トカゲはいなかった
シーザーは、スティナに出会った場所にまた戻ってきていた。
だだっ広い雪原の中、それはあった。
長方形のコンクリートの塊に扉がついた物体……にしか、シーザーには見えないのだが。
魔法使いと科学者たちは、異世界間ゲートと呼んでる。
異世界への通路を繋ぐ出入り口なんだという。
かつて、いろんな世界の人々が行き来したとかいう話は聞いたことがある。
だが、シーザーが生まれてからこの異世界間ゲートが開いたという話は聞いたことがない。
てっきり、おとぎ話レベルの話かと思っていたくらいだ。
シーザーは長方形の塊を確認する。
扉が開いていた。
そっと扉の中を覗くと、そこはただの四角い空間だった。
特に別の星でもなければ、異世界でも何でもない。
扉を開けたそこにあるであろう至って普通の室内だった。
スティナはここを通って来たのだろうか。
雪の足跡を確認すると、スティナの足跡は扉の周辺に多いように感じた。
辺りを見回すと、何か白いものが目についた。
雪の上に紛れてすごく見えづらいが……
シーザーはそれを拾い上げた。
それは白いトカゲに見えた。
手のひらにのせて、じっくり見ているシーザー。
この白いトカゲにはなんだか違和感がある。
そうして気づいた。
「……これは! カメレオン!!」
シーザーは脱力した。
スティナの話を聞いて、先入観でトカゲだと思い込んでた。
よくよく見ればそれはカメレオンだ。
――まさか、スティナが探していたのはこのカメレオンっていうオチはないよな……?
そう思いつつ、シーザーは帽子を脱いでカメレオンを入れた。
カメレオンは寒いせいか動かずじっとしている。
一応、スティナに見せよう。
もしスティナが探してるのがこのカメレオンならそれで解決だし、そうじゃないなら家で飼おう。そう決めた。