13話。 夏の獣耳祭!
サブタイトルは、 「ヤマ○キ 春の◇◆祭り」のイメージで読んでください(笑)
「どはあぁ……やっとついた…」
「ミリー姉ちゃん、もう大丈夫だよ!」
「も、限界………」
魔力を切らしてしまった姉ちゃん。
長老さんをかついで走ってた兄ちゃん。もう、ぼろぼろ……
ルーナンの背中に長老さんをのせて、兄ちゃんがつかまった状態で歩いてて、ライ……もとい、ライリエナさんの首に姉ちゃんをつかまらせて。
無事にヤコウ村へ帰り着きました。
唯一元気なの、僕だけです。
「長老!ライリエナ様!」
「お帰りなさいませ!!」
「長老ー!」
「ライリエナさん!」
「皆、無事にライリエナが帰った!……アグエナは、森で生まれ変わる。いつか新しい命を迎えよう!」
「う、わぁぁぁぁ…!」
「アグエナ様ぁぁぁ……」
「あぁ………、ありがとうございました、冒険者殿… ライリエナ様、よくご無事で…!!」
ルーナンは、大人しく姉ちゃんと兄ちゃんをよしかからせて、休ませている。
ライリエナさんは、長老の孫というのもあるんだろう。しっかりした態度で村人達と再会を喜んでいる。
せっかく、友達になれそうだったのに…
お別れなんだ…
なんか泣けてきた……
「マルタご兄弟殿、これからライリエナの、擬獣変化 (ティアグラ・リング)を行います、どうぞお越しくだされ。」
「え、でも…」
「長老様とライリエナ様のご希望でございます。どうぞ。」
「ささ、きなされ。」
「は、はぁ…」
「……わかったわ、行きます。」
「俺もいくよ…」
「……ルーナン、おいで。」
『クルル………』
案内されたのは、大きなログハウスみたい…な集会場。
その内部には、天井近くにキラキラする丸い石がいくつか吊されているワンルーム。
様々な儀式のために使われる部屋らしい……
「あれはダムセムライト。 悪霊を退け、村を守る…村全体の魔力を安定させておるのだ。」
「どうなってるんだろ、あれ…色がどんどんかわる……!」
「ハハハ、これぞ神の御技だな。 ……さぁ、始めてくれ。」
男の人達がはしごを上り、次々石に水をかけていく…
……シュワァァァァ……
「わっ、泡が吹き出した…!」
「すげー…!」
「…あの泡と水滴を浴びることで、森からの魔力を程よく受取り、自らの体内で変換し、擬獣人として活動するための魔力にする。……ヤコウ村だけでなく、擬獣族はみな、この魔法石の泡を赤子のうちに浴びているのだよ。」
「準備できました。ライリエナ様、どうぞ…」
『にゃぁ。』
ぱたぱたと滴る水たまりに進んでいく……
………ぽわぁぁぁ………!!
「「うわぁぁ!?」」
「きゃぁぁ!!」
……ばしゃんっ!
「……もどったにゃ…!」
「おお、ライリエナ……!」
「おじいさま……!」
「あわわ、お待ち下さい、ライリエナ様!お肌が!」
「わ、あにゃぁぁ!! わすれてたにゃぁぁ!」
きゃーきゃー大騒ぎ。
は、鼻血が………!
「うおーっ!すっげえ美肌!」
「ちょっとお兄ちゃんっ?!!」
「(は、裸…っ!!)」
刺激強すぎます…!
この四歳児の体と目には、刺激的過ぎます…!
金毛ラインの黒猫様!!
もふもふの毛並み!
ふさふさした耳と尻尾!
クリーンヒットです!!
実は僕、獣萌え属性です!
今、精神年齢18歳ですから!
向こう(現実)じゃそういうお年頃ですから!
そんでもって実はロリコンでしたから!
着せられたバスローブが、ぶかぶかなのがまた良い!!
たまらないです!!!
必死に鼻血を押さえて立ち上がると…
バスローブをきたライリエナさんが、駆け寄って来た。
「ありがとうにゃ…!一人きりで、ママのそばから離れるのも辛くて…帰る勇気をくれて、ありがとうにゃぁ…!」
「……いいんだよ。僕のほうこそごめんね…事情も知らずに仲間に誘ったりして…」
「え…?」
「ライは…ライリエナさんは、この村で幸せにならなきゃね。お母さんの分も。幸せになってね。」
「えっ……?」
「僕、またいつかくるね、お母さんのお墓参り。覚えててね。」
「ま、まって…!」
「お、おいアッシュ?どうしたんだよ…?」
…シュワシュワ…
…するっ……!
『!!……グルォウ!』
どんっ!
「わ!!」
「きゃ!?」
突然とび出したルーナン!
ドガッ……ゴッ…!!
「ああっ!」
「魔法石が……!」
ダムセムライトが一つ落下し、勢いよく跳ね上がり…。
「ルーナン!」
僕とライリエナをかばったせいで、欠けて尖った魔法石の塊が背中にぶつかってしまった……!
細かい破片も刺さってる!!
