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15.

姉貴は正座したままの俺の顔の前に作り物のように見事なおっぱいを差し出してきた。実際、シリコン入れてんじゃねーのと一瞬思ったが、その圧倒的な存在感に言葉を失った。文字通り目と鼻の先に迫った時、俺は思わずゴクリと唾を飲みこんだ。


 いかんいかん。これは確かにおっぱいには違いないのだが、自分の姉貴のおっぱいだ。そんな不謹慎なことを考えてはならぬ! ならぬ! ならぬのだが……うぅ。


 俺はファーストキスの瞬間に、彼氏に自分の全てを委ねる少女のように目を閉じて、その時を待った。


 ビシッ。


「ひぃいい」


 どこからかドMの悲鳴が聞こえた気がした。しかし、それは紛れもなく俺のあげた悲鳴に他ならなかった。

  

 俺に浴びせられたのはふわふわしたおっぱいの祝福ではなく、トゲトゲしいムチによる一撃だったのだ。


「ってのはウッソ。そうは問屋が卸さねえですの」


 俺の殊勝な葛藤をあざ笑うかのように姉貴が言った。


「はぁ?」


「それはかわいい弟のためなら、お姉ちゃんは何だってやってあげますの。でも、おっぱいなら誰のでもいいというわけじゃありませんの。同じ女の子のおっぱいちゃんじゃないとダメですの」


「何だよ、その後付けみたいな設定は……」


「お姉ちゃんの時は、眉間にぶつかったマシュマロ、同じ種類という意味ではなく全く同じものを使わないとダメでしたの。同じ袋に入ったマシュマロなら、同じ柔らかさですしOKかと思ったら、ところがどっこいでしたの」


「つまり、ストッパーに設定されるのは同じ種類と言う訳ではなく、一つの個体ということか……」


「その通り! ですの」


「じゃ、俺は……」


「その女の子に『もう一回やらせて』と頼めばよろしいですの」


「そんなこと言えるかぁ!」


「じゃ、恋人になっちまえばいいですの! 恋人だったらそれくらい……ウフフ」


「ストッパーのために恋人になるのかよ、頭おかしいだろ!」


「その子のことは嫌いですの?」


「いや、嫌いとかじゃないけど……っていうか、こないだ初めてしゃべったばっかりだし!」


「ウフフ、高校生って何て純情なんですの。大人になれば出会ったその日になんて日常茶飯事……」


「姉貴、日常茶飯事はやめような……」


「とにかく、一刻も早くその女の子を手籠めにしちまわねえと、直人君の将来に関わりますの!」


「言い方が物騒すぎるだろ!」


「情けねえこと言ってんじゃねえ!」


 ビシッ!


「ヒィイイ!」


 ムチが唸りを上げて俺の背中を再びえぐった。


「テメーは女か?」


「い、いえ、男です」


「ショボくれてても、キンタマぶら下げてんだろうが! あぁ?」


「はい!」


「ビシッとやれっ! ビシッと」


 再び、ムチが唸りを上げる。


「っあ……」


三発目、四発目ともなると何だか悪くない。いやむしろ、カ・イ・カ・ン……快感? 


そんなことよりも、姉貴のヤツいきなりキャラ変わり過ぎだろ……


 姉貴の血走った目が急に優しくなり、ねっとりとした舌使いで唇を舐めた。


「ウフフ、予選と言ってもそろそろプロのスカウトちゃん達も注目し始める頃でしょう?」


「まぁ、それはそうだけど……」


「甲子園にも行きたいでしょう?」


「も、もちろん」


「奴隷なら奴隷らしく女王様の言いつけに従うんですの! オーホッホ」


 姉貴は興奮して叫びながら、俺をハイヒールのかかとで踏みつけている。格好とキャラの整合性がとれて、もはや女王様としては普通だ。姉としては異常だが……


 俺が覚醒させてしまったのかもしれない。


 良かったのか悪かったのか分からないが、SM占いという看板を掲げる上で分かりやすいサービスになったのは間違いない。


 俺はその後、一時間ほど踏みつけられながら罵られ、ようやく解放された。その頃には俺の中でも何かが覚醒していたことは否定できない。


 帰り際、「たまには実家に戻ってこいよ」と言おうしたが、親父とかあちゃんが卒倒すると困るのでそっとしておくことにした。


 というわけで、平泉の胸に顔面を押しあてるという、あり得ないミッションが俺に与えられた。


お読みいただきありがとうございます!

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