待って
**********
「1つ確認したいんですけど、私、元の世界に戻れるんですよね?」
混乱していた頭を整理しながら、真っ先に確認すべきことを単刀直入に訊いてみる。
だって、異世界召喚だよ? ラノベに色々パターン出てるじゃない。 送還には条件が揃うことが必要だったり? 還ってみれば時間経過が違ってたり? 別の異世界に送られる危険が有ったり? 還す方法さえ無かったり?
……あ、なんか、イヤなパターンのほうが多いかも、でもって悪いことは予想すると当たっちゃうかもしれないから考えるのはやめよう。
そこで、とりあえず、『元の世界に』を強調したうえで強い口調で訊いたわけで……。
「戻れますよ───」
「方法は?」
「召喚された魔法陣の上で眠るだけ───」
「分かりました。 おやすみなさい。」
強い口調のまま、言葉尻に重ねるようにして質問し、戻れると聞くと同時に即座に祭壇に向かう。 ふわぁ~ぁ。 うん、すぐにでも眠れる、問題無し。
だって、『元の世界に』を強調した質問に対して彼は『戻れる』と言ったのだ。 少なくとも別の異世界に飛ばされることは無い。
そして、話を聞く限り、召喚されてから今までそれほど時間は経ってない。
ってことは、ちょっとやそっとの時間経過の差なら、還ってから向こうで問題が発生する可能性は低い。
逆に、急いで還らないと向こうがどうなることか判らない。
この際、時代が違うほどの時間経過の差なんて、敢えて考えないんだから! 浦島太郎なんて冗談じゃない!
外国かも、とか、海の上だったりして、とかも、敢えて考えないんだから!
本当は細かく確認するに越したことは無いんだけど、訊いてる間に魔法陣を消されて還れなくなるとか、有りそうじゃない?! なんてったって、私の了承も何も無く、こっちの人の都合だけで、いきなり一方的に召喚してくれちゃった人たちなんだから!
しかも、還るための知識も手段も相手の手中にあるこの状況下で、妨害する暇を相手に与えるのはバカのすることだよね。 つまり、とにかく『元の世界に』戻ること、が最優先だよね!
しかも、眠るだけなんて大得意だし、悩む余地も無い。 ふわぁ~ぁ。
「待って! 必ずと元の世界に還すから! 時間も場所も同じところに戻れるから!」
「待ってください!」
「!?」
ふわぁ───出かけてた3つ目の欠伸が、思いがけない状況に、途中で引っ込む。
当然ながら引き止められるのは想定の範囲なわけで、素早い行動こそが大切。 主席神官の泣きそうな顔での送還保証宣言も、大臣の「話だけでも」発言も、本来の私なら無視してる。
だって、人生がかかってるんだから、自己中だなんて言わせない!
でも、女官長がね、「待ってください!」と抱きついて引き止めちゃってくれるもんだから、彼女を引きはがせないでいるうちに主席神官に祭壇前に廻り込まれちゃって……。 うん、女官長を引きはがすのは私には無理だったの。 もともと、マトモな女性には甘い───逆に大抵の男には色々キツい(カラい)───私だけど、実際問題として、自分より大柄な人に全体重懸けるようにして抱きつかれたら動けないのは当然でしょ。 で、そんな風に抱きつかれるとは思ってなかったから、その時の衝撃とか色々で欠伸が途中で引っ込んだらしい。
「話だけでも聞いていけ。 送還結果も前例で確認済みだ。」
「……。」
還り損ねたってことで、大臣の「送還結果も前例で確認済みだ。」から説明してもらおうと思います! 同じ人を再召喚して確認しない限り、証明できないハズのことを言い切ってるからね。
あ、もちろん、念には念を入れて、祭壇前を確保するのは忘れません!