第16話 恐竜の巣穴
巣穴の中は、ところどころに生えた苔が発光していた。それが、間接照明となって周囲を照らしている。やや薄暗いが、明かりをつけなくても十分に視界を確保できた。
地面には恐竜の大きな足跡が、いくつも残されている。
「タマゴは、もっと奥にあるはずよ。行きましょ!」
リザリィーの声に、うなずくと俺たちは巣穴の奥へと進んでいった。巣穴は、かなり深かった。それに、分かれ道があって分岐していて迷路のようになっていた。
しばらく歩いていると、リザリィーが立ち止まる。
「シッ! 何か来るわ。気をつけて!」
そう言って、口に人差し指をあてた。すると、奥から足音が聴こえる。
「ガルルル……」
唸り声とともに奥から現れたのは、小型の恐竜だった。小型といっても人間の大人くらいの背丈はある。メニューパネルが開いて、『ラプター』と表示された。
その姿は、有名な恐竜の映画で見たことがあった。鋭い爪がついた後ろ足で立っていて、小さな前足をピョコンとさせていた。口には、いかにも肉食恐竜といった牙が並んでいる。
ちなみに、ラプターとは本来『ヴェロキラプトル』という恐竜なのだが、このゲームでは『ディノニクス』という恐竜の方がモデルとなっている。
「気をつけて! ハル。このモンスター、けっこう強いわよ!」
リザリィーが叫んだ。よし。ここは女の子の前だし、いい所を見せなければ。
「ここは俺に任せろッ! 行くぞッ!」
俺は前に出て、ムチを振るった。ムチの先端が、ラプターの顔に直撃する。
ペシッ!
しかし、いつもの爽快な破裂音は聞こえない。新聞紙で叩いたような、ショボい音。ラプターにダメージを与えた様子もない。
「あれ? おかしいな…… あッ! しまった! スキルを発動するのを忘れてた!」
ステータス『愛』に極振りした俺は、スキル『愛のムチ』を使わなければ攻撃力がほとんどない。
「ギャアアアーッ!」
ラプターは吼えると、後ろ足でジャンプする。ものすごい跳躍力だ。そして、俺に飛びかかってきた。鋭いかぎ爪が俺を襲う。避けられない。そう思った時。
「危ないッ! ハル!」
リザリィーが素早く俺の前に立ちはだかる。そして、左手の盾でラプターの爪を防いだ。さらに、右手の剣をラプターの喉元に突き立てる。
「グギャアアアアーーーーッ!!」
ラプターが絶叫する。そして、バタリと地面に倒れて消えていった。
「大丈夫? ハル」
「あ、ああ。助かったよ。すまない」
「いいのよ。気にしないで」
リザリィーは、ウィンクして見せた。せっかく、いい所を見せようとしたのに、逆にかっこ悪い所を見せてしまった。俺は、しょぼんとする。それにしても、リザリィーの剣さばき。実に鮮やかだった。俺が女だったら確実に惚れているぜ。
「さあ、行きましょ!」
「ああ」
ラプターを倒した俺たちは、再び巣穴の奥へと歩き出した。
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