第四話:馴れ馴れしい二人
圭兎は再度眠るための場所を探して、学園を彷徨うことになる。
丘道学園はとてつもなく広いので、まだ誰も知らない静かな場所を見つけられるかもしれない。そんな淡い期待を胸に渡り廊下を歩いている貴族たちから、かなり離れている。
数分後に彼は本当に静かな場所を見つけてしまった。そこには様々な倉庫が設置されている。授業中なら騒がしいだろうが、今は昼休みだ。そんなところに誰も近寄ろうとしない。
悪さをしようとしている輩以外は。
もし、そんな輩がいても、校内でも邪魔な存在なのでボコボコにしても問題はないという結論に至った。でも、人気はなかった。
「さて、どこでくつろご……いや待てよ。ここは体育倉庫だ。もしかしたら、貴族どもが不純異性交遊をしているかもしれない。もし見てしまったら、面倒臭いことになるかもしれないぞ」
「そこで何をしているの?」
「っ!?」
突然、聞こえて来た声に慌てて振り向くとそこには鋭い目つきで、緑色の瞳で彼を見据えている、桃色のいかにもお嬢様らしく毛先にバネのようにカールがかかっている女性と、無邪気そうなクリクリとした藤色の瞳で圭兎よりも短い銀色の髪を持っている少女がいた。その二人のことは彼でも知っている。
桃色の髪の方は先ほど出会った鏡子と同じで生徒会の副会長を務めている高三のミレイ・レイシン。
銀色の髪の方は積極的に生徒会活動に参加していて、生徒会の執行委員を務めている中二のミリカ・リンジカ。
「M.Mコンビがどうしてこんなところにいる?」
「M.Mコンビ?」
「知らないのか? やっぱりバカだな。仕方ないから教えてやるよ。お前ら二人の組み合わせだと、周りでよく言われている愛称だ」
「愛称ということはあたしたち好かれているということだよね!」
「チッ! 来んなっ!」
ピョンピョンと飛び跳ねながら近づいて来たミリカに舌打ちをしながら彼は距離を取った。
「えぇー。そんなこと言わないでよ。圭兎お兄ちゃん!」
ミリカの言葉を聞いた瞬間に一気に寒気に襲われた。
「誰が誰のお兄ちゃんだって?」
「あなたがあたしのお兄ちゃん!」
明らかに怒気が含まれている彼の言葉にミリカは全く動じない。そんな彼女の反応を受けて、ある記憶が呼び起こされたが、すぐに首を横に振り記憶を掻き消して、ミリカを睨む。
「黙れ。それ以上喋ると殺すぞ」
「やれるものならやってみなさいよ。まあワタクシが邪魔をするけどね」
「そうか……よっ!」
語尾だけ強めて地に踏み込み、二人に駆け寄ろうとすると、何か危険を感じたのかミレイが突っ込んでくる。
明らかに彼女の方が動きが早いが、彼も駆ける。そして、こちらに駆けている間に腰に手をかけたかと思うと、隠し持っていたナイフと見間違うほどの大きさしかない短剣を引き抜いた。
さすがに本物の殺傷能力がある武器が出てくるとは思ってなかった彼は少しだけ動揺するが、すぐに心を決めた。
気がつくと彼女は短剣を逆手に持っていた。そんな相手に彼は素手で立ち向かわないといけないが、幸い先ほどの鏡子との小さな戦闘で、体が温もっているため言う通りに動いてくれる。
短剣を持っている手首を手刀で弾き落とし、すぐに何も持っていない片手でそれを受け取る。そのことに目を見開いていたミレイをミリカの方へ蹴り飛ばす。微かに「グッ!」という、うめき声が聞こえたがどうでもいい。
さすがに自分のところに来るとは予想していなかったであろうミリカは何もできないままミレイと衝突して、ミリカが下敷きになりながら二人して地面に倒れこむ。だが、それでは終わらない。
再度地面に足をついて、すぐに彼は彼女たちの方へと駆ける。そんな彼も駆けている間に短剣を逆手に持ち替える。そして、彼女たちに馬乗りになり下敷きにされているが、上向きになっているミリカへ振り下ろす。が、彼はあと一ミリでもズレたら瞳がぶっ刺さる場所で寸止めにする。
「これでわかっただろ? お前らを殺すことは俺にしたら容易いことだって。そもそも動きが単調なんだよ。まだゾンビたちの方が複雑な部分があったぞ」
言ってから彼は疑問に思った。
自分はゾンビと戦った記憶はないと。
不思議に思いながらも、ミレイに短剣を背中の上に乗せて返す。そして、当然ながらも自分自身は彼女たちの上から降りる。
「気をつけるんだな。それは失くしたら困るだろ。それと悪かったな。怖い思いをさせて」
「「っ!?」」
馬乗りされていた二人が息を飲んだ。でも、彼にとってはそれどころではない。
ーーなに貴族に優しくしてんだよ。俺はあいつらが憎いんだ。なのに優しくしてどうする? なんでいい貴族もいるなんて思ってんだよ! しっかりしろよ!
あまりの自分の意味不明すぎる行動に困惑して頭を掻きながら二人から離れていく。
「圭兎くんっ!!」
突然ミレイであろう声で自分の名前が……しかも、下の名前で呼ばれたので驚きながらもそちらを見る。
すると、なぜか半分泣きそうな表情をしているミレイがいた。それは恐怖からくるものか、またはそれ以外の別の何かからくるものかはわからない。でも、なぜか罪悪感が湧いてくる。
「記憶……戻ったの?」
「記憶……」
記憶という単語にスゴく引っかかりを感じるが、こいつらには関係ないと思い直して、引っかかりを無理矢理、頭の奥底に押し込む。でも、まるでその考えを否定するかのように頭が痛くなる。我慢できないほどではない。だから、なんとかバレないように二人から離れていく。さっきとは違い呼び止めようとはされなかった。それと同時にチャイムが鳴り響く。
「ヤッベ。どこでサボろうかな?」
別のことを考えるために口に出すと、脳内はクリアになり、すぐにいつも通りの屋上という結論に至った。