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企画参加作品群

タナバタマツリ

作者: 灯月公夜

これは【七夕小説企画『星に願いを』】の参加作品です。七夕企画と検索すると、他の作者様の素晴らしい作品に出会えます。


調子にのって、短編でも参加しました。

この七夕企画の小説の中で、異色の光を放てればいいなぁ、と思いつつ。

よろしくお願いします。

 昔。此の地に星の加護を受けし、二つの部族があり。

 片や神々しい音色を奏でるハープを掲げしライラ族。片や雄々しく偉大な鷲を掲げしアークレル族。

 二つの部族。互いに歩み寄る事不可能なり。

 ライラ族は北、アークレル族は南と別れ幾年もの月日争う事必然なり。

 二つの部族、思うこと同じなれば、それ即ち一つの王座なり。

 積年の日々、両者は互いに争い傷つけい合い、争い絶える事を知らず。

 両部族、最後の力を振り絞りいくさをす。

 されど、戦は次第に熾烈を極め、それにより、国土は荒れ果て、草木の実りは失われ、幾万者もの屍が山と連なる。

 生き物の息吹が消えし無限の荒野。炎に抱かれ、黒煙と化す屍。その景色、黒き憎悪の海の如きなれば、その姿を見し人々、ただただ立ち竦むのみなり。

 両部族、等しく滅びの道を歩みける。


 或る時、白髪をなびかせ、一人の魔術師が現れる。

 魔術師、龍の如く轟く川に一本の槍を投げ込めば、直ちに轟音鳴り止み、その姿、清き清流の如きなり。

 魔術師、地面に膝を突きし、血塗れの両部族を眺め曰く、


『これより、彼の清流投げ込みし、神の使者たる白鳥の尾から生まれし槍、【デネブ】を手に入れし者を、向こう七年、此の地の王とす』


 晴れて部族の積年の血で血を洗う戦は終わりを告げ、此の地に確かに平和が訪れることとなりにけり――



     ◆



 そこで私は本を閉じた。

 何時間も活字を読んでいたせいなのか、体がひどくだるい。

 長時間座って、凝り固まった体をほぐそうと、私は木製の椅子の上で大きく伸びをした。

 ギシギシという木と木が擦れて、耳障りな音を立てながら、椅子の前足が宙に浮く。


「ふう」


 一息吐いて辺りを見回す。

 大した物は何一つない。

 食料が入っている大きな袋。今、私が腰掛けている木製の椅子。目の前にある同じく木製の机。その机の上には魚の油で作られた、小さなランプが、部屋中とはいえないが、少なくともこの机の上だけは十分に照らすほど明るく灯っていた。

 ふと視線を移すと、すぐ側に煌びやか装飾の施されている、我が一族に伝わる一太刀の刀が目に映った。また部屋の奥には、これまた我が一族に伝わりし神々しい鎧が一式、重々しいほどの威圧を放ちそこに座していた。

