再会
教室に帰ってくる頃には1時限目の授業は終わっていて休み時間にはいっていた。皆思い思いに過ごしていた。
お菓子を食べている者もいれば、ジュースを飲んでいる者もいる。寝ている人だっているし友人と仲良く話している人だっている。
とりあえず、自分も席に……あ、そうか。まだ用意されていないんだったっけ?
次の授業の心配をしていると。
「よ、転校生!どうしたの?」
と少し長めの髪の毛をポニーテールに結んだ女の子が俺に声をかけてきた。
最初、教室入った時、チラッと見た時に席のちょうど列の真ん中当たりにいて、好奇心旺盛な目で見られていたのを覚えている。
だが俺はまだクラスの人の名前を誰も知らないので、とりあえず名前を聞くことにした。
「…君は?」
「アタシは虎門 朝乃。朝乃って呼んで。よろしく!君の名前は空宙であってたよね?」
「あってるよ。よろしくな、あさのん」
「なんかそう呼ばれるとくすぐったいな、あはは……」
と、本当にくすぐったそうに呟いていた。
「そうか?あさのん、あさのんあさのんあさのんあさのん……」
あさのんは、顔を真っ赤にして、大声を張り上げた。
「だーー!恥ずいから、あさのん禁止!」
禁止されてしまった。
聞くと彼女は陸上部に所属していて、インターハイに出場するほどのエリートらしい。
性格は男女分け隔てなく誰とでも仲が良くできて、まさにクラスの中心のような子だ。
そしてようやく恥ずかしさから解放されたのか、あさのんが尋ねてきた。まだ顔は若干赤いまんまだが。
「それで、空宙は何を悩んでいたの?」
「席をどうしようか悩んでた」
それに朝乃は「あぁ~…」と応えた。
「あの人忘れっぽいんだよね〜、普段はしっかりしてるけど時折ね〜……」
どうやら、晴華先生はドジっ子属性らしい。
うん、新米教師のテンプレでとても萌えると思うよ。
「とりあえず、せんせぇー所に行こ?本当は机持ってきてあげたいんだけど、アタシ場所わっかんないんだよねぇ~…あはは」
「なら職員室に行ってくるよ」
すると朝乃が「アタシも行く~」て言い出したので一緒に行くことにした。
教室から出ようとすると、廊下の方からドタバタドタバタと何やらうるさい足音が聞こえてきた。
しかもそれは段々こっちに向かってきている。
俺はその足音に聞き覚えがあった。このテンポ、この速度。
間違いない。
「逃げなきゃ」
と俺はそう言って走り出そうとする。
「え?ちょっ、空宙?」
すると、あさのんの出した疑問の声を断ち切るかのごとく、走っている本体が叫びだした。
「そぉぉ~~~~~らあぁぁ~~~~~!!!!」
それの正体はーー俺の姉、日向だ。
俺は逃げようとした所で姉に抱きつかれ更にはその勢いを殺しきれずゴロゴロ転がった挙句、馬乗りの態勢になったて倒れた。
現在、俺は廊下で姉に押し倒されている。
「空宙ぁ~、あぁ空宙だよ~、クンカクンカ、はぁ〜懐かしぃ空宙の香りだよ~、あぁ空宙~、空宙~!」
「ちょっ、ひゅう姉!?わかったから離れて離れて!!」
「やだやだぁ!絶対に離さない!もう絶対離さない!一生養ってあげるんだからーーー!!ぎゅ~~っ!!」
いや、もーん、て。しかも一生養うって………悪くないかもしれない。
ひゅう姉は頑なに離そうとしない。
もう2度と手放すまいかと言うかのように、腕にめっちゃ力をいれて俺に抱きついている。
そしてその重圧と一緒に柔らかいものが俺の胸の上で押し潰されている。
あれ!?ひゅう姉4年前の胸は安心できるほど全然だったのに。ヤバい。ちょー柔らかい。4年で女の子の胸って結構成長するもんなんだな。
「ちょ、姉さん!いきなり走り出したかと思えば、空宙と叫びだして、一体どうしたんでっーーーて、兄さん!?」
我が家の理性の月奈の登場だ。
俺は姉にもみくちゃにされながらも月奈のほう(主に胸)を見た。
……こちらはとても安全圏である。
本当に同じ遺伝子なのかと疑ってしまうくらいのレベルだ。
「ふぅ〜」
俺は安堵のため息をこぼした。
「ちょ!?」
月奈は理解したのかバッ!両腕で胸を隠す。
だが残念。気づいてる?隠しても意味無いのよ?