『……グ…ルル……』
「ルーナン!!まって、今抜くから…あ、でも、素手だと危ない…なんか布……っ」
「お、おじいちゃん…!」
「こりゃいかん、まずい……!」
…ぽわぁぁ…………
「えっ…?」
……ジュゥゥゥゥ……
…ピシ、パキ……
「「え、ぇぇええええっっ!?」」
「ま……まじかよ…!」
「るー、なん……?」
「………は、はい…小生、ルーナンであります…主殿……」
「「「小生!?」」」
「こ、これは…一体……?この姿は……?」
「どーやら、上手く適合したようだな。」
「適合…?」
「あのダムセムライトの破片が直に刺さって体内に取り込まれてしまった…それゆえに、強制的に擬獣変化してしもうたようだ。」
「そんな、ルーナンは大丈夫なんですか!?」
「うーむ………ルーナンさんや。」
「はっ。」
「ちょいと体、さわらせてもらうぞ。状態を確かめなければ…」
「は、どうぞ…」
異様に大人びた仕種のルーナン…
見た目の歳は兄ちゃんとかわらないくらいだと思うけど…かなり筋肉質…
とくに腹筋と足の筋肉すげー…
灰色の毛並み、びしっと立つ狼耳とすらりと伸びた尻尾。内側がふさふさ。
メスのライリエナさんと違って…オスのルーナンは、頬から首周りと胸板、腕と足がしっかり毛皮で覆われている。
生えてないのは顔と腹、腕と足の内側だけじゃないかな?…あ、背中の毛皮は少し薄い……
しかしこんだけ毛皮でもかなり美形!
思わずマジマジ眺めてしまう…
そして…アレが、でけえ!
平静であれは、もはや凶器だよ!!
しかも下腹部、剛毛!!
ちょ、お前歳いくつだよ!?
「あっ、兄ちゃん…姉ちゃんが気絶してる…」
「そのままにしてやれ…」
「……りょ、了解…」
「うーむ…………ふむ…」
ぺたぺたと、ルーナンのひじ周りを叩く長老さん…
「うむ、ここじゃな。両手を交差して、両方のひじを叩いてみんさい。で、引っ掛かりを感じる部分があるはずだ、そこを掴んで引き抜け。」
「……?」
「ま、とりあえずやってみんさい。」
「はい…」
ぐぐっ……
「何だろ…?」
「これができねば、擬獣族として認めてやれないからな……」
「「……?」」
ルーナンは、必死に自信のひじに意識を集める。
「………あった…!」
ぎしっ
すす…ず、りっ
ギャリン!!
「「うおおっ!!」」
「ほっほっほっ見事じゃ。」
「け、剣…ひじか、ら、……!?」
ルーナンの両手には、同じ形の短剣。
いわゆる双剣だ。
「擬獣人は、体から武器を取り出せるんにゃ。私は手の甲からカギ爪にゃん。」
しゃきーん。 と、効果音つきで、披露して見せる。
「すごいなー、二人とも…ティアグラすげー!!」
「………というかよ、ルーナン…いいかげん前隠せ……」
「……前?」
「立派なものついてるんにゃね。ま、おじい様ほどじゃないけど。」
ライリエナ…キミも体外だね…
素っ裸でも別に平気なの…?
「気絶してしまって申し訳ありません…大体は兄達に聞きました。」
「仕方ないですよ、ミリアーナさん。突然の事にキャパオーバーもなりましょう。」
「申し訳ありません、姉君…」
「いや、うん、もう大丈夫…」
何とか持ち直した姉ちゃん。
ルーナンは、長老さんの娘さんの旦那さん…つまり、ライリエナのお父さんの服を何着か借りて、袖や裾を捲くっている。
亡くなったお父さんのものは、捨てられなかったんだね…
「それでは失礼いたします。」
「ありがとうございました。」
「長老殿、どうか長生きを…また、たずねに参ります。」
「アッシュ君。ルーナンのことで困ったことがあったら、すぐ来なさい。今度はわしらが助けになろう。」
「はい!ありがとうございます!」
「感謝申し上げます、長老殿。」
「アッシュ…」
「またくるね、ライリエナさん。」
「あ……」
「またねー!」
「「さよならー!」」
長老さんから、捜索完了の書類をうけとった……
指に針を刺して血をだして、書類に血の跡で指紋を残す…血判っていうやつだ……
あとは、この書類をギルドに提出すれば依頼完了。
この書類はギルドから依頼主にわたされるもので、「生きている依頼主の血液に反応する」大変貴重な書類…
依頼主を殺して血判証だけを持ち帰る…なんて事が出来ないようになってるんだ。
勿論、本人の意志で押さなきゃいけないから、無理矢理押させるのももちろん通用しない。
魔法ってすごいなあ……
「……おい、アッシュ…」
「本当にいいの……?」
「…い、いいの。ひぐっ…ライは、いないの……うぐっえぐ…」
泣いてなんか、いないもん……
…………………………………
「ライリエナ…」
「何、おじいちゃん…?」
「行きたいんじゃないのか?」
「………!」
「ええんじゃよ?お前さんのしたいようにして。」
「……そんなの、だめにゃ…私、語尾おかしくなってるし、ルーナンがいるにゃ…」
「彼、泣いてたがなぁ…」
「………」
「どうなんじゃ?」
「……着替えてくる……!ちゃんと話させてにゃ!ちょっと待ってにゃ!」
「ほっほっほ。」
「長老様、よろしいのですか…?」
「なぁに、しかたあるまい。…好きな男と離れるのは辛かろう。」
「……」
「アグエナも、きっと同じじゃったろう…」
…………………………
「主殿…」
「う、く…ひっく………」
「そんなに泣くなら、一緒に行こうって言えばよかったじゃないか…」
「いい……い、いんだよ……ひっく……」
涙腺が壊れたみたいだ。
子供の体は全く言うことを聞かない。
涙を止める術がない。
「ぐずっ……」
言えない。
擬獣人とか魔獣とか、そういうのでなく…
ライが好き。
けど……
ライリエナさんは、お家に帰るべきだ。
心配してた家族がいるんだから。
「…会えなくなるわけじゃないもん……我慢する…」
「強情っ張り。」
「意地っ張り。」
「過度の我慢は必ず身を滅ぼします、主殿。」
「………」
がささささささっ……
「追い付いたにゃぁーー!!」
がさがさがさがさっ
ばばっ!
