一括か分割か
* 眠りに関する主張はあくまでも主人公の個人的な考えです。
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「要するに、主な都市での”眠くならない病”を解消したいんですよね? でも、私の場合、何がどうなって効果を発揮したのかなんて私自身にも判りませんよ?! つまり、2度目以降の成功の確率なんて計算さえ出来ない状況なんですよ?!」
「判ってます。 だから、該当地で眠ってください。」
「え?!」
「貴女の眠気が周りをも睡眠に引き込むというのが分析結果なんです。」
「……。」
帰還時空の説明の後、面倒事から逃げる口実を兼ねて質問すると、主席神官から思わぬ回答が……。 いや、確かにね、近くの欠伸につられて私まで欠伸が出るなんてのは普通に有るし? 欠伸をすればほぼ確実に眠気が訪れるのも普通だよね?! しかし、王宮どころか王都周辺まで有効って、そんなチートな眠気なんて聞いたこと無いし! 実際、元の世界ではそんなトンデモナイことは起こったこと無かったし!
ふわぁ~ぁ。 欠伸のことを考えてたら、ホントに欠伸が出てきちゃった。 あ、眠くなってきたかも。
そこで、ふと、さっきの話を思い出して周りを見る。 主席神官・大臣・侍女長、みんな平然としてる。 いや、主席神官は何か言いたそうだけど、少なくとも眠そうな人は居ない。
「ほら、眠くはならないでしょ?!」
「先刻ので寝足りてるからな。 あぁ、救世主様は無駄に眠らないように。」
「あ゛?!」
これで解放されると思ったら、大臣の言いようにキレそうになる。 『無駄に眠るな』?! 勝手に召喚して安眠(?)妨害しておいて、私の眠気で不眠を解消できたくせに、他の都市の不眠まで解消することを”お願い”する立場のくせに!!!
あぁ、もうっ! 怒りで眠気が吹っ飛んだわよ!
「言い方が良くなかったのは謝ります。 でも、外の警備兵は眠くなってる可能性が有るので……侍女長、確認と、必要な場合は交代の手配をお願いします。」
「はい。」
「それと、救世主様の眠気がとんだようなので助かりました。 まだ話は終わってませんから。」
本人の言葉のせいではないにしても、私怒らせといて、自分たちの話を押し通す気満々?! 主席神官、あんたも大概イイ性格してるよね!?
「主要都市の神殿めぐりでもしろって言う気?! 長期間拘束されるのはゴメンだし、魔法とかで移動できたとしても、いくら私でも、そうそう貴方達に都合良く眠って起きてと出来るとは思わないでほしいんだけど!?」
「馬車での移動にはお付き合いいただけないし、短時間内での眠っておきても出来ない、と……。 大がかりな魔法は研究中なので今のところ救世主召喚以外には存在しません。 でも、日常生活と同じパターンでなら、”眠くならない病”の解消に協力していただけるってことですよね!?」
「え゛?!」
「では、一時的に元の世界に戻って眠るときに該当地に直接来てください。」
「は?!」
彼らにとって都合の良いことばかり言うのに腹が立って怒りを込めてみせると、思いがけないことを言われる。 この世界での移動に付き合って時間を経過させるのではないかわりに元の世界と此方を往復しろと?! しかも、該当地に直行?!
「初代救世主様が最初に召喚されたのは当然ながら王都の神殿でした。 でも、次に召喚されたのは、最寄りの該当地の神殿です。 つまり、帰還後に再召喚した場合、魔法陣を作動させた場所に再召喚することが出来ると判明してるんですよ。 だから、該当地でお待ちしてますので、来てくださいね!?」
「なっ……!?」
「彼方と此方で時間の流れが違ったとしても、こちらで貴方の眠気の状態は確認できるので問題無いですよね?! それとも、往復が面倒なら馬車での移動に同行願えますか?!」
「……っっっ!!」
つまり、ずーっとコチラで付き合うか向こうと往復するか、あるいは往復によってコチラでの拘束時間を減らすかコチラでの移動を挟んだ(こまぎれの)問題解決に付き合うか……解釈の仕方で表現が変わってるだけで、一括か分割かを選んで付き合えってことよね?!
そして、私がどちらをも拒否したとしても、コチラで眠気の状態が判るから半強制的に召喚することが出来ると言いたいのよね?!
それって、ほとんど脅迫でしょ!! あぁ、もう、コイツら、どうしてやろうかしら!