 私の居るこのテントも、移動できるように簡易式になっているが、それでも他の者のテントよりかは幾分豪勢な造りになっている。

 ナウルという大型の獣の骨格でこのテントの基礎を築き、滑らかな肌触りと暖かさで有名なヒィンリルという中型の獣の毛皮で壁という壁が覆われていた。

 お陰で幾ら夏という季節とはいえ、肌寒い夜の気温から私を護ってくれている。有り難い限りだ。


「……」


 椅子の前足を地面へ降ろし、私はまた机と対峙する。

 机の上には、一枚の黄ばんだ地図を初めとして、羽ペンやらコンパスといった旅には必要不可欠なものが最低限広げられていた。

 私はその中にある、一冊の私が先ほどまで確認のために読んでいた古い本を取り出した。

 もとは黒色であったであろうこの本は、今や所々傷んでおり、黄金の筆で書かれていたその文字は、もうほとんど剥がれ落ちてしまっている。

 その本をしばらく眺め、私はまた本を開いた。


 今から七百年以上前。北に住む我ら『ライラ族』と、南に住んでいた『アークレル族』は、この地を巡り争っていた。

 相互一歩も引かない我らの戦は、次第にその勢いを増し、熾烈を極めたという。

 当時の人々は、業火に焼かれる戦場を見てこう言ったそうだ。

 『ここには何もない』、と。

 そもそも我ら星の加護を受けし両部族は、古くから互いにこの地の繁栄を心から願っていた。

 初めこそ行き着く先が同じという事もあり、互いに協力関係にあったのだが、最終的に誰が王として皆をまとめるのかと口論になり、全面戦争へと変わってしまった。

 その結果、国土はおびただしい量のどす黒い血で塗りつぶされ、草木は枯れ、動物たちは行き場を失い、かつて繁栄を祈ったこの地は、命の息吹が吹かない不毛の土地へと変わり、両部族の無数の亡骸で埋め尽くされてしまった。

 この本によると、その死体の数は黒い波となり、遥か彼方の地平線へと続いていたらしい。

 究極のところ、我ら『ライラ族』と『アークレル族』はもはや引き返すことすらままならないところまで行き、滅びのときを迎えようとしていた。

 そんな時、どこからともなく一人の年老いた魔術師が我らの先祖たちの前に現れたそうだ。

 その魔術師は、真っ白な白髪を靡かせ、今にも滅びそうな両部族を見るや否や、今も当時も聖なる川として名高い『天の川』に一振りの神々しい白銀の光を放つ槍を投げ入れた。

 すると、龍の咆哮と呼ばれるほど凄まじい奔流を誇り、一度その川に身を投じればまず助からず亡骸さえ見つからないと言われた『天の川』の流れが、ぴたりとその流れを緩め、さながら清流のような静かな流れへと姿を変えた。

