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ついにこの日がやってきた。

本当にこの世界は僕の都合の良いふうにできている。

人はいないのに、電気や水道が供給される。

さらに、コンビニで買い物しても知らぬ間に新しいものが出荷されているし、毎朝、新聞は届くし、テレビが観れる。

ゲームもトランプもあったから僕とみうはずっと二人で遊んでいた。

この世界で僕は全く不自由しないのだ。

今日も朝八時に起きて、朝食を食べながら、ニュースを見る。

朝食はコンビニで買ったナポリタンだ。最近、料理のできる男が増えている中、僕は料理が全くできないのだ。

みうも料理ができないらしく、いつもコンビニのパンばかりを食べている。

ちなみに、みうは僕の家に居候している。この世界には「男女が一つ屋根の下にいるなんて、どれだけ不健全なの!」なんていう堅苦しい人たちもいないので、とても助かっている。

その人たちに言えることは「僕にそんな度胸ありません」だ。僕は自他共に認める草食系男子だ。そんなことしない。

昨日はみうと夜遅くまでトランプしたからな……眠い。

そんな状態でテレビを見ると、ニュースキャスターが「連日報道されていますが」と前置きをしてあるニュースを伝えた。


「〇〇県✖✖市で、家出をした男子高校生が行方不明になった事件。警察は、その日に波が荒かったことから、波にさらわれた可能性を考慮いれて捜査しています」


へぇ、そんなところで事件ねぇ。

男子高校生が行方不明かぁ。

危ないなぁ。

って、

「僕じゃねーか!!!!」

マジか。そんなにニュースになってるの?

たしかに僕がみうにあった夜から三日はたったからな……。

家出期間が長すぎたかな。

今のですっかり目が覚めてしまった。

なんかいきなり尿意も襲ってきたし……。

僕はトイレに向かう。

自分がニュースになることがここまで不快とは思わなかった。

まあ、そろそろ母親も反省しただろうし、帰ろうかな。

そんなことを思いながら台所に戻ろうとすると……。

そこにはみうがいた。

みうは呆然とテレビを観ている。

僕もテレビを観ると、そこには、僕の母親が写っていた。

あの母親が僕のことで泣いていた。

号泣していた。

謝っていた。

「ごめんね」と。

何度も何度も。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

謝っていた。

みうが僕を見て言う。

「この人、こうたのお母さん?」

「そうだよ……。ねぇみう」

「何?」

僕は深呼吸をしてから言った。

「話が……あるんだ」




四年前、僕が中学一年生のときのことだ。女手一つで育ててくれた母親がいなくなった。

育児放棄したのは「女として生きたい」かららしい。

小学三年生のときに離婚してから、必死に育ててくれたことは感謝していた。

だから、それくらいのわがままは聞いてあげようとそのときは思った。

その日から僕は近所に住んでいた親戚にあずけられた。

しかし、最近になって母親が帰ってきた。

どうやら再婚相手を見つけてきたらしい。

それでまた僕と一緒に住みたいと言い始めたのだ。

親戚は母親に「なんて自分勝手な奴なんだ」と激怒した。

だが、僕は内心嬉しかった。また母親と一緒に住む。それは僕の願いだったからだ。

結局、親戚は僕の意見を尊重するということになり、僕はまた母親と住み始めた。

楽しくて幸せな生活が僕らを待っている。そう思っていたが、現実は違った。

ある日、母親が一人の男を連れてきた。

母親は僕に「この人があなたの新しいお父さんよ」とその人を紹介した。

そして、母親はその人に僕をこう紹介したのだ。


「この子が私たちの息子。そして、あなたの会社の跡取りよ」


最初意味が分からなかった。会社の跡取り?

何のことだか、さっぱり分からなかった。

僕はその人が帰った後、母親に問い詰めた。

すると母親は、

「実は彼、IT企業の社長なの。自分の子どもに跡を継がせたいと思ってたんだけれど、前の奥さんが子どもができない体だったらしいのよ。だから私に子どもがいるって言ったら大喜びしてくれたのよ」

と嬉しそうに答えた。

僕は身体中の血が頭に昇ってくるのを感じた。

僕は母親を生まれて初めて睨みつけた。

「なんでそういうこと言ってくれなかったの? そんな大事なこと」

「だって、言わなくたってこうたなら承諾してくれると思って」

「承諾? 誰が?」

「え? してくれないの? だって社長だよ? すごいじゃん」

「は? 僕は社長になりたいなんて言ったことないんだけど。何が社長だよ、何がすごいだよ! お前の価値観で勝手に決めんじゃねーよ!!」

このとき母親の顔がムスッとなった。

「母親にむかって何!? その口の聞き方は!?」

「何今さら、母親面ははおやづらして説教してんだよ! 母親らしいことをしてこなかったくせによぉ!!」

僕はもう心の中に溜めるのが気持ち悪くなって全て吐き出そうとした。

「お前はいつだってそうだよ。『女として生きたい』? だったら、僕なんか生まなきゃ良かったじゃないかよ! なんで僕を生んだんだよ!! 僕だってお前みたいな奴から生まれたくなかったよ!!! 僕にとってお前から生まれたことが最大の失敗だよ!!!!」

このとき僕を止めることは僕にすらできなかった。

結果、いくら不満をぶつけたところで怒りが収まることはなかったので、僕は家を飛び出したのだ。




「ってことがあったんだよ」

僕はみうに一通り説明した。

ちゃんと伝わっているのかどうか心配だった。

でも、その心配とは裏腹にみうは

「そうなんだ」

と理解してくれた。

「で、こうたは今どうしたいの?」

どうしたいのって、そりゃ……

「俺はとりあえず元の世界に帰りたい。そして親と決着をつけたい」

僕の言葉にみうはうなずいてくれた。

「分かった。じゃあ、行こう」

みうはそう言って僕の手を引っ張って外へ向かった。














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