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眠くなる方法  作者: 紫陽 圭
8/18

往復フリー?

 **********


「ということで、『送還結果も前例で確認済みだ。』の根拠を教えてもらえますか? その根拠に納得しない限り、私はこれ以上は話も聞く気は有りませんよ?」


 改めて大臣のほうに向きなおって話しながら、最後にチラリと主席神官にも視線を送っておく。 『大臣の説明の不足分や魔術的な部分は貴方が話しなさいよ?』との意味を込めたんだけど、彼が頷いたところを見ると意図は伝わったらしい。


「救世主殿ご希望の単刀直入な表現で言うならば、彼方あちら此方こちらとを行き来して救ってくださった過去の救世主様がそう話していたという記録が有る、ということですな。」

「はい? 本人がそう話していたと? しかも『彼方あちら此方こちらとを行き来』したと?」

「うむ。」


 『うむ』じゃないっ! 異世界を往復ってのもアレだけど、それよりも、要は自分たちの望みをかなえるために歴代救世主に往復そこまでさせたってことだよね? しかも、それを誰一人として自覚してないってことだよね?! その身勝手さにふつふつと怒りがく。

それを感じ取ったらしい主席神官の物言いたげな様子が視界に入らなければ、私はきっと大臣を怒鳴りつけてたと思う。

そして、怒りのままに妨害をねじ伏せて祭壇から帰還……あれ?もしかして私はそれでも良かったんじゃ?!

 すると、自己完結にひたってた大臣も嫌な予感がしたらしく我に返り、「詳しい説明もするから」と笑顔でなだめてきた。 その笑顔がとても胡散臭いです、はい。

私の言動にちょっとイラついてましたか。 少しは憂さを晴らせる嫌味を言ったことで自画自賛してましたか。 そして、ソレをさまたげられて再びムッとしましたか。 それらを笑顔で隠して温情を押し付けようって魂胆ですね?!

ほほぅ!? 極端な話、私は帰還さえ出来ればかまわないんだけど?! 放置したまま帰還してこの世界がどうなろうと少し良心が痛む程度なんだけど?! つまり、私は被害者であると同時に、こっちが上位なんだよ!


 と、そんな無言の駆け引きを察したかどうかは分からないけど、主席神官がおっとり説明してくれましたとも!




 実は、資料によると、『眠くならない病』は、建国以来ずっと一定周期で発症していた。

しかも、発祥の回を重ねるごとに、範囲は広がり患者は増え症状は重くなり、と悪化の一途を辿(たど)って……。 で、本格的に事態がヤバくなってきたと感じた何代目かの王が必死で解決策を探しまくり、悩みまくった結果として召喚された最後の希望が初代救世主。

 当然ながら、それ以前も、それ以降も、『眠くならない病』そのものの原因究明や対策その他の研究は行っており、いまだにかんばしい成果が出ていないので、救世主に頼る結果になっている。

その研究の中で、魔術で眠気を誘導するという案も有ったが……この世界の魔術は空気中の魔素を使って火をともしたり器1杯分の水をだしたりする程度のものしか存在しない。

魔素とは、魔力を含む不可視の粒のようなものと思われてるらしい。 不可視だから確認できないそうだ。

つまり、魔術による眠気の誘導などを思い付いても、実現可能かどうかはもちろん、どうやったら試せるかすら判らなかった。



「ちょっと待って! そんな状況でなんで召喚なんて大規模な魔術が実現できたのよ?!」

「神の慈悲、偶然が重なった奇跡、努力の賜物たまもの、血や涙その他の結晶。」


 主席神官の説明にツッコむと、答えたのは大臣。 その言い方はツッコミどころ満載で……。

大臣、あんた、神なんてロクに信じてないでしょ!? さりげないトゲは嫌味の続き!? それに何気なく先祖(?)自慢?!

思うところは色々有れど、いちいちかまっていては話が進まない。 とりあえずスルーして主席神官に目を向ける。




 驚いたことに、『神の慈悲』はともかくとしても『偶然が重なった奇跡、努力の賜物たまもの、血や涙その他の結晶』は事実らしい。

 大昔から有った魔術は、『火』とか『水』とか望みを書いた紙などに祈りを込めると、その上に『火』やら『水』やらが出てくるというものだった。 だから書いた物が可燃物だと『火』の場合は一緒に燃えてしまうし、紙の場合は『水』で文字がかすれたり消えたりする、などの事態が発生する。 それを歴代研究者が試行錯誤した結果、かまどに『火』を、掘った地面の底に『水』を、『刻み付ける』という形をとれば何度でも使えると発見。

 で、例の国王様の時代、『眠くならない病』の先の見えない研究と焦りに、なかば自棄になった研究者の1人が地面に希望を羅列して祈りを込めたら魔素が反応した。 それが、単語1つでなくても魔素が反応する可能性が有ると判った偉大な発見。

さらに研究を進め、研究者の心身の消耗度合いから、言葉(条件)が多いほど魔素の必要量も増えること、魔素の量は一度に祈る人数で調整可能なことが判明。 勢いがついた研究者たち───もともと研究バカ───は、『眠くならない病』の発症さえも好都合として研究に没頭。 邪魔の入らない神殿で色々試しまくって、史上初の『無からの発生』───救世主召喚───に成功した。



「……。 ホントに『偶然が重なった奇跡、努力の賜物たまもの』なんだぁ。」

「だから、そう言っただろうが!」

「今は(主席)神官様と話してるの!」

「むぅ。」


 なんか、走者一掃の逆転満塁ホームランどころじゃない怒涛の魔術発展に、なんて言っていいやら。 あまりのことに、得意げに口を挟む大臣に対して何も考えずに怒鳴り返す。




 そんな苦労の果てに呼び出した救世主だけど、安眠(未遂)妨害に怒ってフテ寝してしまい、周りが戸惑ってるうちに消えてしまった。 どこにいってしまったのかと慌てて探すも見つからず、翌日に再び召喚を試すことになった。

 で、翌日、『今度は話を訊いてくれる人がいいなぁ』なんて思いつつ魔術発動。 召喚されたのは前日の彼で、召喚主たちを見た瞬間に「せっかく還れたのに何してくれてんだ!」と怒鳴られ……。 なだめすかして話を訊いたら、還った先は元の世界の召喚前の時空だったらしい。

つまり、戻った次の瞬間に再召喚されたから尚更ブチ切れた、と。



「……そりゃ、怒るでしょ。」

「「……。」」


 はぁ~ぁ、と思わずこぼれた溜息の後で一言……そして初代救世主に共感。

主席神官と大臣は揃って無言、ただし、2人の醸し出す気分は違うようだけどね。

なんか、色々予想外すぎて、眠気が覚めたような、一眠りして頭をスッキリさせたいような……。

文中の『ふつふつと怒りがく。』は、煮えたぎってる様子を表したくて、敢えて、『沸々』という漢字を当て本来の『く』から変えてあります。

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