 その川を背に、白髪の魔術師は両部族を眺めこう告げた。


『この流れる清流に投げ込んだ、神の使者の白鳥の尾から造られた槍、【デネブ】を手にしたほうの部族の長を、向こう七年、この地の王と定める』、と。


 そして、その白髪の魔術師はいくつかの誓約を示し、両部族に承諾を促した。

 私たちの先祖たちはそれをアークレル族とともに承諾した。互いに滅ばぬための苦渋の選択だったらしい。

 だが、そうする事によって、一時的とはいえこの地に確かな平和がもたらされた。

 以来、今宵まで七百年間。我らは、七年おきにこの地を統べる王を決めるべく、定められた今日、七月七日の夜を争ってきた。



     ◆



「ベガ・ライラさま。そろそろお時間です」


 テントの外から私の従者が、私を呼ぶ声が聞こえてきた。


「わかった」


 それに私はそう答え、立ち上がった。

 その足で、奥に座す我ら一族に伝わる至高の鎧の前へと赴き、肩膝を折り、深くかしずく。


「我らが偉大なる先祖よ。どうか我に力を。我らを護り、我らの行く末を示す、星の導きを与え給え」


 私は顔を上げると、確かな歩みで一歩一歩、至高の鎧へと近づき、ゆっくりとこの手におさめると、我が身に繕い始めた。



 鎧をこの身に纏い終わると、テントから静かに夜の世界へと歩み出た。

 これから始まる決戦のための、古くから代々伝わる形に結い上げた長い髪が、夜風に撫でられる。

 横では私の従者二人が、私に深く頭を下げると、私の両脇を固めるようにピッタリと私の後を付いてきた。

 後ろの二人が持つたいまつに道を照らされながら、私はただひたすら前を向いて歩いた。

 木製の階段を一歩一歩確実に登る。

 階段の頂上の目の前には、のれんが下ろされていた。その僅かな隙間から外の様子が少し眺められ、確かな話し声も聞こえてきている。

 待ちに待った晴れ舞台。

 私は大きく息を吸い込み、吐き出した。

 次の瞬間。私は自らのれんを退けると、およそ万にも及ぶ群集の前にその姿を晒した。

 私は、群集すべてを見わたせる高さから、彼らを視界に納める。

 あちらこちらで炎が盛大に燃え上がり、彼らの顔を照らしている。

 皆、それぞれ思い思いの鎧を身に纏い、ある者は弓を、ある者は槍を、またある者は刀を、その手にしっかりと握り締めていた。

 私が姿を現した事により、今までがやがやと聞こえていたこの場所は、まるで水で打ったかのように静まり返っていた。

 眼下に広がる、そのあまりにも広大な光景に私の胸はさらに高鳴った。

 もう一度私は、群集をしかと、今度はさらにゆったりと全体を見わたした。


「聞け! 我らがライラの一族の者よ!」


 私は拳を固めると、あらん限りの声で万にも及ぶ群集に向かって叫んだ。


「我が名はベガ・ライラ。我こそが、古より継がれし『織女星』の正統なる継承者なり」


 私はそう言うと、ぐるりと群集を見わたす。

 皆押し黙り、一心に私の声に耳を傾けてくれている。

 自然と体にも力がこもる。


「今宵は皆の知ってのとおり、七年に一度の聖なる儀式の夜。我らは先の決戦で、苦しくもアークレル族に敗れ、王座を明け渡してしまった。だが、聞け!!」


 私はそこで一息ついて、辺りを今一度見回した。

 そして、力一杯拳を満天に輝く星空へと振りかざした。


「今宵、勝つのは我らライラ族である。皆の者、あのアークレル族の心に刻み付けてやろうぞ。我らの強さを。我らの雄叫びを。そして、我らが真の勝者であることを! 今宵、デネブを手にするのは、我らライラ族だ!!」


 大気が私たちの一族の雄叫びで揺れる。皆、手に手に弓や槍、刀といった武器を持ち、空高く掲げている。

 私は体を回転させ、それを背に受けながら階段を下りていった。

 いよいよだ。また、あやつと剣を交える事が出来る。

 階段を下りきった私は、目の前に準備されている純白の美しい毛並みをした、一頭の白馬の背に跨った。



     ◆



 白髪の魔術師が現れてから、ちょうど七百年。決戦は今夜で、実に百回を迎えようとしていた。

 最初に行われた決戦。それはまさしく、ただのいつもと変わりない戦だったと聞く。

 聖なる川と呼ばれた天の川は、私たちライラ族とアークレル族のおびただしい量の血で穢され、無数の屍で敷き詰められてしまったらしい。

 だが、実に七百年という歳月はたくさんのものを変化させる。その例に漏れることなく、この決戦もその長い歳月の中で大きく変化していた。

 まず初めに、何が大きく変化したのかと思いつくのは、この決戦がかつてとは違い『戦』ではなく『儀式』となったことだろう。いや、一種のこの地最大の祭りだとも言える。今では、この決戦の事を、それぞれの導き星の『織女星』と『牽牛星』にちなんで『七夕祭り』と呼ぶ者も少なくない。

 現に私たちが手に持つ武器は皆、刃を潰し、相手を切れないように加工されている。この加工は、もちろん相手の部族の人間を殺さないようにするためのものだが、それでもやはり危険を伴うので、甲冑の装備が義務付けられている。


 また、この『七夕祭り』はこの国の王を定めるものではあるが、昔ほど争われてはいない。

 だが、それでも王となるという事は、この上なく名誉あることに変わりはない。そして、この国を統べる者、即ち王に即位した者は、自分の部族はもちろんの事、自身とは別の部族をも自身の部族と同等に話しに耳を傾け、全力で取り組まなければ、それは末代までの絶大なる恥もしくは正真正銘の愚か者がする行為、と呼ばれる事になっている。

 一族の長である私にとっては、なにがなんでも避けたいものだが、そのぶんこの上ない遣り甲斐があるというものだ。

 そもそも、そんな風潮がなくとも王になった者はそんな事は絶対にしてはならないのだ。

 それは七百年前の白髪の魔術師が示した制約によるものである。仮に、その時の王が自身の部族以外の部族を虐げるような行いをすれば、直ちにこの地は大いなる災いに見舞われることとなるだろう。