でもおかげで、冷静になれた。
「ほら、ひゅう姉。どいて、公衆の面前でもあるからさ」
「あ、ごめんね、空宙」
ひゅう姉が俺のお腹の上からどいてくれたおかげで、ようやく立つことができる。
俺は、パンパンとお尻のホコリを払いながら立ち上がった。
そして、改めて懐かしの2人と挨拶を交わす。
「久しぶり、ひゅう姉。月奈。2人とも大きくなったな?」
素直に2人との再会を喜ぶ。
だって4年ぶりだぜ?喜ばずにゃいられるかよ。
「空宙の方こそ大きくなったよ~、顔も凛々しくなって。身長も私を抜かしちゃってるし…。もぉー惚れ直しちゃった!えへ♪」
素直に好意を伝えらてしまったので、少し背中が痒くなった。
そこに月奈も割って入ってくる。
「もおー、私だけ除け者にしないでください。これじゃ4年前と変わらないじゃないですか」
顔をムスーッと膨らませる。かわいい。
「そんなことないって、ちゃんと再会できてとても嬉しく思ってるよ?」
と、言いながら、月奈のほっぺをつつく。
おお!柔ら……かいっ!
それはマシュマロのようにモチモチとしつつも、押し返してくるようないい弾力性を備えていて……懐かしい。
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに………。
「ヽ(`Д´)ノ」
言葉にならない言葉で怒ってきた。
だが、俺は知っている。
これは照れ隠しだということを。
月奈で遊んでいると、今度はひゅう姉が割ってきた。
「今度はお姉ちゃんだけが除け者ぉ~!」
と、俺の腕をとるやいなや抱きかかえられる。
「本当にもう!すっごく嬉しいんだからねっ!」
蕩けそうなモチモチとした感触が腕に伝わる。
「わ、私も、寂し……かった…です」
それに対抗してか月奈も腕に抱きつき、引っ張ってきた。
月奈も!?
「いや、月奈はひゅう姉を止めるんじゃなくて!?」
「それとこれとは話が別なんです!」
と、2人に綱引きされる俺。
姉と妹にサンドイッチにされてるこの状況。
そして、腕に当たる胸。
とてもたいへんです。
いけないです。
なにが?
ナニが。
前もこのようなことはあったけれど、あの時はまだ俺も皆もまだ幼かったのがあるし、何も考えてなかったけれど、成長して気づく。
おっぱいって……イイ。
と、余程うるさくしていたのか、そこに隣のクラスの奴から苦情がきた。
そいつはつり目が特徴的なマスクをしたインテリ系の男だった。あれ?
「いい加減にうるさいな!全く、こっちが我慢してるとも知らずに、何廊下で騒いーーー」
キーンコーン。カーンコーン。
授業開始のチャイムが鳴った。
「………」
黙り込む、俺たち。
「続きはーーまた後でな」
☆
キーンコーン。カーンコーン。
と、チャイムがなると同時にさっきのマスク君が教室に来て、俺の席までヅカヅカと大股で歩いてきた。
ちなみに俺の席は知らぬ間に用意されていた。
まあ、誰が用意してくれたかはだいたい予想がつくけど。
用意してくれたであろう人に目を向けると、ちょうど目が合ってプイッと逸らされた後、ウインクしてきた。
その目線には、「今度何かおごりなさいよね?」という言葉が乗っかっている気がした。
そして、改めてマスク君に向き直る。
「さっきの続きをしに来た」
「待ってたよーーーで、何する〜?」
ガンっ!
