引き止めた理由
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「さて、『送還結果も前例で確認済みだ。』について説明してもらおうと思ってたんですけど。」
「うむ───」
「それより先に聞きたいことが有るんです。」
まずは大臣のほうに話しかける。 だって、きっと心の準備してるでしょ?
でも、その前に聞くべきことが有ったからね、主席神官に視線を移す。
「何故、引き止めたんですか? 効果が有ったんだから話をする必要さえ無いですよね?」
「……。」
「しかも歴代最高の効力と効果範囲なのも確認も済んでますよね?」
「………。」
「これで引き止めるなんて、元の世界に還せないのがバレるとマズイからだと思われてもしかたないですよね? それぐらい判ってて還るのを敢えて妨害したのは何故ですか?」
「…………。」
もしかしてと思いつつ訊くと、やはり沈黙が返ってくる。 しかも、質問するごとに俯き加減を深くして……。
謝意だか反省だかを表してる様子を見せて、その実、表情を隠す。 美形の憂いの効果を熟知しながら、場の空気を誘導しようとする。 あざとい。
え? 美形云々は屁理屈? いや、だって、あの理由で召喚したの、私が初めてじゃないからね?
しかも以前も引き止めたことが有ることを大臣自ら前例云々という言葉で明かしてるからね? 歴代の儀式進行は別人だったとしても、記録からノウハウを学んでたとしてもおかしくないし? そうでなくても、あの容姿に惹かれる女性達をあしらうことぐらいはやってきてるでしょ。
とにかく、動揺してる気配が無いってことは演技がバレることも想定済みってことで……。
「黙ってただけで嘘はついてないとかの詭弁は受け付けませんよ? 俯いて憐れみを誘って黙秘を許してもらおうなんて認めませんよ?」
ただ、答えづらい何かが有るのも事実っぽいので、敢えて質問を重ねることによって回答せざるを得ないような状況作りぐらいはやりますよ。 彼の策にのるとかでなく、事実を知るために。
「私たちの今までの言葉に嘘は有りません。 ただ、もう少し打ち解けてからのほうが本題に入りやすかったんです。」
「つまり、まだ何らかの目的が達成できてない、と?」
「はい。」
「まだるっこしいのは面倒だから、単刀直入に話して。」
「分かりました。」
で、その後の彼の話はというと……。
確かに想定外の効力と効果範囲だったけど、あくまでも王都周辺の話。 眠くならない病が国中に蔓延する中で大規模で重要な都市の機能に支障が出るのは特にマズイ。
だから歴代の救世主様には王都のみでなく最低数の都市も救ってもらってきた。 今回もお願いしたかったけど図々しい願いなのはわかってるので打ち解けてからと考えた。
けど、それを切り出す前に還ろうとされて慌てたら妨害する形になってしまっただけ。
要するに、「すごい強力だ」「範囲も広い」とついつい大喜びしちゃったから、なおさら「まだ足りない」と言いづらくなったところに、さっさと還られそうになって実力行使で引き止めるしか思いつかなかった、と。
でもって、私が引き止める前よりも口調は丁寧になってるし声は低くなってるしで不機嫌なのがよく分かったから、ますます質問に答えづらかった。
「還るの妨害されて不機嫌になるのは当然ですよね? それに私は眠るのが大好きなんです。 眠るだけで還れると聞いて欠伸で眠気の確認までして『さぁ還ろう』ってところを妨害されたんですよ? つまり、眠りに入ることも妨害されたわけなんです。 これで機嫌を損ねずにいられるほどデキた人間じゃないんですよ。 ってことで、覚悟を決めて事実を教えてくださいね?」
ふわぁ───と、また出てきた欠伸を噛み殺す。 うん、欠伸が出そうになるってことは、私の中も少しは落ち着いたということ。 ほだされたり流されたりしてやるつもりは更々無いけど、『送還結果も前例で確認済みだ。』発言を含めて説明を聞くだけ聞いてみよう。
もちろん、話を聞いた後のことは何も保証できない、とニッコリ笑顔で念を押すのは忘れないよ!