最後の最後だって、力が全てなんて僕は言わせない
「……蘭、大丈夫ですか? ……しっかりして欲しいのです。」
稚夏の声が遠くに聞える。ここはどこ? 私は……。
「……はあ……はあ……。」
かなり疲れてはいたが、なんとか私は目を開く。徐々に手足の感覚も戻ってくる。全身に何か、チクチクとした何かが当たってるような気がするわ。何なのかしら。
「……大丈夫ですか? ……無理をしてはいけないのです。」
私の目の前に、稚夏の白くて綺麗な手が差し出された。私はその手に掴まり立ち上がることは出来たが、手を離すとフラフラしてしまう。一人では立っていることすらままならない状態なのだ。
「大丈夫よ、心配しないで。そんなことよりも、姉様達は戻って来た?」
総は答えたものの、大丈夫と言えるかどうか。でもそれより重要なのは姉様達の行方だわ。微かな希望を信じて、私は稚夏に問い掛けた。
「……帰って来ていないのです。……どこにいるのです?」
やっぱり帰って来ていないか。そりゃそうよね、帰って来てたら私が頑張ってる意味がないわ。はぁ……、どうしたら姉様達を助けることが出来るの? 誰か教えて欲しいものだわ。
「詳しくは分からないわ。桜が言うには過去と現在の狭間だってよ。」
私が答えると、稚夏は不思議そうに首を傾げた。まあ、訳分かんないわよね。しかしさすがは稚夏、表情は殆んど崩さないわ。
「……そうなのですか、少し引っ掛かるですね。……聞いたことある気がするのです。」
聞いたことがあっても、別に可笑しくはないんじゃない? ただ、何に引っ掛かるのかが分からないわ。過去と現在の狭間、かぁ……。
「……まあいいのです。……もう暗くなるです、城まで来るといいのです。」
もう暗くなる? 嘘、そんな時間かしら。驚きだわ、私は一日中……? 信じられないわ。
「私も城に行くの?」
聞き流そうとしていたけど、どうして私が城まで行かなきゃならないのかしら。でも確認し稚夏が頷いたので、私は城まで転移させたわ。
「……蘭が転移する必要はなかったですのに。…………歩けるですか?」
稚夏は城に入ろうとする私を見て、心配そうに手を伸ばしてくれる。1人で歩けるわよ! そう強がるけど、やっぱりフラフラしているわ。
「……私に着いて来て欲しいのです。」
稚夏が城の廊下を早歩き気味で行くので、私は頑張ってそれに着いて行った。確かに手は払ったけど、このペースで歩くのはきついわ。地味な嫌がらせのつもりかしら。
「……その部屋に入ってです。」
突然稚夏は立ち止まり、扉を指差して言った。この部屋に入ればいいのね。私は部屋の扉を開けて、稚夏を信じて部屋の中に入った。すると扉が閉まり、私は手を引っ張られて椅子に座らされた。痛いわね、何なのよ。
「……蘭さん……神々の……世……界に行っ…………本当ですか?」
魔女のような帽子を深く被って顔はよく見えない。でも、手や足は私よりも細かったわ。気に入らないわね、私より細いけど私より小さくはないかも。う~ん、どこかで見たことあるような……。
「ええ? あっ、行きましたよ。しょれがどうかしたんでしゅか?」
慣れない人相手だから、取り敢えずこの口調にした。だけど人間の姿でいる私を”蘭さん”と呼んだ時点で分かっているのよね。じゃあ大丈夫かしら。
「……あの……世界……で何かが起………………みたいなんです。……正確な……情……報かは……分かりませんが。……幻書に…………書かれて……いたので……す……。」
幻書!? 今確かにそう言ったわよねっ! 幻書に書かれていたんならば、確かな情報に決まっているじゃないの! でもあれがどこにあるの? 今は行方が分からない筈だわ……。
「…………どう、さ……れま……し…………た?」
表情は見えないけど、私が驚く理由が分からない様子ね。
「幻書って、幻の書よね。あの、あの幻書でいいのよね?」
どうして幻書を持っているの? でもこの少女が幻書を持っているのだとすれば、他に未来を見られる人はいないのね。未来を見る能力を持つウサギはもういない筈だわ。そして未来を見る効果を持つアイテムは全部で3つしかないもの。
1つ目は葵が持っている”未来への鍵”。悪い運命と、それを阻止する可能性を上げる方法を出してくれる。それとたまに、持ち主に”幸せのヒント”をくれるらしいわね。
2つ目は私が持っている”想いの鏡”ね。身近な人に起こるかもしれない未来を見せてくれる。持ち主がその人のことを大切に思っていれば想っているほど、未来はより分かりやすく鮮明に見えるということらしいわ。