 草木は実る事を忘れ、大地は見るも無残に荒れ果て、川の水は蒸発し、生き物が白い骨と化す。

 最初の決戦で勝利した私たちの先祖は、白髪の魔術師の制約を無視し、実に悲惨な仕打ちをアークレル族に強いた。結果、この地に大いなる災いが降りかかった。そのせいで、どれだけの命の灯火が失せたことか。それはまったくもって、過去を見ていない者には量り知れない。おかげで私たちの先祖である初代の王は、当然すぐさま失脚する事となった。しかし、王がその地位を降りても、災いは収まらず、それから次の決戦で新たな王が決まるまでの間、実に七年もの歳月を苦しむ結果となった。

 私は拳を強く握り締める。私はそんな愚かな行為はしないと、再び深く心に刻み付けた。

 七年という短い歳月で王が変わる、ということは多少のデメリットはあるがいい事の方が多かったように感じる。王が次から次へと変わるのは、実に大変で色々とややこしい事だらけだ。王が変われば、政策も変わってくる。万の人がいれば、万の考えがある。すぐに別の、新しい政策が生まれる。それによって、その時その時で、私たちはその王の考えに従わなくてはならない。だが逆に言えば、間違った政策、不必要な政策と判断されたものは、次の代ですぐさま取りやめにされるという事。また、王になった者は、前の王よりもより民に信頼される優れた王へとなろうとするので、本当に申し分ない。

 なんだかんだと私はこの国が素晴らしいと思う。現に他国には類を見ないほど、私たちの国は豊かでこの上なく平和だった。



     ◆



 胸が震えるような太鼓の音が轟く。満天の星空の下にたくさんのたいまつが灯っている。

 私は、純白の毛並みを持つ一頭の馬に跨って、後ろにライラ族を従えて、ただひたすら前へ歩を進めていた。

 目指すは決戦の地、天の川。

 もうものの数分で着くだろう。

 私は焦らず、ただただ前を向いて馬を歩かせた。私の背後には、たくさんの一族が大気を震わせるように太鼓を打ち鳴らし後を付いて来ている。

 もう少し。あと少しで、天の川へたどり着く。

 もうすぐ待ちに待った決戦の時。

 私は拳を強く握り締めた。



     ◆



「止まれ!!」


 私は片手を横に薙ぐと、後ろを歩く他の者に命令を下した。すぐさま大気を震わせていた太鼓の音が鳴り止む。

 私は目の前を睨み付けた。

 そう、ここは天の川。遂に着いたのだ。

 デネブの姿が見えない今の天の川は、凄まじい激流が流れていた。

 川の対岸を見やる。

 よし。まだ、アークレル族は来ていない。

 私はそれを確認して、ひとまず安堵のため息を漏らす。

 いつからか、前の年に敗れた一族が、勝利した部族を待ち構えるのが風習になっていた。

 静かだ。これを嵐の前の静けさと呼ぶのだろうか。

 誰も皆、緊張のためか押し黙り、物音一つ聞こえない。

 私は、頭上に輝く夜空を仰ぎ見た。

 そこには、なんともいえない広大で素晴らしい光景が広がっていた。

 輝く無数のダイヤモンドが、ぎっしりと暗い空に飾り付けられていた。明るさや色はそのダイヤモンドたちそれぞれ違い、くっきりと見える星もあればおぼろげに見える星もあれば、黄や赤、橙、青といった色鮮やかな星もあった。

 手を伸ばせば触れそうなほど近くて、私はまるでこの満天の夜空に包み込まれているような気がして、何故かひどく心が安らぐ。

 こうして星を見るのはいつ以来だろうか。最近は何かと余裕がなくて、星を眺める事をすっかり忘れていた。

 幼い頃は星を見るのが好きで、よく夜更かしをしたものだ。あの頃も、まるでこの広大で深いもう一つの海のようなこの夜空に、私という存在を余さず惜しまず、優しく包み込んでくれたような気がして、すごく安心していた。

