第十話:瓦礫の中から
滅亡世界のある場所で、ビルが崩れた。いや、正確に言うと崩された。そんな瓦礫の山から二つの出っ張りが現れた。
出てきたのは砂埃などで汚れているが、無傷の茶髪の少女と同じ状態の黒髪の少女だ。
「ケホッ! ケホッ! だ、大丈夫?」
「ギリギリ無傷です」
「そう。よかった」
「あれ? お二人は?」
「えっ?」
二人は辺りを見回す。しかし、あるのは瓦礫とゾンビの大群だけ。二人が求めている姿はどこにもいない。
「嘘……でしょ?」
茶髪の少女エリカ・タンダクは水色の瞳を見開いて、呆然としている。その横で黒髪の少女蘭駈鏡子は瓦礫をどかして、二人を捜索している。
いつの間にかどんよりと曇っていたが、明るかった空は、雲が晴れ、茜色に染まっている。それでも二人は瓦礫を一つずつどかして、探す。
かなり汚れているが、全く気にしない。きっと圭兎が今のこの二人を見ると、悪態をつきながらも、少しは優しくなるだろう。彼が思っているであろう貴族はこんなことをしないからだ。ゾンビたちはなぜか、瓦礫に入らない。瓦礫に近づくとまるで、結界でもあるかのようにゾンビたちは近寄れない。
すると、瓦礫のある部分が、ガサゴソと動いた。聴覚と視覚でそこを発見した二人は同時にそちらへ駆け出す。たどり着くとそこで起きている状況を発見して、二人は固まる。
「人が心配して探している間に何をやってるのよ! あなたたちは!!」
エリカは思わず叫んでしまう。でも、仕方ないことだ。
颯華が裸になっている。圭兎が着ていた学ランもワイシャツも全てボタンを外されていて、インナーシャツは捲り上がっている。その状態の彼に抱きついていて、さらに口づけもしている。
鏡子もその状況を見て「はぁ」とため息をつきながら、諦めているがエリカとは違い、異変を感じた。おかげで嫌な予感もしてきた。
まるでその予感が正しいと証明するかのように颯華は心臓マッサージをやり出した。そんな状況に二人は慌てて駆けつける。
「「そ、そんな……」」
圭兎の姿を見て、二人は顔を青ざめながら同じく反応をした。
今の彼の状況は悲惨そのものだ。微かに体が上下しているから、呼吸はしている。しかし、本当に微かなので、いつ止まっても遅くない。それだけではなく、体の半分が火傷を負っていて、全身に瓦礫の破片が刺さっている。それを治そうとしているのか、黒いよくわからない文字──呪いが全身にめぐっている。
呪いに生命力を吸われているのかと思ってしまう。なぜなら、その呪いの文字は脈動しているからだ。それも正常な心臓の鼓動と同じペースでだ。そのため応急処置をしようにもできない。
「一体これは何があったのですか?」
内心かなり動揺しているが、鏡子は落ち着きを装って、颯華に聞いた。
『爆発が起きたのは知っていますよね?』
「はい」
『呪いを肩代わりした影響で、私が動けなかったのです。あのまま潰されても実体はありませんから、どうということもありません。しかし、この方の性格を忘れていました。毒を吐きながらも、命が危ないのなら助けてくれる性格を。そのせいで、彼は私を下敷きにし庇い、この怪我を負ったのです。
どうやら意識が失っていた私が、気がついたのはつい先ほどのことです。その時はすでに肌も冷たくて、こういう状況でした。私が裸の理由は肌を合わせれば、他人を温められると思ったからです。実際に私が着ていた衣は露出が少なかったですから、こういう状況になっているのです』
鏡子の質問に颯華は長々と答えた。その直後に結界が破られたのか、ガラスが割れた時みたいにパリーン!! という音が聞こえてきた。
ゾンビたちが瓦礫に侵入してきた。その瞬間に圭兎が颯華を押しのけて、立ち上がり、ゾンビたちの方へとふらふらとした足取りで向かう。
「誰も殺らせやしない。俺は二度と逃げない。俺が守る。俺が守らなくちゃいけないんだ。俺が……俺がっ! みんなを守らなくちゃいけないんだっ!!」
吠えるとゾンビたちの方へ、手に妖刀罪殺を強く握りながら向かった。そんな彼の目に光はない。つまり、今の彼は無。何一つ考えていない。
本能の赴くままに敵を蹂躙する兵器と化している。……いや、違う。守るために敵を蹂躙する兵器だ。今の彼に本能なんて存在しているか怪しい。
もしかすると、今の彼には三人が昔に守れなかった母と双子である妹に見えているのかもしれない。そして、ゾンビたちは父を含めた四人を殺した貴族に見えているのかもしれない。
「うわあああああああああああああああああああああっ!!」
彼はまるで泣き叫ぶかのように叫んだ。すぐに近くにいたゾンビを斬り伏せた。的確に脳だけを狙っている。元人間であろうゾンビたちは防衛本能が残っているのか、そんな彼を見て、少し後ずさりしている。しかし、今の彼は容赦がない。逃げなんて絶対に許さない。
案の定、逃げようとしたゾンビから殺していった。まるで瞬間移動でもしたかのような速さだった。
そんな凄まじい速度だったせいか、千はいたであろう数のゾンビたちを蹂躙するのに一分程度しか、かからなかった。
ゾンビたちを蹂躙し終えると、電池が切れた人形のようにその場で倒れた。
先ほどの戦闘を呆然としながら見ていた三人は慌てて、倒れた圭兎に駆け寄った。