初恋 ~詩の裏の思い~
この話はフィクションです
内容把握
~原文~
初恋 島崎藤村
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
~現代語訳~
髪を結い上げてまだ間もない少女の前髪が
林檎の木の下に見えた時
前髪にさしている花櫛の
花のように少女のことを美しいと思う私である
優しく白い手を差し伸べて
少女が私に林檎を与えてくれたことが
少女に対して
恋心を抱いた始まりである
私の知らず知らずのうちのため息が
少女の髪の毛にかかる時
恋の盃に君の思いを酌んで
あなたの想いに酔っているのだ
~続~ 初恋
いつものように林檎の木の下へ行く準備をしていた。少年は少女から林檎をもらってから、毎日欠かさず行っている。少女もこの気持ちをわかってくれているのか、毎日来てくれる。でも、この気持ちも、もう破裂しそうなくらいになってきてる。母もそろそろ蹴りをつけてこいと言ってくる。よし、今日こそ絶対に好きだと伝えてやる。
林檎の木の下に向かう。少年と少女がつくったと思われる、道もすっかり道になっている。そして、木が見えた、結い上げたばかりの前髪が見えた、顔が見えた、全体が見えた。やはりかわいい。顔が熱い。赤くなっている気もする。恥ずかしい。少女の白い手にはいつものように林檎がある。少年が近づくと手を差し出し、林檎を渡してくれる。少女の顔が赤い。今日こそは絶対に好きだと伝える。
少年は少女の横に座り、いつも通りに他愛もない話をする。そして、話が終わり、静かになる。聞こえるのは、茂みが風で揺れる音だけだ。少女の顔を見る。少女はすぐに目をそらす。よし、言うぞ。
「あっ、あの……」
「……はい」
「……ぼっ、僕の……恋人になってくだひゃい!!」
……あぁぁぁぁぁ!!噛んだぁぁぁぁぁぁ!!あぁ、もう終わりだこんな大切な時に噛むなんて。絶対ダメなやつだぁぁぁぁ。少女の顔を見てみる。口が開いた。
「…………はい。」
少女の顔は、林檎のように真っ赤だった。
おわり