そして3つ目は”幻書”よ。他の2つとは違い、絶対的な情報が記されるの。具体的ではないと言うのが欠点かしらね。だからそれに記されたことは、”良イ事モ悪イ事モ必ズ起コル。変エラレナイ運命”だけなのよ。
「……は……い。……幻の……書でい…………いの……ですよ……。……私が持ってい……るこ……と知らなかったんで………………か? ……でもそ……れ……くらいのア……イテ……ム、……蘭……さんも…………持ってる……んじゃ……ないん……ですか……?」
私が鏡を持っていることを知っている、そうゆうことかしら。でもどうして、情報を漏らすようなことした覚えないのに。
「貴方、何者なの? 最初に名乗っておいてくれるかしら。」
私も名乗ってなんかないけど、相手が知ってるからいいわよね。
「……ひっ…………ご、ごめんなしゃいっ! ……わ、私は…………小村……未来と……いいま……す。」
小村未来? 本世界の女王が、そんな感じだったような。なら確かに……。幻書は幻とは言え書物だし、本世界の女王が持ってたって……? 可笑しいわよね。
「……こう見えて…………本……世界で……女王……をやっ……てい……るん……です……よ……。知りません……?」
やっぱり、本世界の女王様よね。でも、それくらい名前聞けば分かるわよ。私をバカにしてるのかしら。
「でも女王様がどうして私のところに?」
本世界から殆どでないと言う、人見知りなあの女王様よね? それなのに、どうして私のところに来たのかしら。
「……ごめんなさい。……蘭さんが……倒……れたと……聞いた……ので…………。」
私が倒れたから本世界の女王が? 華世界の姫だったらともかくね。抑々この子は、私の敵なの味方なの? それが分からないわ。
「……蘭さんの……体が…………心配だから来……た……と言えば……嘘に……なっ……てしまいますが……。」
そうよね。私を心配してわざわざ来るような人じゃないわよね。でもだったら、どうして女王様が来たのかしら。
「……まあ……心配で……きま……した。……本……世界が…………巻き込……まれ……たら嫌で……すから。」
ええ、本世界の考えにピッタリね。どこの世界にも協力するけど、どこの世界とも協力しない。世界での戦は絶対にしないし、助けるかはゲーム次第。
「で、私を見れば分かる訳?」
私を見て、本世界が巻き込まれるかの判断。どんな基準で判断するんだかさっぱり分からないわね。女王様だからこそできるとかかしらね。
「……えっと…………蘭さんの様子を……見る限り……ただの…………魔力不足だっ……たようです……。」
つまり本世界は大丈夫ってことかしら。でも、私がただの魔力不足だとして? それで本世界が安心できるのかしら。
「私……は…………もう……帰りま……すね……。……では!」
未来は立って礼をして転移した。するとさっきまで未来が座っていた椅子に、お爺さんが座っていた。誰よこのお爺さん、何なのよ。
「蘭様、手を見せて貰えますか?」
手、どうしてよ。よく分からなかったので、心を読もうかとも少し考えた。だけど、微塵も興味がなかったので言われた通り手を差し出した。するとお爺さんは私の手を掴み、暫く目を瞑っていた。な、何をしているの? 手が痺れるような、この感覚は何なのよ。
「ありがとうございました。では眠る前にこの薬を飲んで下さいね。」
医者なのかしら。白衣だって来てるし……。だとしたら、稚夏が呼んでいたのね。でも何かしら。私は少し不安だったけど、お爺さんが差し出している袋を受け取った。何なの? 悪い予感がするわ……。
「忘れないようお気を付け下さい。」
お爺さんは礼をして、部屋から出て行ってしまう。怪しいわ、ほんの少しも興味なくたって読んどけばよかったわね。……はあ、何なのかしらね本当に。
「……お薬貰えたですか?」
暫く私が考えていると、部屋に稚夏が入って来た。やっぱり稚夏が用意しておいてくれた医者なのかしらね。だとしたら、いい医者の筈だけど……。
「ええ、貰えたわよ。ほらこれ。」
私は稚夏にお薬袋をひらひらと見せた。
「……何です? ……お爺ちゃんらしくないのです。……こうゆう人だったですか?」
稚夏は私に、さっきのお爺さんの写真を見せてきた。
「その人だったわよ。何? 何か可笑しいなことでもあるの?」
とても悪い予感がしたし、さっきのお爺さんは偽物とか? それだったら繋がるかも。でも私、幻惑魔法なら見抜ける筈よ。
