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後編

「彼女がこちらにいらっしゃったとき、とても悲しそうなお顔でしたので、思わず声を掛けさせていただきました。」

「本来なら、我々はお客様に声を掛けるといった行為は致しません。ここにある商品は、一目見ただけでお客様自身が理解なさりますので。」

「しかしながら、お客様のご様子ですと、商品を手に入れに来たようではなく、まるで誰かと待ち合わせをしているようでしたので...」

突然、男の前にある映像が流れた。いや、男がその映像に()()()()()()と言っても良いような感覚だ。


「あのね、英一郎さん。あなたはずっと遠くへ行ってしまいますが、私はしっかりこちらで役目を終えるまで、心だけをあなたに捧げます。役目が終われば、あなたのもとへ行きますからね。」


そこでは、若い女性が病院のベットに寝ているとある男性と話をしていた。その人の正体は、

「これ、若いときのばあちゃんとじいちゃんだ...」

男がアルバムで見てきた祖父母であった。


「全く...若い妻と幼い息子を残していくなんて、ひどい人。」

「ごめんな、俺が不甲斐ないばっかりに。お前達には苦労をかける。」

「ほんとにですよ。もし、これで私があなたのもとへ行った時に他の若い女といたら絶対に許しませんからね。」

「それを言ったら、幸江だって俺がいなくなった後、他の男のところに行くのは許さないからな。...あぁ、いや、お前達が苦労するくらいなら」

「バカなこと言わないでください!私はあなた以外の人のもとへ嫁ぐつもりはありませんから。たとえどんなに苦労したって、あなたとの子は立派に育てて見せます。それに、あなたが残してくれた家や、知り合いもいますから。」

「そうか、ごめん、ごめんなぁ。」

「謝らないでください。私たちは何があっても幸せになりますから、ね?」

「あぁ、ちゃんと見てるからな!」

「はい。...あぁ、どうしましょう。もし、ほんとうに長く生きられたら、あなたはちゃんと分かってくれるかしら。もうしわくちゃなおばあさんなんて分からなくなるかしら。」

「お前はほんっとうに心配性だな...ふっ、まぁいい。分からなくなるなんてことは無いだろうが、そんなに心配ならそこのタンスの二段目を開けてごらん。」

「タンス...?まぁ!かわいい手鏡!」

「お前にプレゼントしてやろう。俺が作ったんだぞ。」

「英一郎さんが?」

「そうだ。知り合いの職人が手伝ってくれてな、お前のために作ったその手鏡をちゃんと持っていれば俺は絶対に気づくと思わんか?」

「素敵。ありがとう。そうね、これがあれば安心だわ。」


いつの間にかもとの骨董品だらけの店内に戻っていた。

「3年前、亡くなられた幸江さまはこの時の英一郎さまの言葉を覚えていて、同時にとても焦られました。」

「それもそうですよね。約束の手鏡を手元に持ってこれなかったですから。」

「3年間迷子になってしまわれたようです。」

「迷子!?」

「ふふ、そうです、迷子。」

茶目っ気たっぷりに少女が言う。

男は、生前の祖母を思い出し、

「確かに、祖母は以前からおっちょこちょいなところがありまして...それにしても、3年間も迷子だったんですね。」

「あぁ、3年間といっても、こちらの感覚で言えば3週間ほどですかね。その間、ずっと探し物をしてらっしゃいましたよ。」

「あの世で英一郎さまがずっとお待ちしていらっしゃったようなのですが、幸江さまはどうしても()()をお持ちしたかったようなので。」

「とってもいとおしそうにお待ちされていましたよ。まるで」

「それはあなたの言っていいことではないわ。」

「そうだね。口が滑ってしまったよ。」

男はそれだけで分かってしまった。祖父がどんな感情で祖母を待っていたのか。そして、なぜ手鏡が無くなったのか、無事に祖母が祖父のもとへ行けたのかどうかさえ分かってしまった。

「ところで、ここの商品は代償が必要なんですよね。」

「えぇ。そうですよ。」

「では、祖母は一体何を代償にして手鏡を手にいれたんですか?」

「それをお答えするのにも代償が必要です。」

「これもですか!?」

「はい。」

「んー、じゃあ、代償を払うので教えて下さい。」

「ふふ、かしこまりました。幸江さまからいただいた代償は、一番強い気持ち、でございます。」

「一番強い気持ち...」

「えぇ、彼女の中で一番強い気持ちをいただきました。」

その気持ちは、晴れやかな表情をしている祖母を見れば分かることだった。

「そうですか。では、私への代償はなんですか?」

「あなたからの代償はすでにいただきました。」

「えっ!?」

「あれ、お気づきではありませんでしたか?」

「何を代償にしたんだい!?」

「あらあら、それにも代償が必要ですよ?」

どうやらこの少女には敵わないらしい、と男は思った。

「くそぅ、なんだかなぁ。」

くすくす、という笑い声とともにだんだん辺りが白んでくる。

やがて、景色がもとの骨董品店に戻ると、

「さて、今回もちゃんとお役目が果たせたかしらね。」

「どうだろう。それは僕たちが決めることじゃないからね。」

「ところで、あなたは何を代償にもらったか分かった?」

「君がもらったのは、一番強い記憶だろ?」

「ふふふ、やっぱり分かるかしら?」

「そりゃあね、何年一緒にやってると思ってるのさ。」

「それもそうね。」


からんころん

「あら、いらっしゃいませ。」

「名も無い骨董品店にようこそ。」

1年以上放棄してしまってましたが、ようやく完結させることができました。ちょうどキリがいいので2話完結の作品とさせていただきます。

お付き合いいただきありがとうございました。

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