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2・狼さんと嘘つき少年

狼さんがさまざまな世界を旅して、自分の幸せを探すお話。

今回は「オオカミ少年」

2・狼さんと嘘つき少年


「狼が出たぞぉー!」

 びくっと狼さんは飛び起きました。まさか、見つかってしまったのでしょうか。うずくまっていた木の間から抜け出し、狼さんは周りを確認しました。

「狼が出たぞぉー!」

 また、少年の声が聞こえました。

「僕以外の狼がいるんだろうか……?」

 狼さんは少年の声が聞こえる方へ歩いていきました。そこには、たくさんの羊たちに囲まれた少年が「狼が出たぞぉー!」と先ほどから叫んでいました。そこへ少年の声を聞きつけた近くの村の人達が手に桑などの武器を持って駆けつけてきます。

「狼はどこだ?」

 村人の一人が少年に尋ねます。

「ボクが大きな声を出してたら、逃げちゃった」

 少年がそういうと、村人たちはまた村へ帰って行きました。

 それを見ていた狼さんは、他に狼がいるのか探しましたが、見つかりませんでした。

「あの少年に話を聞いてみよう」

 狼さんは、食事中の羊たちを驚かせないように、そっと少年に近寄りました。

「狼が出たぞぉー!」

 狼さんは少年の声にびっくりして、慌てて先ほどまで身を隠していた森の中に戻りました。少年は狼さんが話しかけるより前に叫んでます。

 狼さんは不思議に思いました。

「あの少年は、僕が話しかけるより前に僕の姿に気が付いたんだろうか?」

 少年の声を聞きつけて、村人たちがやってきます。

「狼は?」

「逃げってったよ」

 少年がそういうと、村人たちはまた村へ帰っていきました。村人たちが帰って行く時、ふと会話が聞こえてきました。

「あの子、また嘘をついたよ」

「本当に。嘘ばっかりで、本当に狼が出たことなんて一度もないんだから」

「大切な羊たちを任せてるっていうのに……」

「別の人に頼むことにするかね」

 ざわざわと、似たような内容のことを話しながら村人たちは遠ざかっていきます。少年は村人たちの会話が聞こえなかったのか、羊たちの世話をしていました。

「あの……」

 狼さんは森の中から意を決して飛び出し、少年に声をかけました。

「う、うわぁっ!」

 少年は驚いてひっくり返ると、慌てて村の方へかけていきました。

「お、狼だー! 狼が出たぞー!」

 目いっぱい少年は叫んでいますが、村人たちは誰一人動こうとしません。

「こ、今度は本当なんだって! 信じてよ!」

「また騙そうとしてるんだろ?」

「もう、信じないからな」

 誰も少年の言葉を信じてないのです。

「このままじゃ、羊は全滅だ! 助けてくれよ!」

「あっちへ行ってな、嘘つき!」

 とうとう村人たちは少年に向かって、石やら物を投げつけ始めました。

「い、痛いっ! 本当なんだってば……」

 少年は逃げるように羊たちのもとへ戻ってきました。

「あれ? 羊たちが、襲われてない……?」

「あの、驚かしてしまって申し訳ないです」

「うわっ! って狼? なんで羊を襲わないんだ?」

「僕はベジタリアンなんです」

「へぇー?」

 狼さんは、少年が戻って来るのをずっと待っていたのです。

「どうして嘘をつくんですか?」

 狼さんは少年を怖がらせないように丁寧に問い掛けました。

「お前、不思議な狼だな。……ボク、昔はいじめられっ子だったんだ」

「どうしてですか?」

「……孤児だったから」

「……」

 しばらく、羊たちの鳴き声と穏やかな日差しが一人と一匹を包みました。やがて少年が、また話し始めます。

「育ての親のじっちゃんが羊飼いだったんだ。ボクは、やっとじっちゃんと同じ羊飼いになれたのが嬉しくて、村の人たちに認められたんだって。だから、ボクをみて、欲しくて……」

 最後の方は言葉にならず、少年は俯いてしまいました。時々、少年の嗚咽のような、しゃっくりのようなものが聞こえてきました。狼さんは、ただ黙っていました。

「なんで、ボクお前にこんなこと、話したんだろうな……」

 赤く潤んだ瞳で少年は狼さんをじっと見つめました。

「僕がきっと、村とは全く関係ない存在だからじゃないですか?」

「それも、そうか」

 少年はすっくと立ち上がりました。その顔は、とても晴れ晴れとしています。

「何か、野菜か果物でも持ってきてやるよ」

「い、いえ。お構いなく」

「すぐだから」

 そういうと、少年は村から少し離れたところにある、小屋に向かって走っていきました。

「あのー!」

 狼さんは、かけていく少年の背中に向かって声をかけます。

「僕は、君のこと、好きですよー!」

 狼さんは一言一言を区切りながら少年に言葉を送ります。立ち止まって聞いていた少年は赤面すると、また俯いてしまいました。

「狼に言われるのも、複雑な気分でしょうが……」

 小さく呟いた言葉は、少年の耳に届いたのか、届かなかったか。狼さんは再び大きく息を吸い込むと、

「――――――っ!」

 真昼の月に向かって大きく遠吠えしました。少年はぽかんとして狼さんを見ています。遠くの方から、村人たちのざわめきが聞こえてきました。

「君は、嘘つきなんかじゃないですよ」

 そういうと、狼さんは羊たちを襲い始めたのです。村人たちの怒ったような声が耳鳴りのように、少年には聞こえてました。

 狼さんは羊を一匹、おいしくいただくと、紅く染まった口元をニタリと、少年に向かって歪ませました。

 そうして狼さんは、村人たちの手を逃れて、森の中へと駆けて行ったのです。


2・狼さんと嘘つき少年 おわり



 初めまして、こんにちは。無月華旅です。狼さんのお話。今回は、オオカミ少年を描いてみました。気弱な狼さんがオオカミ少年と出会うことで、何か変わったような気がします。そういえば、狼さんって食事どうしてるんでしょうね。「嵐のよるに」みたいなことになってたら嬉しいなって個人的には思うんですけど、自然の摂理はそうもいかないですよね。厳しい。別に、お話の中なので、どうとでもできるのですが……。

最期になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます。今後も月1回のペースで何かしらの話が更新出来たらと思います。では、また次回お会いできますことを。

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