 その気持ちは今も変わっていないようだ。本当にこの満天の星を見ていると、安心できる。

 よく見ると、頭上の満天の夜空の中でも、ひときわ輝く大きな星が見えた。そう、あの星こそが私たちライラ族の導きの星『織女星』だ。

 『織女星』。それは私に受け継がれし、神聖なる天上の姫君の名。私たちに古より伝わりし、大いなる幸福の名。

 私はこのライラ族の長として、『織女星』の名を穢すようなことがあってはならない。

 私は一度目を瞑り、星に願った。

 星に願う私の側を、心地よい風が、私の髪をイタズラに弄びながらけ駆け抜けて行った。


「明かりが見えたぞー!!」


 後ろにいる一人の兵士がそう叫んだ。

 私は、視線を煌びやかに輝いている満天の星空から、天の川の対岸へと移動させる。

 確かに、あれはアークレル族のたいまつの炎だ。風に乗って、段々と太鼓が轟く音が聞こえてきた。

 ドドン……ドドン……

 太鼓が轟く音が近づく。同時にたいまつの炎もこちらに向かって来ている。

 ドドン……――

 太鼓の音が鳴り止む。対岸のたいまつも止まる。


 ――いよいよか……


 私は大きく息を吸い込むと、対岸にいる現国王の『牽牛星』に向かって叫んだ。


「久しぶりだな、アークレル王!」


 叫びつつ、川のギリギリまで馬の歩を進める。

 すると、対岸で私の馬とは対照的に漆黒の毛並みをした一頭の馬に跨った男が現れた。


「その声は、ライラ族の長か。出来れば、アークレル王と呼ばずに、アルタイル・アークレルと呼んで貰いたいものだな」


 そう言いつつ、アルタイル・アークレルはにこやかに手を振りながら私に言い、言葉を続けた。


「この場で会うのは二度目、実に七年ぶりだな」

「そうだ。先の決戦で我々はそなたらアークレル族に遅れを取ったが、今宵はそんな事はない!」

「ほう。では、どう言うことなんだい、ベガ・ライラ嬢」


 私がそう言い返すと、アルタイルは興味深げに顎に手をやり、私を促した。

 私はこの男の、この自信に満ちた態度は好きになれない。だが、嫌いにもなれない。嫌いになれないのは、おそらく私がこの今の男のようになりたいの願っているからだろう。

 私は片手で髪を、横へなびかせるとアルタイルに向かって言い放った。


「決まっている! 今宵この『七夕祭り』を制し、新たなる王となるのは我らライラ族だ!」

「なるほど。面白い。受けてたとうではないか」


 私の先制布告をあの男は、いとも容易く受け流した。

 私は憎々しげに心の中で毒づきながら、あの男への更なる闘志を燃やした。



 ――――不意に、夜空からまばゆいばかりの光が天の川へ降り注いだ。



「遂に始まったか……」


 夜空から降り注ぐ光が、天の川を明るく照らすと、それまで激しい勢いで流れていた川の流れが穏やかになり、普段は辺りまである水位もだいぶ下がってくるぶし付近になった。

 そして、神の使者である白鳥の尾から創られた、白銀の一本の槍が、川の水位が下がった事によりその姿を現した。

 そう。あれが神聖なるこの地の王たる者の証である槍、デネブである。

 私は生唾を飲み込んだ。緊張で体の筋肉が強張り、所々汗が噴出している。

 だが、恐れはない。あるのは天を突き抜けんばかりの高揚だけだ。

 私はあまりに嬉しくて、押さえきれずに笑みを零す。


「皆の者! 武器を構え!!」


 私は大声を出しながら後ろを振り返り、後ろにいる兵士たちに命令を下す。


「よいか。今宵は我らが待ちに待った神聖な夜だ。思う存分暴れ、アークレル族の者どもに我らの強さをその胸に深く刻んでやろうぞ!!」


 およそ万にもおよぶライラ族の雄叫びが夜空にこだまする。

 私はそれを確認すると、腰に差していた刀を勢いよく抜き放った。


「行くぞ! 皆の者、我に続け! あのデネブを手にするのは我らライラ族だ!!」


 私は馬の腹を力一杯蹴ると、気合の雄叫びとともにあらん限りの速度で天の川の中へと出撃した。

 後ろから大気を震わすようなライラ族の兵士たちの雄叫びと、大地を轟かして私の後に続いて走ってきている音を背中で受けながら、私はただアークレル王を目指して馬を走らせた。


