馬車移動といえば……
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現在、ワケ有って、異世界で馬車に乗って移動中。
となると……
「あ~る~晴れた~昼下がり 神殿(市場)~へと続く道~
(荷)馬車は~ゴトゴト~ 私(仔牛)~を乗せ~て行く~
…… …… …… …… ドナドナド~ナ ド~ナ~ ……」
この曲を歌いたくなるよね。
とはいっても、状況を考えて歌詞の一部を替えたりハミングにしてるけど……。
「救世主様、その『ドナドナ』というのは呪文か何かですか?」
「違いますよ~。 私の国で結構有名な曲の歌詞です。 それがどうかしました?」
向かいの座席から聞こえてきたのは主席神官の質問の声。
つまり、目の前には異世界人(というか現地人)の同行者が居る。
そして、私は売られるわけでも強制連行でもない……ということで、不都合な歌詞は聞かれないようにしていたんだけど。
私のそんな考えには主席神官が気付くはずもなく、彼は言葉を続ける。
「歌詞の一部だったんですね。」
「???」
「何代か前の救世主様の記録にもその言葉が有ったんですけど、『ドナドナ』を繰り返す部分しか聞き取れなかったのか、そこしか書いてなかったんです。」
「あぁ、なるほど。 その救世主はほぼ間違いなく私と同郷で近い時代の人間でしょうね。 で、やっぱり馬車移動の時に思わず口ずさんでたんだと思いますよ。」
「(荷)馬車はゴトゴト 私(仔牛)を乗せて行く、だからですか。」
「馬車移動といえば、って感じなんですよ。」
「そうなんですね。」
馬車じゃなくて強制連行とかでも歌いたくなるでしょうけど……という言葉は口から出さずに呑み込む。
当時の状況も心境も判らないし、異世界に居る状態で現地の関係者とゴタつくのは悪手だからね。
いや、主席神官とかを明らかな敵として認定してるとかじゃないけど、眠ろうとしてたとこを邪魔(召喚)されたし? 今だって、元の世界に還ろうとしたところを引き止められたからこそ、ここに居るわけだし? 私が機嫌良いはずないじゃない!! というか、嫌味の1つも言いたい気分は続行中だったり……。
嫌味を呑み込んだのは、私の大人としての判断。 だって、元の世界では社会人してたからね、それも人間関係円満が重要なOLしてたからね。 あぁ、当然、元の世界に還るつもりだし、還ったらOL続行するんだから、”してた” って過去形は適切じゃないな。
もう1つ思ったこと、それは、その部分しか聞き取れなかったんじゃなくて救世主が歌詞を忘れてただけっぽいよなぁ、ってことだったり。 救世主を信じてるらしい当時の記録者とかの精神保護のために、これも口からは出さないけどね。
そんなことを話したりしてるうちに、気が付けば目的地の神殿に着いていた。
……ふわぁ~ぁ。