「へ?!」
「まってにゃー!」
がしっ!
「うにょっ!?」
「……主殿に怪我をさせるつもりか貴様は…!そんなスピードで突っ込んだら危
ないだろうが!」
「耳元で怒鳴るにゃぁぁ!首絞まる!はなすにゃー!!」
森の中を弾丸のように突っ込んできたライリエナ。
軽々と首根っこ捕まえて睨むルーナンにも新たに疑問がわくけど、今は置いといて……
突然の事に涙も引っ込んだよ!
なんで、ライリエナが追いかけてくるのー!?
「ルーナン、手を離して!女の子をそんな風に扱っちゃ駄目!!ライリエナさん、どうしたんですか?!」
「……失礼いたしました。」
「アッシュ!おじい様から伝言!一回しか言わないからちゃんと聞くにゃ!!」
「伝言……?」
「『ライリエナは、わしにとって大事な孫娘。にゃので、どーーーしても連れていきたいにゃら、全力で口説き落とすこと。』 ……だって。ちゃんと伝えたにゃ!」
「「は………?」」
「え、っと…」
「はぁ……」
「にゃ、にゃんだその反応!なんか腹立つにゃ!」
「……それ、承諾は長老さんのところにとりに戻るの?」
「私にまかせるって。…アッシュ達が、どーしても一緒にきてって言うんなら同行してもいいにゃ。ま、私はそう簡単に従わにゃいからそのつもりで……」
「大人になったら、結婚したい。」
「「「「は!?」」」」
「んっと…つがいって言えば通じる?お嫁さんになってほしい。」
「な、にゃ、にゃにゃにを……?!」
「? 口説くんでしょ。毎日でも言うよ。ライリエナが好き。」
あれ、意外と子供の体って便利ー(笑)
素直に言えちゃったよ。
「い、い、いみ、意味違うと思うにゃ……!!!!!」
「なんで?口説くってことは、プロポーズでしょ?」
はい、意味ちがうの、わかってて言ってます。
けどまあ、こういうのもツンデレ猫ちゃんには効果アリでしょ。
「……………っ!?」
「まだ子供だし、冒険者ギルドに入れるまでまだまだかかるけど…狩人のライリエナから見たら頼りないかもしれないけど…、必ずすぐ追い抜いて見せるから。いつかお嫁さんになって欲しい。」
「あ、アッシュっていつもこんなんなのにゃぁ!?」
「……いや、初めて見るケースだ。」
「びっくりした…どうしちゃったわけ……?」
「……ライリエナが好きなんだもん…別にどうかしたわけじゃ……」
「にゃぁぁぁ!?」(←パニック)
「差し出がましいですが…主殿、つがいになるにはお二人とも些か幼過ぎますかと…やはりここは、『お付き合い』というものから……」
「る、ルーナン!あんたまで?!」
「小生は、あくまでも主殿にとって有益な状況を確保しようと……」
「だ、だって……!」
「口説き落とせと申された。ならば間違っていないと思うが…」
「う、うにゃぁぁぁぁ?!」
「ライリエナ…僕の事、嫌い……?」
「うっ………ち、ちがうにゃ!好きにゃ!!」
もじもじちらちら
うるるーん
全力のかわいい顔。
……子供だからこそ、だけどね!
さぁどーする、ライリエナ?
「う、うぅ……わかったよう!降参にゃぁぁぁ!!」
勝った!
その後。
いったんヤコウ村へ戻り…
長老さんにライリエナを正式にお預かり、将来結婚したい、その旨を伝えた…
そんな報告いらないのに。と、笑う長老。
どうやら僕がライリエナを好きだってことはバレバレだったらしい。
「どうぞ、孫を幸せにしてやってくれ。」
「はい!」
「ライリエナ、どうぞよろしくね。」
「…ライでいいにゃ…」
「え、でも…」
「いいの!いいからそう呼ぶにゃぁ!!!」
「わ、わかったよ…」
「ほっほっほ。」