八百吉の魔法少女オーデション
俺は映画監督をしている。
俺はその業界じゃそれなりに有名で、アニメの実写化が主に手がけるジャンルだ。
一部の熱狂的二次元ファンには何度か刺されそうになったが、それなりに業績は誉められている。
とくに美少女もの関係は秀逸で、『まったく二次元のイメージを損なわないでござるな!』とのレビュー。
今日も新作『ロリロリ、魔法少女キャミーだ・よーん・・・てへ☆』のためのオーデションを行っていた。
もう子役専門のプロダクションとか素人か数百人は見てきているが、なかなかキャミー像にあった人材が見つからない。
「ちがうんだよなー。イメージが! こうなんていうの、アレが足りないのよ。『ロマキャてへ☆(ロリロリ、魔法少女キャミーだ・よーん・・・てへ☆』の略)』の世界観とマッチしないのよ。だって、キャミーはなんていうか、こうふんわりとしたドジ娘だけど、ちょっとセクスィーな面もあって、ボーイフレンドの鬼瓦大作をときおりに誘惑するような、さ! わかる、俺の言いたいこと? ただ可愛いだけの少女なんていらねーんだよ! そんなので映画なんて見に来るわけねぇだろ!」
俺は助監督のふくよかな頬をペチペチ叩きながら言う。ファーストフード太りで、何もないのに汗をかくほど太っているヤツの頬はプルプルと揺れた。
「え、ええ。でも・・・次の子は、スポンサーからもお勧めされたんで。ちょ、ちょっと期待してもいいかも」
ハフゥハフゥ言いながら汗をぬぐう助監督。歯の間に、休憩時間に食べたたこ焼きの青のりがついてやがるのが気になる・・・でも、注意するのが面倒なほど俺は疲れていた。
もう次で・・・今日は確か100人目だ。自己アピールをしてもらって、質問して、踊って歌ってもらう・・・もうそんな作業を延々と続けるのは勘弁だ。少しでも「お!」と思うのがいてもいいのだが、今日はなぜだかサッパリだ。
「・・・わかった。通せよ」
俺が言うと、助監督が「次の方、どうぞー」と言った。
ガチャリと扉をあけて入ってくる。俺は思わずその人物を見て目を見開かざるを得なかった。
「八百吉 八郎。58歳です」
ただの中年親父。だが、それはただの中年ではなかった。キャミーの着るフリフリの衣装はともかく、いや・・・ともかく! なぜか、なぜか・・・頭に・・・大砲がついている。
「あ、あの・・・このオーデションの意味わかって・・・いらっしゃる?」
威圧的な風貌に、俺は気圧されて恐る恐る尋ねる。なんてことか、八百吉氏はコクリと頷いた。そういえばちゃんとゼッケンの『100番』もつけている。間違いなくオーデションに来たのだ。
「『ふふんふふん♪ ふーん♪・・・イケイケ、魔法少女ー♪ ありえないほどのロ●コンどもをぶっとばせー♪』」
誰も頼んでいないのに、『ロマキャてへ☆』のテーマソングを振り付けありで踊り出す八百吉。
「あ、あの・・・監督」
助監督が冷や汗・・・いや、いつも汗だくなんだけど。まあいつもよりも凄い汗をかきながら俺に耳打ちをしてくる。ああ、もう言いたいことは解る。
「あ、あの・・・今回は見送りという・・・ことで」
歌っている八百吉を前に恐る恐る言うと、ガチャリと再び扉があいて科学者っぽい風貌のジジイが出てきた。
「・・・八百吉のジャーマネじゃ。この八百吉を使わないならば、貴様らは地獄をみることになるぞ!」
そう言って、なにやらテレビのリモコンみたいなのを操作する。すると、八百吉の頭上の大砲がウィーンと俺たちに照準を向けた。
「な、なにを!?」
「ひ、ヒィイ! か、監督!!」
ジジイはカッカッカと唾を飛ばしてイヤらしく笑う。
「『活き活き山里商店街』のためじゃ。よくわからん『もえ』とかいうのだけで儲けやがって・・・。少しはワシら商店街にも金をまわさんかい! ワシらの復讐がここからはじまるんじゃ! 行け! 我が下僕、八百吉よッ!!」
「YES。白木博士」
八百吉氏は、まるでロボットのように返事をし、その大砲から・・・魔法以上の強力な攻撃を放った。
それ以降、『美少女=萌え』ではなく『頭に大砲のついた親父=萌え』と、『ショッピングモール<商店街』という方向に、この日本国は向かっていくのであるが・・・・・・それはまた別のお話。