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腐れ縁

「うっわー、広い! スゴイ! 大きい!」


キラキラと瞳を輝かせている鈴音の隣で、彗月は鈴音のオーバーリアクションにたじろいでいた。

大きいとは言っても、寝室は別個。共同スペースは小さな居間と、隣接したこれまた小さな台所、それだけだ。ふたりが使うにしてはむしろ狭い気がするのだが。


「何か贅沢だねー! 別荘みたい!」


「別荘って…なんと安上がりな別荘だ…」


彗月の小さな一言を完全に無視し、鈴音は勉強机ほどの大きさの丸テーブルに腰掛けた。


「ねぇ彗月、大学生! って感じ、しない?」


「感じじゃなくて大学生だし…お前の荷物、家出る前に届いたから、部屋の中入れといたし。部屋の鍵はそこの棚の上な。それじゃ、ちょこっと出かけてくる」


最低限の解説だけして踵を返した彗月に、鈴音がニコニコしながら尋ねてきた。


「もしかして、デート?」


「ばーか、ボーリングだよ」


「ボウリング? 私も行く!」


「よし、言い直そう。地質調査だ」


「なんだ、そっちか」


がっかりした様子の鈴音に手を振り、彗月は家を飛び出した。かなりぎりぎりの時間だった。

鈴音とのシェアハウス、と聞いた時には、当然驚いた。驚いたし、同時に呆れもした。なんせ幼稚園からずっと同じ学校だったのだ。大学受験でそれぞれ別の大学を受け、彗月は第二志望の大学に合格、鈴音は唯一受けた一流大学に落第。それでもその一流大学に行くと鈴音が主張した時、これでようやく腐れ縁が切れたと思った。その縁が浪人と留年という形で繋がったのだから。

それだけでも十分驚きなのに、まさかのシェアハウス。これはもう腐れ縁とか言うレベルではない。何かの呪いだ。


「そう言えば鈴音のやつ、何であの大学行かなかったのかな…」


一人ごちてから、彗月は自転車に跨がった。

何故同じ大学にしたのか、と聞いた時、鈴音は少し考えてから、不思議なことに顔を赤らめ、「教えない!」と顔をを背けた。恐らく第一志望の大学に行かなかった理由も教えてはくれないだろう。昔から隠し事が好きな性格だったし、気にすることでもないのだが。

交差点を曲がった先のファーストフード店の前で、彗月は自転車を停めた。店前に人影がないところを見ると、どうやら時間には間に合ったようだ。

ほっと息をついていると、真後ろの自動ドアがウィーンと開き、ファーストフード店独特の匂いが鼻をついた。そして出てきたのは。


「なんだ、もう先に来ていたのか。珍しい」


「遅れた奴がアホなこと言うなよな。ほら」


記憶のものと同じ茶色いコートを来た同い年の青年だった。入学式の時に声をかけられ、一緒に花見にも参加した、学内で数少ない知り合いの1人、御堂 海斗(みどう かいと)だ。

その海斗の手には二つのカップが握られ、片方を彗月へと差し出している。持てということか、と受け取ってから、彗月はかけたばかりの自転車の鍵を取り出した。

すると海斗は、彗月を制し、出て来たばかりの店を指差した。


「少し話そうや。飲み物は中で座って飲もうぜ」


「え、でも、ボーリングは?」


「大丈夫、ちょいっと早いから。お前の復帰祝う為に、早目に時間を設定したんだよ」


たった2、3回しか会ってなかったにも関わらず、海斗は搬送された彗月の地元の病院に月に2回は通っていたらしかった。それを本人に確かめると、海斗はあっけらかんと「美人看護婦さんと仲良くなる絶好の機会だからな」と言っていたが、そんな海斗の本心はすぐに察せるし、それがとても有難かった。美人看護婦の件があながち嘘ではなかったことも、目を瞑れる。

今まで友だちと呼んだ人間こそ沢山いたが、中学や高校を卒業すると同時に疎遠な関係になっていた。だが海斗ならばそうはならない、そんな感覚が新鮮だった。


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