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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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8/21

怜雄の正体

    2003年 椎名怜雄 相川浩二

「ごめん七瀬。今日は倉庫に帰れない」

「え、どうしてよ。学校の宿題教えてもらおうと思ってたのに」

「ちょっとバイトが入っちゃってな。まあ、明日には帰るから」

「ちょっと怜雄」


申し訳なさをかんじつつ、電話を切った。多分電話の向こうでは、また危ないことして、と不安げな表情を浮かべているに違いない。不安がらせていることは申し訳ないが、こちらにも事情がある。今、仕事をやめるわけにはいかないのだ。


ここは築40年のマンションの一室。カーテンはすべて閉め切られており、リビングには複数のパソコン、それらにつながっているケーブルは和室に鎮座する巨大なサーバーへと続いていた。

深呼吸をして怜雄は再びタイピングを始めた。モニターの光が怜雄の顔を青白く照らしている。その隣ではこの部屋の家主であり、相棒の相川浩二が、ガムを噛みながら暗号化されたチャットの画面を見つめている。


浩二は怜雄より3つ年上の20歳で、怜雄よりずっと裏のことについて詳しかった。多少お茶らけた奴ではあるが、腕は確かなため、怜雄は信頼していた。


「例のいじめした高校生三人、処理できたとさ」

浩二が楽しそうな口調で言った。

「今回は臓器売買はなしだろ?」

「もちろん。未成年ってことを考慮してタコ部屋で強制労働だ。20年は出てこれないらしい」

「そっか。こっちももう少しで終わる」

「例の議員のやつか」

「ああ、スキャンダルのオンパレードだ。政治家生命おしまいだな」


怜雄のパソコンのディスプレイには、閣僚経験もある与党の大物政治家の裏カジノ、収賄、売春の証拠を示す写真や、証言、金の流れをまとめた資料が写っていた。


「じゃ、送るぞ」

「仕掛けは?」

「IPの仮想化、国外のサーバーもいくつか噛ませた。大丈夫だ」


クリック一つで、その情報は、とある週刊誌記者へと送られた。数時間後にはネットニュースとして出回り、炎上間違いなしだろう。

「にしてもこれで200万か。週刊誌も太っ腹になったもんだな」


浩二の座っている椅子が、ぎぃと音を立てた。

「政治家を調べるってのはリスクがあるからな。こんぐらいもらわんと、割に合わん」

すげなく怜雄は答える。正直これでも労力に見合ってない、と感じていた。


それほど今回の調査はかなり気を使ったのだ。サーバーに侵入する際に海外のサーバーを普段の倍以上は噛ませ、足跡も徹底的に消した。少しでも情報を残せば、そこから自分達の所在がばれてしまう。しかしほかの話より圧倒的に儲かる。多少のリスクを負ってもやる価値はある仕事だ。


「あと残ってるのは・・・復讐の依頼、B社の情報リーク、キャッシュカードの偽造か」

「情報リーク、キャッシュカードは今やれるだろ」

そして二人は作業に取り掛かった。キャッシュカ―ドは浩二、情報リークは怜雄の担当だった。


怜雄はキーボードを叩き、ハッキングに取り掛かった。迷いなくキーボードを叩き、ディスプレイに英数字が羅列されていく。


このようにハッキングへの道筋を作り上げている時間が怜雄は好きだった。まるでセキュリティーシステムと対局しているような気分になるのだ。相手の隙を見つけ、情報をかすめ取る。それはまるでチェスや将棋のようだ、と怜雄は思っていた。


数時間が経つと、企業のメインサーバーに侵入することに成功していた。そこから企業のコンピューターを乗っ取って、お目当ての情報を探していく。

依頼は掃除機に人工知能を搭載し、自動で動いて掃除をするという優れものの掃除機の制御プログラムを盗むことだった。


メインネットワークに侵入して、しばらく製品開発部のデータをあさってみるが、それらしいものは見つからない。おそらく隠しファイルにでも保存したのだろう。しかし怜雄にとってはそれは無意味だった。ものの10分ほどで怜雄は隠しファイルを見つけ出し、その中のプログラムをUSBにコピーし、足跡を消した。

これで仕事は終わりだ。後はこれを指定された場所で渡せばいい。

浩二を見ると、どうやら偽造カードは作り終わったらしく、キッチンでカップラーメンを準備してくれていた。

「ちょうど三分だ。食おうぜ」

二人でカップラーメンを口に運ぶ。いつものことだが美味い。ここまで何も食べず作業してきた身にとっては、カップラーメンの濃い味がとてもおいしく感じる。

「そういやお前、まだあの倉庫で暮らしてんのか?」

麺をすああ」


「前から思ってたんだけどよ、ここに住めって。一人ぐらい増えても別にいいよ。仕事もはかどるし」

怜雄の倉庫暮らしを気遣ってのことだろう。声色が少し優しくなった。

「ありがたいけど、やめとく」

浩二はちょっと意外そうな表情になったあと、少し考えるしぐさをして

「理由はあの子か?七瀬ちゃん、だっけ?」

どや顔で言った。


なぜ知っている。七瀬のことを浩二に話した覚えはない。怜雄は一瞬身を固くしたが、すぐに理解した。

「調べたのか」

「そりゃあ、自分の相棒になる男の身辺調査は先に済ませるでしょ」

怜雄と浩二が出会い、コンビを組んだのは4年前。その時から七瀬のことを知っていたというのか。

「まあ、そうだな。ここに住んじゃ、あの子連れ込めねえもんな」


そう言って浩二はスープを飲み干し、タバコを吸い始めた。怜雄もカップラーメンを食べ終わり、沈黙が流れる。

しばらくすると浩二が深いため息をついた。

「お前、パソコンに関しては天才だけど、それ以外は結構馬鹿だな」

「どういうことだよ」むっとして言い返す。

「要するに、お前に七瀬ちゃんっていう大切にしている人がいるってのは、調べようと思えば調べられるってことだよ」


それがどうした、と言い返そうとした。

しかし、ある一つの可能性に思い立った瞬間、体中の血管から血が消えたような感覚に襲われた。それと同時にこんな簡単なことにも気づかなかった自分自身にも猛烈に腹が立った。

すりながら、浩二が聞いてきた。



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