「やれやれ。とんだレディーだよ、君は」


 アルタイルはそんな私を見て、呆れるかのようにため息をついていた。だが、私の目は誤魔化せない。アルタイルは、私と同様興奮と高揚で顔を制御できていない。

 アルタイルは、口元をにやりと引き上げると、後ろに従えているほかのアークレル族へ向かい叫んだ。


「よいか皆の者! あの血気盛んなライラ族の挑戦を真正面から受けてたとうではないか! そして、思い知らせてやるのだ! 我ら一族こそが真のこの地の王者なのだと!!」


 行くぞ!!、とアルタイルも剣を抜き放ち、後ろで私たち同様雄叫びを上げる兵士たちを従え、天の川へ漆黒の馬を走らせた。


 見る見るうちに私たち、両部族の間は縮まる。

 あと少し……あと少し……

 私はもう、仮面をつけるのも忘れた。口の端を大きく釣り上げ、目の前から凄まじい速さで近づきつつあるアルタイルと目が合った。

 アルタイルも自身を御せてはいなかった。

 私は刀を振りかぶる。同時にアルタイルも剣を振りかざした。

 あと少し……もうあと少し……


「アルタイル! 覚悟!!」

「かかって来い! ベガ!!」


 私たちは同時に全力で刀と剣を振り下ろした――――




 ――――今宵は七月七日。この地最大の祭り『七夕祭り』の日。今、天の川という聖なる清流の中で、白鳥の尾で創られた白銀の槍を求め、それぞれ古より受け継がれし『織女星』と『牽牛星』の名を冠し男女が、七年という歳月を経て、再び出逢った。



ここまで読んで下さりありがとうございました!!


何とか期限ぎりぎりに投稿できました。ほっと一安心です。


何故かこの話は、連載の方の七夕企画を書いている最中に不意に思いついたので、主催者様に無理言って短編のこの話を書かせていただきました。


真っ赤な闘志の炎を感じていただければなぁ、なんて思っていたり。


もしよろしければ、感想などをいただければと思います。

本当に些細な事で十分です。


ちなみに作中に出てきた、『アークレル』と『ライラ』という言葉は、僕が持っている電子辞書で調べた『鷲座』と『琴座』の事です。

もちろん普通(?)に鷲座なら「the Eagle」で、琴座なら「the Harp」とも出てきたのですが、よく見るとその隣にそれぞれ「Aquile」「Lyea」という単語があったので、そちらを今回は使わせていただきました。

『アークレル』と『ライラ』は、電子辞書から流れてきた発音をもとに、そのままカタカナ語としてみました。何度も聞いたので、この発音でおそらく間違いないと思います。でも、もしも間違っていましたら、お手数ですが是非ともお知らせ下さい。すぐにでも直します。


最後に。この話を自身で読み返したところ、かなり至らなかったことに気が付きました。以後は、今回のこの作品の反省点を生かし、より良い作品を書けるように心がけようと思います。


よろしければ、連載でも参加した『星と巡り合いし、あの夏の夜に』も覗いてみてください。あちらは、一応ジャンルはファンタジーですが、だいぶ恋愛色が強いです。ついでに、軽くラブコメってます(笑)


それでは色々と書きましたが、今一度この物語を最後まで読んで下さった皆様にお礼も仕上げます。


本当にありがとうございました!!


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[一言] 企画参加者の光太朗です。拝読しましたので、感想を。 なるほど!!! と思いました。こういう形の「七夕祭り」、思いつきもしませんでした。もしかしたら賛否両論分かれるかもしれませんが、個人的に…
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