「……いえ、大丈夫だと思うのです。……それよりも、夕飯にしようです。」
夕飯は私も城で食べるのね? 私は怒られないように、『夕飯入らない』とセバスチャンにメッセージを送った。まだきっと作ってないわよね? 大丈夫よね。
「……今夜は、特別なパーティがあるのです。……良かったらどうぞです。」
特別なパーティ? パーティか、ちょっと出てみたい心もあるわ。
「どうして特別なの? 何かある訳?」
特別って言ったって、どんな風に特別とかあるじゃないのね。
「……分からないのです。……ですが、特別なパーティと言われているのです。」
稚夏にも分からない、特別なパーティ。それは大丈夫なのよね? 楽しそうだから行きたいけど。
「……私にとって、大切な発表があるとだけ聞いているのです。……それと、盛大にやるとのことです。……主な参加メンバーです。」
そう言って稚夏が渡してくれた紙には、何人かの名前が書いてあった。まずメインが稚夏と永輝で、主催者は沙羅って書いてあるわ。招待者は葵と希、そして優斗? それにあとは、ゆかりに愛唯や愛華もなのね! あっ、一応頼華って書いてあった。まあいいや、普通に凄いメンバーじゃない。
「……他にも沢山来ると思うのです。……じゃんじゃん人を呼んでと言われているですから。」
じゃんじゃん呼んでって……。でも、そんな簡単に呼べるようなメンバーじゃないわよ。
「私も参加していいの? そんな、そんなパーティに。」
所詮私は華世界の魔王の妹、兼勇者の妖精。パーティってタイプじゃないのよね。だからあまり出たことないの、パーティって。少女として少し憧れるところもあるわ。
「……私も秘密は怖いですので、一緒に来てくれるのはとても嬉しいのです。」
バースディパーティだとすれば、もう少し後にするわよね。それじゃ、何かあるのかしら……。
「会場はどこなの? 結構広いところになるわよね。」
それだけのメンバー、それだけの人数。お金は十分にあるでしょうし、驚くような規模なのよねきっと。
「……想い出の丘付近だそうですよ。……結構な広さだから大丈夫なのではないですか?」
付近って、どの辺まで付近に入るのかしらね。でも想い出の丘自体、そこまで狭くはないわ。
「……19時だから、まだちょっと早いですね。……何かやってようです。」
今の時間は17:42ね。じゃああと1時間ってところかしら。
「……作戦は順調に進んでるですし。……あえてここでゲームとかどうです?」
戦わせておいて、自分は城でゲームをやってるっていうの? 酷い話だわ。
「ええ、いいわよ。何のゲームをするのかしら。」
私はわざとウザい感じの言い方をしてみた。だって、ゲーマー神だから。
「……サク咲クⅡ持ってるですか?」
稚夏は、そんな聞くまでのない質問をしてくる。どうしたのかしら。
「当たり前じゃないの! 持っていない訳ないでしょう?」
ゲーマー蘭ちゃんも舐められたものだわ。今はあんま時間ないから2、3回しかやったことないけど。でも私はゲーム界の神よ。どんなゲームだってできるわ。ふふふふふっ。
「……では勝負しましょうです。……それでどうですか? ……ゲーム神をゲームで倒すと言うのは、とってもいい気味なのです。……覚悟しておくといいのです。」
相当自信があるようね。その自信、すぐに無くしてあげるわ。むしろ私が全部貰ってしまおうかしらね。ふふふふっ、素人が調子に乗り過ぎよ。
「あ~ら、自信満々の人を負かすのもいい気味よ? ふふっ、まあ精々私を楽しませてね。」
ゲームで私に勝とうなんて、愚かな人もいるものね。自他共に認めるこのゲーマー神様に向かって。
「私の部屋からゲームを持ってくるわ。待っていて頂戴ね。」
私は自室に転移してサク咲クⅡを掴むと、すぐ元の場所に転移で戻った。
「……随分早いですね。……では、対決場所は私の部屋なのです。……着いて来てです。」
私達は歩いて稚夏の部屋に行った。ふっふっふ、私の実力教えてあげるわ。
「……ランクとレベルいくつですか?」
ゲームを起動させている間に、稚夏がそんなことを聞いてきた。
「ランクは20級で、レベルは最高キャラで4よ。」
因みに20級というのは最低ランクだったりするわ。だってまだ1も上がってないんだもん。
「……随分と低いですね。……プレイ数はいくつですか?」
プレイ数? ああ、確かね……。
「えっと、2……だったかしら……ね……。」
曖昧な記憶だけど、それくらいだとは思うわ。
「……ゲーム神さん、ゲームをしていないのですか?」
