1
王都立総合図書館。
ここは、私が静かに過ごせる唯一の場所。
くすんだ灰色の髪がガラスから降り注ぐ日光に照らされ淡く光る。
きっと、王子は、こんなくすんだ髪の女なんて好きになるはずがないの。
花と光に愛される国、アンデンゼル。その真ん中に位置する、王都ルクシアンは、優秀な王と善良な臣下、活気に満ちた市民でとても栄えている。
私、ビヴィエット・ハピスブルクは公爵家ハピスブルクの長女であり、弟のヘンリーと、父ゴードンと三人で王都の端っこにあるドルリーチェという土地に住んでいる。
ドルリーチェは王都の中心から少し離れたところにあるので、通学には少し不便ではあるけれど比較的静かで落ち着いた良い街だ。
今年で17になった私は、王都の学園の4年生。成績は可もなく不可もなくという感じだし、友人関係も良好。何ら文句ない人生なのだ。いまのところは。
そう、いまのところ。
残念なことに、私には婚約者がいる。この国の第3王子、オリバー・アンデンゼルだ。
彼は、まるで天使が空から降ってきたかのように美しい顔立ちをしていて、はちみつ色の髪に、瞳は空のように澄んだ青。おまけに、文武両道、性格もとっても良い。人をからかうのが好きなおちゃめな、なんとも可愛らしく美しい人だ。
何が残念なのか。それは彼の身分が桁違い高いことだ。
彼の婚約者ということは、常に正しく穏やかに、王子に華を添えなければいけないのだ。
正直言って、私は美しくない。平々凡々の容姿だ。彼の横に立つと、周りからいろんなことを言われる。
嫌がらせだってされるし、どこにいても肩身が狭い。
婚約解消できれば、どんなにいいか・・・。私はいつもそう思っている。