしている家の令息令嬢ばかりである。

思っていたよりも上級生の力を借りていたんだなと改めて気付かされはしたものの上級生たちへの貢献もできていたようで何よりだった。


「ハルニッツ殿下は音楽科の先生から来年も演劇を行うのであれば今年と同様に音楽科の生徒も含めて欲しいとの申し出があり、その話し合いに向かわれました」

「ソロパートの生徒だけじゃなくて合奏をしてた生徒も軒並み声が掛かってるらしいよ〜」


そう間延びした声で入ってきたドミトリーは今回の舞台の為に開発した魔法具を少々雑に木箱に詰めていく。


「魔法具なんだけど持ち帰って改造してもいいかなぁ?」


そう問い掛けながらも既に手放す気はないらしく木箱を閉じては持ち帰りの札を貼っているあたりシュテーリアの意見は必要無いのだろう。

そもそも今回作った魔法具はモストン公爵家の協力を得て作られているのでシュテーリアが口を挟めるものでもないし、きっとハルニッツと双子の間で取り扱いは決めているはずだ。


「えぇ、持ち帰って頂いて結構ですわ。ところで、お話し合いに向かわれたのはハルニッツ殿下お一人ですか?」

「いえ、ハルニッツ殿下とバディウス殿下のお二人です」

「では、お片付けの指揮は何方が?」

「ラーベラ男爵令嬢の助言のもとルルネア王女殿下とエルテル嬢が指示を出してるかなぁ」


ルルネアが率先して先頭に立っているのはシュテーリアが望んだことでもある。

心配するほどのことでもなかったのかもしれないと安堵してシュテーリアも片付けに勤しむ生徒の輪に入った。



学院祭を無事に終えると次に待っているのは冬の社交会、シュテーリアにとっては初めて主催するやや大きな茶会の準備だった。

昼間は子供たちのみのお茶会、夜になれば大人たちの舞踏会、この両方を催すのは高位貴族の義務でもある。

エアリステ侯爵家は王族を呼ぶことが決定されているし招待する貴族の選別にも細心の注意を払わなければならず悩ましいところだった。

ただ仲の良い令息令嬢を招待するのではなく、同派閥あるいは鞍替えする可能性がある別派閥の令息令嬢を招待することも視野に入れなければならない。

フェルキスも主催の立場にいるため全てがシュテーリアのみに任されることはないが、そもそも茶会や舞踏会の手筈というのは女性の務めでもある。

それにランスとニルヴェーナ公爵令嬢との間で何やら諍いがあったらしく公爵夫人が王妃陛下のところに乗り込んだせいでフェルキスは王太子の側近としてその後始末をさせられている。


──我が国の王太子殿下も中々に問題児ね。本当にお兄様が不憫だわ……。


声に出さないまま哀れんでシュテーリアは目の前に座る指南役の母が舞踏会に招待する予定のリストに目を通す。

王家、モストン公爵家、キーセン侯爵家、ハウゼン侯爵家、ヒスパニア伯爵家と順に目を滑らせてアッセルフィガー伯爵家の名を見て目を止め、思わず声が零れた。


「え?」


そこにはシュテーリアが招待しても許される令息令嬢の名前も記されているのだが、現時点でアッセルフィガー伯爵に子供は居ないことになっているはずだった。

似ていながらヒロインとは異なる『アンナ』という名前が記されている。

動揺を隠せず瞳をキョロキョロと動かし視界にクマのぬいぐるみが入った。

シュテーリアが知らないだけで原作にアンナという少女が居た可能性も否定できない。

しかし、母が居る手前魔法具を通してルルネアに尋ねることもできなかった。

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