マスク君が机を叩いた。
「やめろよ、これおニューの机なんだぞ!傷付いたらどうすんだよ!?」
「そんなこと今はどうでもいい!俺は……」
そこで急に顎に手をおき考え出し、呟いた。
「俺は……何をしに来たんだ?」
俺も彼に疑問をぶつけた。
「それな。なんで来たの?さっきの続きってさ、もう終わったくない?」
それに彼も反応を示す。
「いや、それはお前が続きはまた後でとか、言うから」
・・・・・・
2人の間に沈黙が流れた。
「「まいっか」」
2人揃って考えることを放棄した。
はい、この話おしまい。
☆
とりあえず、オレの前の席の人がどこかにいったので、そこに座ってもらった。
「とりあえず、名前聞いていい?」
すると彼はああ、いいけど、とマスクを直しながら答えた。
「俺の名前は轟 亮介だ。クラスは2年C組に所属している」
俺は開いた口が塞がらなかった。
その理由は。
「お前、亮介だったんか!?道理で見たことあるなぁ〜、と思ったよ!なっつかしぃーー」
「どうして、俺のことを?」
俺は言った。
「覚えてないか?空宙だよ。空宙」
その名前を聞いてピンッときたのか、椅子を倒し、後ずさりして指差しながら叫びだした。
「お、おまっ!おまっ!空宙か?空宙なのか!?マジか!!ってここにいるってことはお前もアルツユーザーになったのか!」
「ああ、まあな。にしてもホント久しぶりだよな。そういえばカレンは元気?」
亮介は椅子に座り直しながら説明した。
「実は1回カレン故障してさ、まあ、テトラ様のおかげで直ったはいいんだけど。一応ということで今は月に1度のメンテナンスをやってるんだけど、今はそれの最中だからさ、まあ、今度会えると思うぞ」
カレンとは亮介親父さんが造ったアンドロイドだ。
亮介の家は両親とも研究施設にいた。
母は息子を産んだあと、容態が急変して他界。
父は母親の代わりをと思って、母親似のアンドロイドを作ろうとしたんだが、父親の趣味(性癖)により見た目、性格ともに18歳くらいの美少女に造られてしまった。
その後、父親は満足そうに万遍の笑みをうかべながらの他界。
死因は、無理が祟ったらしい。
で、そこで造られたのがカレンだったというわけだ。
まあ、なんとも言えないが、亮介は1人ぼっちではなくなった訳で結構オーライというところだ。
それが10年前になる。
「そういえば、俺たちさ、あの頃よく喧嘩して勝負、してたよな…」
と、亮介。
「確かあの頃はアーツの使用は体育以外禁止だった。というか、俺がまだアルツユーザーじゃなかったから、ずっと素手で殴ったり蹴ったりしてたよな。それでよく、カレンに止められてたわ~。……あいつの拳骨はマジでシャレにならないほどヤバかったけど…」
と、俺が呟くと、亮介がこう言った。
「そういえば俺たち一応お互いが何勝何敗か一応数えてたんだけど、覚えてるか?」
そこで俺は昔の記憶を探る。……確か。
「俺のほうが1勝多かった気がする」
「ああそうだ。お前は最後勝って、勝ち逃げしたんだ。次会ったら、お前に勝ちたくてこの4年間、己を磨いてきた」
思い出した。
最後に喧嘩したあと、俺は親父の出張に付いて行くという名目で、紐爺のところに送られたんだった。
だから、と亮介が付け加える。
「俺と、勝負しろ。今度はアーツを使って、だ」
ここでは申請すれば闘技フィールドをつかうことが出来る。
ちなみに観戦は自由だ。
「フィールドは俺が取っておく、昼休みは1時間ある。その間に勝負をしろ!」
といい、亮介はスマホを操作する。
するとその瞬間、俺の生徒手帳にメールを1件受信した。
〈轟 亮介よりあなたに対戦申請が着ています。
場所:第2フィールド
日時:昼休み
時間:昼休み開始から終了まで〉
それは亮介からの対戦申請だった。
「待ってるからな」
と言い残し、亮介は去っていった。
俺は考える。
これは、男同志の真剣勝負だ。
俺と戦いたいと言ってくれるやつがいるんだ。
ここで逃げたら、男じゃなくなる。
俺は意を決して、深呼吸する。
そして……。
「めんど……よし、行かないでおこう」
俺は行かない選択をした。
やはり、理性は本能には勝てないようだ。
「わふっ!?」
頭の上の雪希が驚いた声を出した。
ちなみに雪希は今でもずっと俺の頭の上に乗っている。
「お前さぁ、いい加減に自分で歩こうよ」
でも、可愛いから許しちゃう俺であった。