していない訳がないじゃない! 優先順位がゆかたんの方が高かったの、ただそれだけのことでしょう? 失礼しちゃうわ。
「桜にゆかたんを進められちゃって。てか私も、ゆかたんを先にやりたかったんだもの。ふふ、そんなことは関係ないわ。ほら、ロードが終わったわよ。」
私が通信にすると、すぐに稚夏が入って来てくれた。
「……戦闘戦争協力、どれにするのですか?」
協力じゃ面白くないわよね。私のレベルは低いし、戦争の方がまだ有利かしら。
「戦争でお願いしたいんだけど、いいかしら。」
この私に選ばせたこと、後悔するがいいわ。
「……はいです。……了解したのです。」
私は戦争のところを押した。今度はプレイキャラ選択ね。まあ私は1人しかやったことないから、そのキャラを選ぶんだけどさ。よっしゃ行くわよ、蘭たん♡ 私と同じ名前って理由でやってみたら、案外使いやすかったんだから。でもまだ、原作にも登場していないのよね。
「天下統一戦をやりましょう。まあ、絶対途中になるけどね。」
それでも長くゲームを楽しみたい。出来るだけ、大きな戦いをしたい。私はそう思ったから、提案した。
「……受けて立ちましょうです。……では、スタート押すのです。」
私が天下統一戦を押した瞬間稚夏が入って来たので、驚くほどすぐスタートした。私のスタートは南西、稚夏のスタートは北西ね。じゃあ東は狙わず、北へ進軍した方が良さそうね。私は本拠地の1つ北の場所へ、何の準備もせず攻め込んだ。
『気を付けて行きましょうね。』
イヤホンをしている右耳から声が聞えてくる。プレイ数が少なくて分からないけど、Ⅰではこのセリフで有利か不利かが教えて貰えたわ。
ロードが終わった瞬間に私は、何も見ず敵総大将へ向かって駆けていった。まだろくな馬も持っていないし、走って行くから遅いのよね。私はⅠで覚えた地理を走り抜け、1分ちょっとで敵総大将のところまで辿り着いた。
今まで闘いは出来るだけ避けて来たけど、こいつを倒さないと終わらないわ。基本操作方法は同じだもの、テクニックは持ってるわ。ただ攻撃を仕掛けても、敵の体力ゲージが全くと言ってもいいほど減らないのね。天下統一戦は最高難易度である上に、難易度を敢えて最低の蕾ではなく月にしたわ。対象レベルは4、50ってところかしら。
『さあ、喰らいなさい。』
必殺技は綺麗に決まった。でも、驚くほど効かなかったわ。私は必殺技の弱さに多少驚いたが、レベル的に仕方ないかとすぐ納得した。
『もう終わりにしましょう。』
唯一説明書で調べておいた覚醒というのを使用してみた。Ⅱで新しく増えたスキル、桜に感謝ね。
『敵将、討ち取りました。私達の勝利です。』
そして何とか勝利することが出来る。やったー、勝ったー。入手アイテムは……っと。武器素材が4つと金が800か。少ない、少ないわ。レベルアップ! レベルが6になったわ。だったら、少しは楽になるかしら。私がロード時間に地図を見てみると、稚夏の領地はもう3つに増えていた。
「……ゲーム神さん、どうしたのですか? ……もっと強いと思っていたのですが、ガッカリなのです。」
うわっ腹立つ。でも私をあまり舐めない方がいいわよ? 次の戦いはちゃんと準備して行いたいので、持っている限りの名無し武将と兵士を設定した。そして武器鍛錬で武器レベルを上げられるだけ上げた。馬は……、まあ仕方ないわ。私はさらに北上した。
『気を付けて行きましょうね。』
私達は夢中になってゲームを続けていた。
「稚夏様はいらっしゃいますか? もうすぐパーティの時間なのですが……。」
部屋の外から声が聞えてきた。嘘、今何時?
「……分かったのです。……着替えてすぐ行くのです!」
私達はセーブすると、ゲームの電源を消した。18:57か、あと3分で始まっちゃうわ。
「……蘭はこのドレスでいいですか? ……多分使ったことないから、綺麗だと思うのです。」
ドレスか、可愛い♡ 使ったことないなんて、そんなの勿体無くない? 私はそのドレスを頑張って着た。姉様はいつもドレスだけど、私はあんまり着ないからな。ドレスってこんなに来づらかったんだ……。それに動きづらい。でも可愛いし、たまにはいいかも♡
「……蘭、早く行かないとなのです!」
「え、ええ。分かっているわ。」
私達は急いで城から出て、想い出の丘に転移させた。するとそこには既に、数え切れないほど沢山の人が集まっていた。100人くらいかな、それとももっといっぱいいるのかな! 凄いわ~。




