2話。 はじまった日。
はぁ、はぁっ
ばたばたばたばた
「ひゃはははは!」
「諦め悪りぃなぁぁぁ!」
「女子供がこのマッドドラゴンの足から逃げ切れるかぁ!」
どすどすどすどす!
三匹のマッドドラゴンの背に跨がる人掠いたち。
今、まさに
母子四人の命の危機だ。
がしっ!
「きゃぁ!ママぁぁー!!」
「ミリー!!」
「お兄ちゃん!ママぁ!!」
「きゃぁっ……!」
「母さん!」
妹と母親が捕まってしまった。
「はやくいきなさい、メッシュ!!ミリアーナはお母さんが助けるから!アッシュを頼むわよ!」
「い、いやだ!ミリー!母さん!離せーーー!!」
「だーっはははは!イキがいいじゃネェか!」
「上々な家族だな。それに赤ん坊は金持ちに高く売れるんだ。玩具に最適なんだと!」
「うぅ……!」
少年の腕から赤ちゃんの籠をひったくり、マッドドラゴンの鞍に引っ掛ける。
あっさり後ろ手に縛り上げられてしまった少年は、腹を蹴られて胃液を吐いている。
「オラ!」
がんっ!
「がはっ…………!げは、げぇ……!」
「最近は男のガキも需要がいいんだ。イイコにして、主の趣向に合えば奴隷以外の待遇が受けられるらしいぜ。」
「結局変態の玩具だろうけどな!」
「「ぎゃはははは!」」
「お兄ちゃぁぁぁん!」
「…げほっ、はぁー、はー…」
「さーて、まずはお嬢ちゃんを大人しくさせるか。」
「……!ひっ……」
「おい、傷物にしたら値が下がるぞ。」
「それは下のほうだろ。この可愛いお口なら問題ないさ。」
「俺も賛成。」
「い、いや…………!!」
「虚人になるまではしねーよ。ある程度反応するようにしとかないと詰まらないだろ。」
「いい声で喘げばお小遣くれる主もいるらしいからな。ほら、練習だよ。」
「や、やめ……!!いやぁぁぁ!!」
「ミリぃぃーーー!!!」
「やめてーーー!!」
「……ふぇーん…」
「「「…!!!」」」
「あ゛ぁ?…赤ん坊が起きちまったな、早く黙らせろ。」
「ヘイヘイ。」
下っ端の男が赤ちゃんの口に丸めた布を押し込もうとした瞬間。
母子が悲鳴をあげた瞬間。
赤ちゃんが、大声で泣き出した。
「「「近づいちゃダメーーー!!!」」」
「は?」
「びぇぇぇぇぇえええええええーー!!!」
どごぉぉおおお!!
「ごべふっ!?」
『…グォォォオオオオーーーン!!』
「「………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!?」」
突如現れるは…
グララシアベアー
最大体長3メートルを超す、体毛がやや赤い大熊。
「きゃぁぁぁ!?」
「ミリー!母さん!」
「メッシュ!」
グララシアベアーの雄叫びによって、マッドドラゴンはとっくに逃げ出していた。
赤ちゃんを振り落として。
『ゴルルルオオオ!!』
「ひ、ひぃぃぃ!?」
「うわぁぁ?!向こうからも!」
ルマルウルフ
自身よりも大きな獲物しか狙わない、自然界では不可解な狩猟をする狼。
体長1.5メートル程度。
『コルルル…』
ぎらぎら輝く金色の瞳が、人掠いたちに近づく。
「くそう!早く倒せ!!」
「む、無理ですよ!しかもこんな群れ!」
グララシアベアーが親子三頭。ルマルウルフは十頭以上いる群れだ。
こんな大きな群れを相手に戦う術など、弱い人間しか狙わない人掠いにあるはずがない。
「!! アッシューー!」
「や、やめろー!」
人掠いの一人が、赤ちゃんを籠から出し、魔獣に向かって放り投げようとしている。
「いやぁぁぁ!!」
「ほぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
がぷっ!
しゅたん!!
投げられるぎりぎり一瞬のうちに。
ルマルウルフが一頭、赤ちゃんに噛み付いた。
「ひぎゃぁぁぁぁ?!!」
噛み付かれかけた男はマヌケな悲鳴を残して気絶した。
「あ、アッシューーー!!」
ぽと。
「う、きゃぁー!きゃっきゃっ!」
『コルルル……くんくん…』
「きゃーぁ!だーぁ!」
「わ、笑ってる…?」
「ほー…………よかったわ…」
「うぇぇええーーん!アッシュぅぅぅ!」
「だーうー!きゃぁい!」
ルマルウルフは、静かに赤ちゃんの顔をなめている。
グララシアベアーは、人掠いたちが逃げないように、睨み付けている。
「だぁー、きゃうー。」
『コルルル…』
『グォゥ…』
「すげー…魔獣がアッシュになついてる…」
「鳥や小動物はよく集まってたけど、まさかこんな大きな魔獣まで…」
「アッシュすごい…」
「……ぉーぃ………」
「? なんか声がしたような…?」
「大丈夫ですかー?!悲鳴を聞いたと、近くの住人から通報があった!誰かおられませんかー!」
「見て、兵隊さんよ!」
「ここですー!」
「誘拐魔ですーー!」
「隊長、あちらに人影が!」
「! いますぐ参る!」
人掠いたちか、捕まったのを確認したかのように…
魔獣たちはいつの間にか姿を消した。
…………………………
こんばばば。
ファンタジーというか、ファンシーな小説、はじめました。
次回からギルドとかバトルシーンとか出てきますが、基本ぬるーい冒険小説です(笑)