勧誘方針
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「ね、彗月。誰誘うのがいいと思う?」
豚肉・もやし炒め丼の夕食を終え、のんびりとコーヒーを飲んでいた彗月に、鈴音は唐突に話しかけてきた。
「さあ…今のままじゃ、入るような奴は絶対いないからな」
「何で? 海斗さんと彗月は入ってくれたじゃん」
「海斗は特別、俺は入ったんじゃなくて、ぶち込まれたんだ」
「そーなんだ。いやー、いいことしたなあー」
「お前、喧嘩売ってる?」
物理のレポートを前に鉛筆を回しながらけらけら笑っている鈴音を見ながら、彗月はじっと考え込んだ。
新メンバーを勧誘するだけではなく、その新メンバーに部長の座を押しつけ…いや、やってもらう必要がある。ならば新メンバーにはどんな奴が適任だろう。
1番手っ取り早いのは野心家で、リーダー気質な人間。しかしそんな人間は、彗月の知り合いにはいない。と言うより、昏睡のせいで入学生と大差ない状態の彗月には、知り合いそのものが少ない。友人と呼べる人間など、海斗と鈴音ぐらいなものだ。
「あれ? まともな人間がいない…」
「何か言った?」
「いや、何でもない」
ともあれ、まともな人間の集まる場所で勧誘をするのがベストだ。ど田舎の大学という地質のせいか、まともな人間が少ない、ということが判明していたが、海斗・鈴音クラスよりもまともな人間となれば、地球上のほとんどが当てはまるだろう。そのうちの少人数派に明日香が入っていることは確実なのだが。
とにかく人の集まるイベントに参加し、マトモそうな人間に声をかけるのが一番だろう。しかしそう都合よくそんなイベントがあるだろうか…。
いや、あるではないか。大学の様々なイベントを取り仕切る学生会主催の花見会。学園祭をはじめとした催し物の実行委員をしたがる人間なら部長もやってくれるだろう。唯一何をするかも決めていない状態の部に入るかどうかが心配ではあるが、今の彗月にはそれしか残されてはいない。
「鈴音、明後日の花見会に行くことにする」
「えー、彗月は花より団子でしょ?」
「それはお前だろ」
「そんなことないもん。じゃ、わたしも一緒に行ってもいい? 多分明日香ちゃんも来てくれるだろうし!」
「い、いいけど邪魔だけはしないでくれよ」
「大丈夫! ただ部員勧誘するだけだから!」
「いや、それが1番困る」
昔から「類は友を呼ぶ」と言う。明日香と鈴音が部員勧誘をした暁には、どんな人間が入ってくるか分かったものではない。ただでさえ危機的状況の今、それは最も恐ろしい。
しかし彗月のそんな胸中を、鈴音が察するわけがなかった。
「いいじゃん、人手は多い方が。部として認めてもらう為には、5人必要なんだよ? まだあと1人足りないんだから、四の五の言ってる余裕はないの!」
これほど大真面目に主張する鈴音に「認めてもらわなくても別にいい」とはさすがに言えない。どんなメンバーが揃っていようと、鈴音の主張はあくまで正論なのだ。
「分かった。それじゃ、みんなで行こうか」
「オッケー決まり! それじゃ私は明日香ちゃんにメールするから、彗月は御堂くんにヨロシク!」
もう反論の余地はなかった。渋々彗月は飲み終えたコーヒーカップを脇に押しやり、携帯端末を取ろうと手を伸ばす。その携帯端末が、突然緑の光を発した。SNSの着信のようだ。
暗証番号を入力してから開いてみると、海斗からだった。
『彗月、部員勧誘の為に花見会にみんなで行かないか?』
海斗と同じ考えだった。
そう思っただけで、彗月は自分を情けなく感じるしかなかった。