暗部組織(ブラック・スクール)
魔術とは魔力を消費して奇跡の再現を行う技術である。
魔術は手順を踏めば誰にでも使えるが、一人前になるまで普通は最低10年はかかる。それを短縮する為クェストの研究機関では人間の体内の魔力、オドを体内の生体電気や血流を計測して解析し魔力の路となる魔術回路と同調させ回路を開く事を可能にしている同調装置を開発、教育機関で実際に使用されていて、これにより”魔術回路の開通”の為に費やす1年間の削減に成功している。
クェストはこうした魔術と生物学や人類学、物理学等と融合することで「時間の削減」や「魔術の効率化」を実現させている世界有数の国家なのだ。
クエストの暗部組織、血に飢える者のリーダーである天上霊は議会からの依頼を受け、敵兵の抹殺に向かっていた。
が、足元が爆発する様な不足の事態が起きればその目的は中断せざるを得ないだろう。 普通は...
「......殺ったのか?」
爆発を企てた少女は辺りを見渡し、目標の生死を確認しようとする。
しかしながら、
「がっ、」
突如、疾風が少女を横殴りに襲った。
「全く、僕もなめられたもんだねぇ」
爆発により生じた煙から天上が笑いながら現れる、その白くて透き通った肌には傷一つ無く。
「なっ、馬鹿な。あれだけの爆発で無傷だと!?」
「んー?まあ、逆に”この程度”でこの僕に傷を付けられるっていうのはなんていうか...
君、馬鹿なの?」
あれだけの爆発を”この程度”と表現したことに少女は一瞬硬直した。
あの威力の攻撃を”この程度”というからには天上はそれ以上の実力があるのだろうか?
それとも、ただのハッタリなのだろうか?
少女は天上と対峙したことが無いので分からないが。
「私のIQは130よ、覚えておいて」
少女は余裕の表情でサラリと告げ、
「それから、貴方がどんなに強かろうが関係ない。ぶち殺すだけ」
そう言うと左手を前に突き出した。次の瞬間、その手に光が灯り、その光は左手を中心に円を描き始め、徐々に複雑な図形へと変化してゆく。
「魔法円」、それがこの図形の正体だ。魔法円自体はただの円でも機能するが、はっきり言って殆ど意味がない。そこで円の図形をより複雑にして守護者、つまりは神や天使、精霊、悪魔などの名を刻む事によりその力を借りる事が出来る。
少女の魔法円が一瞬光り、凄まじい雷撃が放たれる。
雷撃は天上に直撃し、同時に周辺のものも吹き飛ばした。
が、天上には傷一つ無い。
少女は少し汗ばんだ表情でニヤリと笑い、
「ふうん、やっぱり一筋縄ではいかないわね」
天上霊の鉄壁の防御はあくまで防御であり、絶対ではないと少女は踏んでいた。
ならば、と一言付け加えると空中に次々と新たな魔法円を描いていく。
新たに描かれた魔法円はそれぞれ複雑な図形に変化したが、先程と違いそれぞれの円と円、図形と図形、文字と文字が重なり合わさっていきやがて巨大な魔法円と化した。
「...多重魔法円」
つぶやく様に天上が言う
「多重魔法円」とは魔法円と魔法円を決まった形、決まった位置に重ね合わせる事で魔法円による魔術の効果を強化する魔法円のことである。場合によっては強化のみならず魔術の混合により新たな術式を生み出すことも可能である
天上はこれだけの魔法円を用いた術式を使っている状況から魔法円に特化した魔術師ではないか、と勝手に断定していた。
すると突然、
「神の右に座し給える偉大なる熾天使聖ミカエル、その右手に持つ槍を天よりかの日の如く降らせよ」
と、小さな声で呟いた。
巨大な多重魔法円が一瞬眩く光り、無数の星々のような光が灯ったかと思うと。ゴッ、と光の雨が天上に降り注いだ。
