ファーストコンタクト
「亮介ーこれで全部か?」
午前中に始めた家具の搬入作業が終わったのは、その日の夕方頃だった。
「ああ、多分。助かった、ありがとう」
「気にすんなって、俺達の仲だろ?今度ラーメン奢れよ」
「俺達の仲はお前の中でその程度なのな……」
隣町にある実家から、俺は今日このアパートへ引っ越して来た。
大学に通うのにここの方が交通の便が良いというのもあるが、俺――須田亮介としては、何かと拘束してくる両親からの逃亡が、下宿を決めた最たる理由である。
実家との距離はさほど遠くない。
そこで、友人達に引っ越しを手伝ってもらったのだった。
おかげで業者に払う金が浮いた(どうやら代わりにラーメン代を払うことになりそうだが、引っ越し料金に比べれば安いもんだ)。
「んじゃ、俺達帰るわ。憧れのぼっちライフ楽しめよー」
「寂しくなったら呼べよな」
「夏までにエアコンつけとけ」
などとひととおり言いたいことを言い残し、彼らは荷物の搬送に使ったバンに乗って風のように去って行った。
「……さて」
まさしくぼっちとなった俺は、壁際に積み上げたダンボール箱を一つずつ開封し始めた。
日用品、服、実家を出るときに母親に無理矢理持たされた食器類。それらを所定の位置に片付ける。
ダンボール箱の中身を全て片付け終えると、先程よりは幾分かこざっぱりした印象の部屋になった。
「あとはこのダンボールを処分して……ついでに晩飯でも買って来るか」
確か近所に、ダンボールの引き取りをしてくれるスーパーがあったはずだ。
俺は潰したダンボール箱をビニール紐でくくり、ポケットに財布を押し込むと、部屋を出た。
と、そこで。
「……」
見てはいけないもの――できるだけ正確にありのままをお伝えするのならば、そう、
玄関扉の横にあるキッチンの窓に上半身を突っ込んだまま微動だにしない女性を、見てしまった。
それが俺、須田亮介と、彼女、白川うみの、あまりにも強烈すぎるファーストコンタクトだった。