第十五話:地龍との戦い
雨美が呼び出したであろう地龍の咆哮を聞いて、エリカと鏡子は目を覚ました。颯華は放心してしまう。
「おや? お目覚めかな?」
「へっ?」
「こちらもか」
「っ!?」
二人の青年はそれぞれ担いでいる相手に声をかけたが、反応が薄い。
「離して!!」「離してください!!」
彼女たち二人は同時に暴れ出して、解放を求めた。不自由させるつもりがないのか、素直に二人を解放する。
「いやぁぁ。まさか地龍が出てくるなんてな」
隊長と呼ばれていた青年が呑気に呟く。その呟きを聞いたエリカと鏡子は疑問を浮かべる。でもすぐに、少し先にとても大きな生物がいるのを確認した。だからと言って受け入れられるわけがない。知らない人が大勢いるし、見たこともない存在が三体もいる。
「あれ? 圭兎は?」
知っていて、親しいと思っている人がいない。その事実が彼女たちにとっては信じがたいことだ。
「へぇー。あの音符になりかけていた存在は圭兎って名前だったんだ?」
「音符になりかけていた」
「存在?」
意味のわからないことを言い出した青年に二人は不信感を抱く。
「あ、あの人は一体どこですか?!」
不安になった鏡子は青年を追い詰めるように言う。しかし、青年はあっけらかんとして答えた。
「あの戦地さ。恐らく、無事ではないだろう」
彼の言葉を聞くと二人はその場でへたり込んだ。
「さぁ、二人とも地龍を狩るよ!」
「「オウッ!!」」
第一、第五部隊を指揮しているショートポニーテールの女性が、第二、第三、第四部隊を指揮している二人の青年に言うと元気な返事が戻ってきた。
「一人一体がノルマだから! ノルマ達成できなかった者は罰ゲームよ」
彼女が言うと二人はなお、やる気になる。
三人は地龍に向けて駆け出した。
三人の得物は率いている部隊にふさわしい。
第二部隊を率いている青年は鋼らしい銀色の刀身の大剣。彼自体、高身長でガタイがいいので、彼ならば軽く振り回すことができるだろう。
第三、第四部隊を率いている青年はショットガンで、日本でも使うことが許されているものだ。狩猟などをしている彼にしたら使いやすいだろう。
第一、第五部隊を率いている女性はどんな状況でもキチンと立ち回るための銃剣。弾の火力はショットガンに負けないほどの高火力。刀身は銀色。
大剣の青年はホントに大剣を持っているのかと思うほど、身軽に目標の地龍に近づいて、相手が速攻を仕掛けてきたので、軽く前転して回避する。モグラだから縦に長い。だというのに彼は地龍を登っていき、ツノにめがけて大剣を振り下ろした。しかし、硬いからビクともしない。
「チッ!」
舌打ちをしながらも、このままだと振り落とされるので地龍の目玉に大剣をぶっ刺す。だというのに地龍は叫び声一つすら上げない。
ショットガンの青年は内部から破壊しようと試みることにした。地龍はやはり速攻を仕掛けてきたので、それを横に飛びながら回避をする。けれども、すぐに凶悪な爪が生えている足で攻撃を仕掛けてきたので、慌ててスライディングで回避する。運がいいことに滑り込んだ先は地龍の下だ。
だからこそ、彼はショットガンを無理矢理体に押し入れた。もちろん、銃口が体内にある。そこで発射した。だけど、地龍は声を上げない。
銃剣の女性は地龍の速攻を刀身で受け止めた。でも、勢いがあったので押される。それを好機と見たのか地龍は近づいた。それだけなのに地響きがする。
地響きのおかげか勢いが殺されたので止まる。彼女はジャンプした。それだけなのに地龍の腹のあたりにたどり着いたので、剣を突き刺す。重力を利用するため下に体重をかける。すると、彼女の狙い通り腹が裂かれる。それだけだと生き残る可能性があるので、弾を発射しながらだ。
彼女が地面に着地する頃には地龍の腹は真っ二つになった。でも、それも少しの間だけだ。
彼女が倒したと思った瞬間に、まるで絶望を相手に植え付けるかのような速度で回復した。そのせいで少しだけ彼女の集中力と戦意が削がれる。
彼女だけではない。自分の攻撃が通用しないとわかった青年二人も同じ状況になっている。
このままだと、いずれ三人は殺される。三人が殺されたら、繁殖の悪魔こと雨美と彼女によって作り出された音符の悪魔に挑んでいる、みんなの戦意もなくなる。それはただ、滅ぼされるだけの未来を待つのと同意味だ。
三人は足掻き続ける。その足掻きが無駄と知りながらも。足掻いていると、いずれは勝てるかもしれない。確信はない。だけど、三人は足掻くしかない。
何度目になるかわからないが、地龍に吹き飛ばされた。そして、何の因果か何度目かの女性が吹き飛ばされた先は圭兎がいる場所だ。
今の彼女は着ている服もボロボロ。そんな状態で彼の足元で転がることになってしまった。
彼女は見た。全身を貫かれているはずなのに微かにだが、動いた彼を。気のせいかもしれないと誰もが思うが、なぜか気のせいな気がしない彼女はジッと圭兎を見る。
すると、彼は恐らく自らの意思で、自分に刺さっているショットガンを引き抜いた。
彼女は素直にあり得ないと思った。でも、あり得るのだ。そんな彼女の前でまたあり得ないことが起きたのだ。
青年が持っているものとは違う、ショットガンを構えると地龍に照準を定めたのだ。そして、発射した。着弾する前に残りの地龍二体にも同じように発射した。
そして、着弾した。そこまでなら誰でもできるし、あり得ないことは少ししかない。でも、地龍は圭兎が放った弾が着弾するとボロボロに朽ちたのだ。
「あり得ない……」
そう呟かずにはいられない。それほど目の前の光景は現実離れしているのだ。
次の彼の行動に思わず「えっ……」と女性は声を漏らす。
圭兎は女性の右太ももをショットガンで撃ったのだった。