瞬間、眩い光と共に地面が抉り取られ、膨大なエネルギーによって空気を爆発させた。
「ふふ、”神の如き者の聖槍”(ミカエル・エクレシア)。これを防げる人間なんて存在しない、私の勝ちね」
少女は少し嘲笑ぎみに笑って死体がある場所に近づく、
しかし、少女は気づいていなかった 彼の防御が「絶対」である事を。
彼はそもそも死体になってなどいなかった事を。
少女の背後に虐殺者が忍びよっている事を。
「!? 死体が無...」
気づいた時にはもう遅かった、
「あ?が、はッ、何...が」
少女が放ったものと全く同じ閃光によって腹部を貫かれていた。
「無..えい..唱で、わたしと..おなじまじゅつ.....を?」
少女は出血によって失われる体力を振り絞って、問う。
「これで分かった?君と僕はレベルが桁違いだってコトをさぁ」
天上はさぞかし楽しそうに笑いながら語り掛ける。
そして、付け加える様に
「まだ死んじゃダメだよ?人が折角手間暇かけて殺してあげてんだからさぁ!最後くらい盛大に殺ってあげる」
そう言うと天上は引き攣らせた顔を元に戻し、聖歌でも歌うように
「我は全地を統べる者なり、(コンクエス・トゥム)神よ汝は死にけり。(デウス・モルトゥセスト)汝が炎を統べたれば我は業火を統べよう、(プラス・クァム・ヴォス)汝が時を統べたれば我は時空を統べよう。(アルトゥラ・クァム・ウォビス)我に故成らぬ事一つに無し、(ノンポテスト・ノン・エッセ)
前方に運命、(ソルス)後方に加護、(デフェシオニス)右方に奇跡、(ミラクラム)左方に天罰。(イラエ・デイ)我は全地を統べる者、(コンクエス・トゥム)”御座を刺す眼”なり(イデスト・インヴィクタ)」
直後、全身を包み込む様に純白の双翼が天上の背中に出現した。それと同時に彼の白い肌がさらに際立つ様に全身が白い輝きを放つ。
「あ.. あぁ、う...」
力尽き倒れ伏せた少女はおぞましいものでも見てしまったかの様に嘆きの声を上げる、
だが、少女は天上の白く輝く姿を見て美しいと思っていた。その天使の様な姿を見て自分が恥ずかしいとすら思っていた。
「さあ、好きな事を考えろ」
そう一言呟くと、ニィ、と狂った笑みを浮かべて輝く純白の右手をゆっくりと上げる。
「懺悔の言葉は?」
その時ばかりの天上の表情はまるで聖母の様に、天使の様に微笑んでいた。
「ご...めん..な、s..」
懺悔の言葉は突然遮られた。天上の時間切れだよ、という一言によって
天上は本当に楽しそうに狂笑しながら、輝く右手を容赦なく振り下ろす。
瞬間、少女の体が内側から弾け飛んだ。
「やっぱ、「ズレ」があるなぁ。イメージ的にはもっと盛大に殺ろうと思ったんだけど」
少女はもはや一言も言葉を発しない。
「まぁ、でも、無駄に器物破損するよりはマシか」
天上は地面に転がる少女の死体に見向きもせずに独り言をブツブツと呟く。
そして天上の足が偶然にも少女の亡骸に当たる。人間には案外血が詰まっているものでヒトの血液量は体重の13分の1と言われている。((これは体重70キロの成人男性の場合、約5キロが血液の重さである))
従って、天上の目の前は血の海と化してる訳だが。天上は全く気にする様子は無い。
と、突然何かを思い出した様に自分のポケットを見る
「あっ、そういや連絡しとかないと。やば、忘れるトコだった。」
天上は急いで携帯を取り出し、登録された番号に電話を掛ける。
「リーダーだけど、一匹死んだから”死体処理”よろしく。」
簡潔に内容を告げると電話を切り、ポケットに仕舞う。
「んじゃ、そろそろ帰りますか...」
天上がそう言うと、体を覆う純白の双翼が展開される。
天上は重力を無視して飛び去り、仲間が待つ教会へと向かった。