女神
あまり気乗りしない状態のまま、あるドアの前に立つ。
それは一目見るだけでここがいかにも学生会会長室だなと、わかるくらいの迫力と緊張感がある。
「しゃーす」
まあ俺には緊張なんて微塵も感じないけどな。
ノックもしないで、ドアノブを回し中に入る。
だが俺は眼前に広がる光景に息を飲んだ。
その空間には本当に特定の者しか立ち入りを許されないかのような、すごく豪勢な部屋だった。
ドアにもそうだが迫力がありすぎないか?
そう思いながら部屋を見渡すと、ある一点に視線が釘付けになった。
それはというと。
部屋の隅の一流企業の社長さんが使ってそうな椅子に、その視線の先の人物が座っている。
そいつは両手でカップを持ち優雅に紅茶を飲もうとしている。
その光景は、とても絵になる芸術のようなーーーー。
「ふぅ〜、ふぅ〜、ズビビビ、あちゅ!」
心が砕け散りそして、破れ去った。
理想とはなんだったのか。夢とはなんだったのか。
考えさせられた一時だった。
そして彼女は顔をあげると、俺に気づいた。
「あ、来てたんですね。呼んでくださればよかったのに~」
余程熱かったのか、舌をだし手でパタパタと扇いでいる。
「もー、私、猫舌だから熱いの無理だってあれほど言ったのに……」
誰に向けて言っているのかわからない愚痴をこぼしていた。
そう、この人が俺を呼び出した人であり、1週間前、俺が一突きで敗れた人であり、この学園の学生会会長の叢咲出雲である。
「で、俺をここに呼び出した理由を聞きたいんだけれども?」
叢咲は少し考えた後、ハッとした顔をして手をぽんと叩いた。
「すいません!忘れてましたっ!」
イラッ。
「そうでした、そうでした。あなたをここに呼び出したのはですね…」
叢咲はまた思案顔になり、手元にある資料の様なもの逡巡した後、申し訳なさそうな顔をしながらこう言った。
「あ~~~………、何でしたっけ??」
「帰るわ」
回れ右をして出ていこうとする俺の服の袖を掴んで涙目で抗議してくる。
「待ってください!思い出しますから!すぐ思い出しますから!!だから待って、行かないで、お願い!」
何これ、なんでこんなポンコツなんだ!聞いてないっ!あたし聞いてない!
これが本当に学園2位なのかと疑ってしまう光景だが、現実である。
非常に受け入れがたいが現実である。
すると叢咲の後ろにスッと誰か現れた。
見ると、昨日家に来たくの一ちゃんだった。
「あの、出雲様、全員揃ったのですが……お邪魔でしょうか?」
その言葉を聞くと叢咲は「あっ」声をあげた。
やっと思い出したようだ。殴りたい。
「そうでした、御伽さんにアーツの演習を受ける属性の女神様の方々の紹介をしようとしてたんでしたっ!」
思い出せて良かったと安堵の息をつく。
そして叢咲が部屋の奥にある扉に「入ってきてください」と、声をかけた。
すると、そこからは見た目が様々な人?達が室に入ってきた。
「それでは今からこの女神様たちから各々自己紹介をしてもらいます。では、コロナ様からお願いします」
まず口を開いたのは空中をヒラヒラと舞っている赤い妖精だ。
大きさはちょうど手のひらサイズくらい。
「ではまず私から。私は天焦大御神のコロナよ。属性は炎を扱っているわ。まあ後は適当によろしく」
と、素っ気なさそうに言った女神様。
その後、机の上に置いてあるスマホをいじり始めた。
え、こんなんが女神なの?態度悪すぎ。
テンション1下がった。
次は淡い青色のスライム。
スライムは俺に1本の管みたいなのを伸ばしてきて俺の頭に繋げた。
瞬間脳にその子の声であろう声が聞こえてきた。
『私の名前は…エリア。えっと……伝わってる?』
俺は親指を立て、伝わっていることをアピールした。
スライムはコクッと頷くと続けた。
『天流…大御神……。属性は……水を扱って…る?で、合ってる?』
いや、なんで疑問系なんだよ。俺に聞かれてもわかんねぇよ。
でも、かわいいじゃん。
めっちゃ可愛いじゃん。
テンションが1上がった。
次は、存在そのものが母性であるかのような和装のお姉さんだ。
特徴的なその溢れんばかりの特大の2つのメロンである。
ついつい目がいってしまうのは、許せ。だって男だもの。ロマンだもの。
「私は天荒〈あまあらす〉大御神のイブキよ。ふふ、以後お見知りおきを。属性は風です、よろしくね♪」
ああぁ………………甘えたい。めっちゃ甘えたい!!
本当の女神ってこういうことじゃね?
こういうのが女神って言われるんじゃねぇの?
テンションが3上がった。
そして次もこれまた和装だ。というか巫女服だ。
イブキと違う点は、ロリ。そう、ロリータ体型なのだ。分かりやすく言おう、幼女体型だ。
危うく小学生に見間違ってしまうほどに。
それに加え、服の布面積も少ない。
下半身なんて履いている下着が見えるか見えないかギリギリを狙っている服装だし。
更には犬耳ときた。危ない気しかしない。
これ、やばくないか?
