第五話:話合い
屋上で記憶について思い出そうと色々と試みているが結果は変わらない。失われている記憶が蘇ることはない。記憶喪失者の記憶はほぼ戻らないことを圭兎は知っている。でも、自分は記憶喪失者ではないと言い聞かせているが何も変わらない。そもそも彼は数ヶ月前の記憶は失ったではなく封印されていると思っている。そんなことをし続けていると空が茜色に染まっていた。
ーーもうそんな時間か。
立ち上がりなんとなく下を覗いてみると、生徒会メンバーと風紀委員長が何かをグラウンドで真剣に会話していた。でも、関係ないと考えたのか、彼はポケットに手を突っ込み、屋上から校舎に繋がる扉をくぐる。
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トシカリたち生徒会メンバーと風紀委員長であるエリカが顔を合わせている。
「どう? あいつの記憶が戻っている気配があったか?」
「アタシは感じなかったです」
「わたしもです」
トシカリの質問にエリカとクラルは寂しそうに答える。
「あれ? 他の三人は?」
『…………』
「何かあったの?」
『…………』
トシカリとエリカの質問に三人は無言という反応をする。
「ねぇ! 早く言いなさいよ!」
「おい、やめろ!」
なぜか鏡子の胸ぐらを掴み、エリカが詰め寄ったのでトシカリがエリカの腋に自分の肘を押し入れる。それで彼女の肩を持ち上げて、鏡子から離れさせる。
「何を隠しているの? 早く言いなさい!!」
「そうなの? 鏡子ちゃん。エリカが言う通りに何か隠しているの?」
「…………はい」
「なら言ってもらえるかな?」
「数ヶ月前の記憶は戻ってないと思います」
「なら、何を隠しているの?」
「もしかすると、彼ともっと前……学校に入る前に関わったことがあるのかもしれません。でも、その記憶がわたしにはありません。彼と接触してそのように思いました。だって、彼の動きは蘭駈家の動きに非常に似ていました」
「学校に入る前ということは確か鏡子ちゃんは中学で入学したから、三年以上前ということだよね。でも、そうなると簡単に忘れるモノかな?」
「わかりません。ですから黙ってました。隠していてすみません」
鏡子が本当に申し訳なさそうに謝罪した。おかげでエリカは怒りが収まったのか、大人しくなった。
「次は二人に聞いてみようか」
彼はそう言うと黙っていた二人を見る。
ミレイはいつも大人しいので気にならなくてミリカはいつも騒がしいからもしかしたら、どこか悪いのかと心配になりエリカは二人には詰め寄らなかったのだ。
「もしかすると、記憶が微かに戻っているかも……」
『っ!?』
ミレイのその言葉にミリカ以外のそこにいる全員が驚きで目を見開いた。
「優しかった」
ミリカのその単語を聞き、驚きを隠せない。でも、仕方がない。生徒会や風紀委員長にはよく彼の悪評が耳に入ってくる。その中に、よく貴族を馬鹿にするというのも入ってくる。この貴族ばかりが通う学校にすれば前代未聞だ。そんな彼が貴族に優しくしたのだ。それは驚きも隠せなくなるのが普通だろう。
「彼はゾンビよりも動きが単調と言ったわ」
ミレイのその言葉を聞いて、彼女が立てた記憶が微かに戻っているという可能性が高くなった。
「でも、きっとアレは一時的なものよ。ゾンビのことを言った時もだし、ワタクシたちに優しくした時も不思議そうな顔をしていたからよ」
「今回はミレイの仮説が一番高そうだね。以後も気をつけて監視しよう」
トシカリの締めの言葉に全員が頷く。
「監視かよ。やっぱり貴族様は悪巧みしないと気が済まないんだな」
その言葉を発した主に全員の視線が向く。そこには話の題材であった志水圭兎がいた。
♦︎
靴を履き替えると生徒会と風紀委員長が何か真剣にまだ話をしていた。だからこそ、彼は邪魔をしたいと考えて、通りすがりに何かの発言をしようと考えた。そんな時にちょうど「以後も気をつけて監視しよう」という言葉が聞こえて来た。
彼にとっては本当にベストタイミング。だから、見下している目で貴族たちに話しかけた。
「圭兎……」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「圭兎くん」
「黙れよ」
トシカリとミレイが彼の名を呼んだが、冷たく言い返す。その間にエリカと鏡子が近づく。
「ねぇ、微かに記憶が蘇ったって……」
「本当ですか?」
二人の言葉を聞いた瞬間に彼の目つきがスッと鋭くなるのを感じる。
「記憶って四ヶ月前のことか?」
コクリと頷く。それを見て、問い詰めるような目に変わる。
「どうして俺の記憶がないことを知っている? 答えないだろうが、俺とお前らの関係はどんなだったんだ? どうして記憶がなくなったんだ?」
矢継ぎ早に質問する。その質問に答えないためか全員が顔を伏せる。しかし、すぐに一人だけ顔を上げる。
「おい。ミソンジ。何か言いたそうだな?」
圭兎の言葉を聞き、顔を伏せていた全員が驚いた表情のままトシカリの方を見る。
「僕らと君は仲間だった。記憶は、ある研究者によっめ消された。その瞬間を僕らは見ていないけど、君を見てわかった。これが君の質問に対する答えだよ」
「俺とお前たち貴族が仲間? はっ! 笑えない冗談だな。どうせ、俺に何かしらの実験をしたら記憶が飛んだというところだろ? 何か違うか?」
「全く違うっ!」
「嘘をつくな。貴族共は俺ら平民をただの道具としか思っていない。それが事実だ。否定したいのなら貧しくて今にも死にそうな平民たちに施してやれよ。どうせできないのは知っている。貴族は傲慢で自分たちのことしか考えていないからな!」
言い捨てて圭兎は貴族たちから離れた。
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「圭兎……」
去っていく彼の背に聞こえないほどの大きさでトシカリは呟く。離れていく彼には届いていない。でも、近くにいた五人には聞こえていた。だからか、トシカリをジッと見つめる。
「わたしついて行きます」
「うん。頼むよ。でも、エリカと一緒にね」
「はい。わかりました」
「喧嘩しないように。特にエリカ」
「うっ! ……はい。わかりました。二人で彼のあとを付けます」
トシカリがコクリと頷いたのを確認してから、鏡子とエリカの二人はバレないように圭兎のあとをつける。
そんな二人を、残された四人が見送った。
「さぁ、僕たちは帰ろうか」
残された彼の言葉にその場にいる全員がコクリと頷くと帰路に着いた。
「頼みましたよ」
ボソッとクラルが呟いた。でも、その声は誰にも聞こえなかった。
今回で日常回は少しお休みです。
次回から、滅亡世界回に入ります。
ようやく本編入りですねw