第十七話:悪魔討伐戦
圭兎は元の場所に戻ってきた。
どういう仕組みか本人もわかっていないが、どうしてか浮いている多種多様の武器を先ほどまでと同じように串刺しにする。
先ほどは痛覚が麻痺していたから、わからなかったが、死ぬほど痛い。その瞬間に眼球が取れた。こぼれ落ちた。全身串刺しよりも痛い。先ほどは痛覚が麻痺していたことに感謝したいくらいだ。
突然、圭兎の心臓が大きく脈打った。その瞬間に痛みも消え、意識も消え、視界だけが残った。その残っている視界に亜衣を捉えた。しかも、先ほどと同じように足元で倒れてくれている。
視界に捉えた亜衣の姿に目を見開くような気持ちになってしまう。でも、仕方ない。せっかく治したのに、また足に風穴が空いていた。つまり、完全に元通りになった。
そして、みんなが圭兎たちのことを見た。雨美は微笑んでいた。その微笑みからは冷たさしか感じ取れない。
「っ!? 音符になり損ねた存在は俺たちに敵対する新種の悪魔となった。全員! あの悪魔を狩れぇぇぇ!!」
隊長と呼ばれていた白髪の青年が亜衣の現状を見た瞬間にそう叫んだ。これで圭兎も彼らの標的になった。意識は乗っ取られているので、体が勝手に動く。彼が持つことを許されているのは視覚と聴覚だけ。それ以外は勝手に動いている。
視覚は眼球がないのに、なぜか見えている。だからこそ、自分が駆けているのがわかる。
複数の矢と銃弾が飛んでくる。それを体から引き抜いた片手剣で薙いだ。
「ッラァ!!」
青年が大剣を振り下ろす。それを片手剣で防ごうとしたが叩き折られたので、すぐに体から引き抜いたショットガンを脳天めがけて撃つ。しかし、毛先を数本犠牲に回避して、大きく後ろに後退すると、別の青年が近づいてきた。
圭兎の心臓めがけて弾丸を放ったが、彼が前に向けた手に持っているショットガンの銃口に見事に入っていく。暴発する危険を配慮してか、圭兎はショットガンを投げ捨てると、すぐに槍を引き抜いた。槍の突きで青年の相棒であろうショットガンを壊そうとしたが、大きく後退して回避される。
でも、投擲の要領で槍を投げるが、足に風穴が空いているのに立ち上がった亜衣に弾き落とされる。
彼女は圭兎の足元にいるので、先ほどの二人とは別の方角から攻撃ができる。先ほど正気だった彼に頼まれた三つ目の願いを実行するため躊躇はしない。心臓をめがけて突きつけるが、危機を反射的に察知した彼は彼女を蹴り上げる。
抵抗されるであろうことを知っていた彼女はそれを紙一重で避ける。すぐに追撃をする。相手を怯ませるためか、蹴りを繰り出した。彼は予想をしていたのか、余裕で回避する。しかし、そんなことも彼女にとっては織り込み済みだ。
銃剣で銃弾を放つ。それと同時に亜衣も駆ける。人間とは思えない速度だ。音速を超える銃弾と同じ速度で進んでいる。さすがにそれは予想外だったのか、大きく横に回避する。
銃弾は曲がらないが、人間は曲がることができる。音速だというのに亜衣は身をよじり無理にでも方向転換する。
「押してる! やれぇぇぇぇ!!」
白髪の青年は嬉々とした声色で叫ぶ。
「「『やめてぇぇぇぇぇ!!』」」
圭兎のことを知っているエリカ、鏡子、颯華悲痛な声色で叫ぶ。亜衣は彼女たちと同じ気持ちだ。でも、彼のホントの気持ちを知っている彼女は圭兎の願いを実行するために自分の気持ちを殺す。
「わたしは……願いを叶える兵器だ!!」
自分に言い聞かせるように亜衣は叫ぶ。
しかし皆、忘れていた。彼の背に生えている茎のような細さの翼の骨格のことを。
『コワス…………コロス…………スベテッ!!』
彼が唱えるかのようにゆっくり単語を紡ぐ。骨格がメキメキと音を立てて成長する。その間に亜衣は彼にたどり着いた。だから、剣を突きつけた。速度は凄まじいので避けることはできない。自分は彼を殺す。そう確信した。
だというのに避けることのできないはずの彼女の剣は空を切った。圭兎の姿が消えた。そのせいで速度が落ちなくて、そのまま真っ直ぐ進む。
そんな彼女の横に現れたかと思うと、思いっきり顔面を蹴り、吹き飛ばした。彼女の速度が足されて、とてつもない速度だった。彼の足の骨が折れたようだが、すぐに治った。彼女は白髪の青年の足元まで吹き飛ばされた。
完全に顔面が潰れていた。これで生きていたとしても、女として死にたくなるだろう。首が吹き飛ばなかっただけ、まだマシな方だ。
彼女はわずかに腕を動かして、顔に銃剣をかざす。すると、圭兎の超回復と同じ……いや、それ以上の速度で全回復した。彼女の体には傷一つもなく、あちらこちらボロボロになっていた服は新品と同様になった。
「さぁ、圭兎。軽総都様の元に帰ろう」
雨美は彼に笑顔で手を差し伸べた。
戦う意思がないのに完全に化け物にしか見えない彼に近づけただけでも、異常なのに笑顔なのだ。正気とは思えない。いや、感情があるとは思えない。
その場にいる誰もが圭兎は腕を掴むと思ったが、ニタリと笑うと雨美の体を縦に真っ二つにした。
彼女は目を見開いている。雨美がやられたせいか、音符どもも消えた。