俺の頭が警鐘を鳴らしている。
「妾は天還大御神のガイアじゃ。属性は地。呼称はそちの好きによんでも良いが、できれば可愛いのにしてくれや?ちなみに言っておくが、妾はこの女神の中では最年長なのじゃ」
俺が何を考えてたのかお見通しのような口調で最年長ということを補足される。
口元もニヤニヤしている。
「…………………」
最早なにも言うまい。
けど、ただひとつ言えることは。
めにあーーっく!!めちゃめちゃめにあーーーっく!!
とはいえ、どうやら合法のようで(非常に)安心した。
次の女神は見た目は普通の女性なのだが、腕や太ももあたりにある繋ぎ目みたいなのが光っている。
要はアンドロイドの女の子だ。
「私は天鳴大御神。名はテトラ。属性は雷。以後よろしくお願いします」
テトルは恭しく頭をさげた。
なんか凄くお堅い礼儀にこちらも思わず、頭を下げてしまった。
こりゃ打ち解けるには時間が要りそうだと、思うような相手だった。
次の女神はガイアよりは少し大きいくらいの、だがまだ幼さがのこる様な少女だ。
しかも体の所々に包帯を巻いていて、見ていて痛々しい気分になってくる。
そんなこっちの気分とはお構い無く、自己紹介をする。
「私は天暗大御神のルアンなの!えっーとね、属性は闇で、えっと…よろしくっ!!えへへっ」
小麦色の健康的な日焼けと、チラリと覗く八重歯がよくに似合っていて、とても可愛らしい。
少しアホっぽさも感じられる元気っ娘だった。
そして最後の女神は。
「ボクは天照大御神のセリスだよ、よろしくね、空宙くん♪ちなみに属性は光だね♪」
と、少年のように帽子をかぶった俺と同い年くらいの子だった。
だが他の皆は特徴的なのに対して、セリスだけは普通のボーイッシュな女の子にしか見えない。
それに見た目はともかく、雰囲気とかは俺たちとそう違いがないようにみえるが……。
そこで、俺に一つの疑問が浮かんだ。
俺はセリスを見て考えていると、目が合った。
すると。
「ま、そう思うよね?」
と言った。
その言葉で、俺は合点がいった。
「あとは…あれ?ミラハさんは?ミラハさん、来てください」
叢咲が呼ぶと一瞬でくの一ちゃんがやって来た。
「出雲様、お呼びですか?」
「ミラハさんも、ちゃんと自己紹介をしてください」
それに対しミラハと言うらしいくの一ちゃんは、否定的な反応を示した。
「ミラハさんも女神なんですから、必要だと思います」
少し俊巡したあと、諦めたのかため息をついた。
「……分かりました、出雲様がそう仰られるのであれば」
するとミラハは膝をついて、頭を垂れて淡々と自己紹介をしてきた。
「名はミラハ。神名は天隠大御神。属性は無。……何卒よしなに」
「おう、……よろしく」
あまりにも素っ気ない自己紹介だったため少し面食らってしまった。
まあ最初はこんなもんだろうと納得することにした。
すると「それでは」と叢咲が声を上げる。
「御伽さん、演習を受ける属性を選択してください。なお一度選択した属性は基本途中変更はできませんので、自分のベストの属性を選択してください」
うーん、属性……ね。
はっきりいってどうでもいいし、何でもいい。
俺のアーツがそうだから。
じゃあ……。
「…1番人が少ないので」
すると何故かミラハが驚いた顔をした。
叢咲もかなり驚いた表情をしている。
「えっと、1番人が少ないのと言われれば無属性になりますが」
無属性かー……ま、いっか。
「じゃそれで」
再度ミラハが驚いた顔をする。しかもその顔でこちらをガン見してくるものだからなんかなんとも言えない気持ちになる。
「他じゃなくていいのですか?というかそんな決め方でいいんですか?頭大丈夫ですか?今ならまだ変更も可能ですけど……」
おい、途中のは異議を唱えさせれや。
でもまあ、俺は大人だからここはスルーするとして。
「沢山いても邪魔なだけだしな。やるなら、少ない人数でやりたいって思うし」
「後悔は、ありませんか?本当にいいのですか?あと、頭大丈夫ですか?」
……………スルー。
「えっと……ダメだった?」
というか、そんなに聞く理由でもあるのか?
「いいえ、では、属性演習は無属性に決定いたします」
まあ、丁度良かったのかもしれないと、俺は思った。
「んー、んじゃよろしく」
と言って俺は部屋を出ていこうとする時、ちょっと聞きたかったことを思い出した。
ドアノブに手を掛けながら振り向き、尋ねた。
「なあ、女神さんたち。………あんたら、本当に女神か?」
「………」
全員が全員押し黙った。
そして俺の疑問にはセリスが静かに答えた。
「違うよ、ボクたちは。…女神じゃない」
さっきまでの元気はどこへいったのやら。
とても落ち着いて淡々と答えるので地雷でも踏んじまったのかと、少し焦った。
「……異世界人ってところか?」
それにセリスは「うん」と、答えた。
「ボクたちは女神じゃない。ただのそれぞれの世界からきた異世界の人だ。君らと同じそれぞれの星に住んでる住人にすぎない。それで、それを聞いて君はどうするつもりだい?」
俺はセリスの疑問にはこう答えた。
「……別に」
ドアノブを捻りながら。
「でも……本当に女神だったならマジで、どうしてやろうかとは思ってた」
そう告げて部屋を出た。
静かな廊下に、ドアの閉まる音だけがあとに残った。
そういえば、なんか言いたい事がまだあったような気がするんだけど……忘れた。