ドタバタ転生(1)
(もういやだ……こんな世界、こんな時代、無くなれば良いのに)
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私は咲森怜。
私は、家では両親に暴力を振るわれ、学校ではいじめがひどくなってきている。
いじめの始まりは些細なことだった。家での暴力のせいで上手く感情が出せなかったからだ。心の中で思っていることを言葉に出来なかった。ただ、それだけ。
それがクラスの中心の女の子の目に留まった。気付けばいじめが始まっていた。
死ね、うざい、消えろといった暴言は日常茶飯事。机に油性ペンで落書きされたり、教科書をゴミ箱に捨てられたり。今日は水をかけられた。教師は見て見ぬふり。厄介事に巻き込まれたくないんだろう。
もう、そんな毎日にうんざりしていた。だから、どこか遠くに行こうと思った。
さっさと死ねばいいんだろうが、私にそんな勇気は無い。
だから誰も居ないところに、誰にも見つからない所に行こうと思った。
思ったけど……。
ここは一体何処なんだ!!
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いや、確かに誰も居ないところに行きたいとは思ったけど。けど! 何もない所に行きたいとは思ってないよ!!
……え? ホントにどこ?
ちなみに私の住んでいた所は、かの有名な織田信長の城、安土城のあった滋賀県近江八幡市安土町だ。ここまで何もない筈はない。
どうしよう。そう思い辺りを見ようと顔を上げると……。目の前に人がいた。
「ッッッッッッッッッ!!」
突然のことで声にならない声をあげながら後ろに飛び退く。
「おう、やっと気付いたか。にしてもそんな驚かんでもなぁ……」
目の前の人の話を聞くにはかなりの間、ボーっとしていたようだ。それよりも一つ聞きたい事がある。
「あの……、ここって安土ですよね?」
「お前さん、そんなことも知らねぇでここにいたのかぃ!?
確かに見たことない格好してんな……」
最後の言葉に私は耳を疑った。
そして目の前の人の姿を改めて見てみる。
着物だろうか。こんなご時世に珍しい人もいる。その程度にしか思わなかった。
「大丈夫か? もしあれだったら俺の家に来るか?」
その言葉でハッとなる。
「いいい、いえ! そんなわけには!!」
何故か声が上ずったけど気にしない。
「そんなわけにはいかねぇ! こんなとこに女一人じゃどうなるかわからねぇから!!」
そんな勢いで諭されたから私も勢いでokしてしまった。
「ご迷惑おかけします。私は、咲森怜って言います」
取りあえず自己紹介。
「ああ、俺は……「秀吉様? 何してるんですか?」
丁度いいタイミングでもう一人現れる。
細身の女性のような顔付きの男性だ。
いい忘れたが、今まで話していた人は、野性味溢れる男性だ。
「あーっと、怜。こいつは竹中半兵衛。俺の部下だ」
へー。竹中半兵衛。確か、十六、七人で稲葉山城を落とした……、って、っえ!
竹中半兵衛って戦国時代の人だよ!? しかもその人の上司って…。え? 嘘だよね?
取りあえず確認しよう。
「竹中半兵衛って、あの今孔明の……」
「あー、うん。そんな風にも呼ばれてるね」
えええええええええええ!! え? ちょっと待って! 私、実は戦国時代大好きな歴女なんだけど、豊臣秀吉とか竹中半兵衛とか黒田官兵衛とか大好きだよ!?
お、落ち着け……。
「ってことはあなたは……」
「おう、俺は羽柴秀吉だ」
やっっっば!! 私、凄い人の家に行くことになっちゃったよ!!
ちなみに羽柴秀吉は、後の豊臣秀吉だ。
「……」
「えっ、な、なんかすまん」
突然私が黙ったから怒ったと思ったのだろうか。
そんなことはない。
「いえ、こちらこそすみません」
「ところで秀吉様。怜さんに何しようとしてたんですか? まさか、うわ「んなわきゃねぇだろ!! 何か考え込んでたから話し掛けたんだよ!!」
秀吉様、必死だなぁ。
顔、真っ赤になってるし。面白いな。
「頼むから半兵衛、この事はねねには伝えんとってくれ!!」
ねねさんは、秀吉様の正室。
浮気癖でもあったのかな?
「けど、秀吉様。怜さん家に連れて行くんでしたらどちらにしろ説明が要りますよね?」
ちょっ、秀吉様、あ、って顔してるよ。
「半兵衛ー、ねねに説明してくれんかー!?」
押し付けたよ。
何かもう、よく天下人になれたね。この人。
だからこそなのかな?
「何で僕が……嫌ですよ!?」
半兵衛さんの叫びは虚空へと消えていった。