何やった?
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「それにしても、素晴らしい力ですね。」
主席神官が誉め言葉らしきものを口にしてるけど、何が『力』とやらなのか私にはさっぱり分からなくて。
ふわぁ───出かけた欠伸をなんとか飲み込む。 だって、ワケ分からない話って、聞いてると眠くなるよね? でも、さすがに人前だからと飲み込んだんだけど、気付かれなかったのか気にしてないのか、目の前の2人は怒り出す様子もないので、私も素知らぬフリをすることにした。 だって、わざわざ、自分から事を荒立てる必要無いじゃない!
「記録の中で歴代最高の威力ではないのか?」
「そうですね、初めてのパターンでしたけど……。」
「ああ。 驚いたが、頭も身体も忘れかけていたほどのスッキリ加減だ。」
主席神官と話してる大臣と呼ばれるダンディ系イケメンも機嫌は良さそうなんだよね。
この大臣が、被召喚後の第2声め、『ようこそ、異世界の救世主。 体調はいかがかな?』の声の持ち主で、 見た目にピッタリの渋くて良い声は素敵。
そして、彼も『眠れる森の美男(笑)』だったうちの1人。 久しぶりの睡眠充足感とあまりにもスッキリした寝起きに、機嫌も気分もいいらしい。
「しかも、影響範囲の広さも歴代最高だと思います。」
「実に素晴らしいな。 後は回数や発動条件か。」
「はい。」
2人の話を聞くともなしに聞いてる私は、召喚された部屋にいまだに居るわけで……。
しかも、パジャマ代わりのルームウェアの上に、寝起きに掛けてもらったストールのみ。 いや、いつのまにか祭壇モドキから降ろされてたマットの上ではなく、椅子は用意してくれたけどね。
召喚された救世主って、普通は、別室で身だしなみを整えて応接室で説明、だと思うんだけど?!
大臣と主席神官の分まで椅子を持ち込んでまで、こうやってる意味は有るんだよね?
彼らの斜め右、彼らと向かい合って座る私の左前に近い位置に控えてる女官長様に向けて、色々な疑問を込めた視線を送ってみてもニッコリ微笑まれるだけだし……。
ふわぁ───、あ、また。 いつまで欠伸を噛み殺しながら待ってれば話は終わるのかな。
「お話し中にすみませんけど、力ってなんですか? 特に何かをした覚えは無いんですけど。」
ちょっと区切りがついたかも、って瞬間を逃がさず、声を掛ける。
「失礼しました。 力とは言っても、救世主の力は私たちにも分からないんですよ。」
「確か、救世主がもたらす解決方法も毎回異なるから参考にはならないんだよな?!」
「え?」
彼らは寝起き超スッキリらしいけど、私はそうじゃない。 もともと寝起きはボーっとしてるほうだし、眠ろうとしてたところに召喚されたから少しどころでなく機嫌は悪かったりする。
だって、私は眠るの大好きなんだから!
というのが本音である私の質問に対して、主席神官からは答えにならない答えが返ってくる。 分からない? あれだけ盛り上がって話してたのに?
「過去に使われた解決方法はいずれもこの世界での再現は不可能で、研究中の段階です。」
「今回ほど不可思議かつ不可抗力な力というのも記録には無いけどな。」
「……。」
さらに、『不可思議かつ不可抗力』という、なんか、かなり微妙な気分になることを大臣に言われた気がするんだけど、大臣の表情を見る限りでは悪意どころか怒りも感じられない。 逆に言えば、つまり本音なわけで、気分の微妙さが増したかも……。
「……で、私は何をやったんでしょう?」
状況が把握できてないので、まずは訊いてみる。
「え? ああ。 意識してやっては……いませんよねぇ。」
「そういえば……説明が要るのはそこからか。」
「はい、お願いします。」