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プロローグ
──サイラ。
呼ぶ声が、聞こえた。
男のものか女のものかもはっきりしない、波紋のように広がる声。
いつしか最良の精神は濃青色の水中に沈んでいた。
(俺を呼ぶのは……誰だ?)
夢が夢で無くなったのは、いつからだろう。
最良には物心ついたときから、人とは違う特別な力があった。
夢の中で意識を保ち、自由に行動する能力──夢を操る力だ。
幼少時に芽生えたチカラは成長と共に少しずつ磨かれ、形を整えられていった。
最良にとっては今や、夢は現実よりも居心地の良い場所となっていた。
──サイラ。
ぬるい水中を下へ下へと堕ちていく。底は見えない。
時折、夢をコントロールできない日も存在した。
そんな日は決まって謎の声に呼ばれ続ける。この夢を見る。
(なあ……あんたは……)
この夢は最良の能力の干渉も一切受け付けない、強力な何かに守られている。
(母さん、なのか……?)
だが不思議と気分は悪く無かった。
温かさに包み込まれ、溶けるように落ちていく。より深く、深く──