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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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老人、そして10年後

「こいつはな、裏じゃ有名だった男だ。地上げ、インサイダー、詐欺、麻薬売買、人身売買、俺たちですらやらんようなことを一人で、しかも警察にばれずにやっていた男だ。だが最近はめったに聞かなくなってた。死んだって噂もあったがな」


「つまり、相当恨みを買っている・・・」


犯人の特定が難しくなった、と思わず唇をかんだ。


「当然だ。俺らのシマはクスリで荒らされるし、詐欺にあう組もあった。極道が詐欺にあうってのも、なかなか間抜けだよな」


ククッ、と面白そうに笑うこの男は、おそらく本当のことを言っている。第一嘘をつく理由がないのももちろんだが、それ以上に言葉に真実の重みがあった。


「で、多くの組の恨みを買ったんで行方を追わせたんだが、何処の組もこいつにはたどり着けなかった。政界の重鎮がかばってるんじゃねぇか、って言ってるやつもいた。奴は政界ともパイプを持ってたからな」


「ちょっと待て。そんな違法行為を政府が黙認していたというのか」


「それは知らない。だが政界にパイプはあった、それは確かだ」


「だから極道の追跡からも逃げきれたのか」


「話が早くて助かるぜ。どこの組も奴を取り逃がした。この裏社会の本気の追跡を振り切るってのは、尋常じゃねえ」


「だが、誰かに殺された」


すると先ほどまで余裕ありげな態度だった川奈の目の鋭さが増し、さらに顔を近づけてきた。


「そうだ。誰が見つけたかはわからねぇが、ただものじゃねぇ。海外マフィア、諜報機関、ひょっとしたらあんたのお仲間かもな」


それはない、と思った。そのような組織は、遺体を完全に消すはずだ。わざわざ遺体を自宅に残し、身分証をすべて持ち去るなんてことはしないだろう。当然それを川奈もわかっているはずだ。


「で、何が言いたいんだ?」


「ククッ、あんたやっぱり頭いいな。うちの組に欲しいぐらいだぜ。うちのやつは暴力をふるうことしか考えてねぇからな」


最後の言葉は、耳元で、村瀬にしか聞こえない声量だった。先ほどの態度を見れば明白だ。自分を暴力で大きく見せ、威圧することしか考えていないんだろうな、そう思った。


「この殺しから手を引きな。こいつは触れちゃいけない類のもんだ」


「言いたいことはそれだけか?」


「ああ」

そう言われれば、もうこの場所に用はない。立ち上がり、組長室を後にしようとした。


後ろから川奈が「俺の言ったこと、忘れんじゃねぇぞ」と声をかけてきたが、無視して組長室を出た。

村瀬がもたらした情報は、捜査本部に悪い意味で衝撃を与えた。大半の捜査員が怖気図いてしまったのだ。そして上も例外ではなく、明らかに事件解決に対し、消極的になっていくのがわかった。 


そうこうしているうちに時間は過ぎていった。世間では東日本大震災が発生し、2回目の東京オリンピック開催され、大盛況となった。そんな時代の流れの中で、捜査本部の規模も縮小に縮小を重ね、いつからか中垣、村瀬、山形の三人だけでこの事件は捜査されることになったのである。


           2003年 椎名怜雄 岩森七瀬

日直が号令を告げ、今日の授業は終わった。その瞬間に椎名怜雄は教室を飛び出していた。掃除や部活に向かうであろう生徒たちをよけながら階段を駆け下り、廊下を走るな、という教員の声を完全に無視し怜雄は下駄箱へと走った。何人かにはぶつかってしまい、舌打ちをされたような気がするが今の怜雄にとってはどうでもよかった。


学校から自転車で飛ばして40分ほど、海に面してる古い倉庫街、そのうちの4番と書いてある倉庫に怜雄は入っていった。


「遅かったね」


重い扉を開けるとそこにはすでに椅子に座った岩森七瀬がいた。白い肌に黒い髪、170センチの身長、気品がある顔立ち、どこをとっても美人と言って間違いない彼女は、光があまり入らないこの薄暗い倉庫のなかにいても不思議な魅力を放っていた。


七瀬は光あふれる花畑も、この薄暗い倉庫もすべて自分のための背景としてしまうような女性だ。彼女が景色に合わせるのではない。景色が彼女に合わせるのである。


「怜雄、鍵」


言われて思い出した。先週からこの倉庫には鍵を付けたのだ。自分たちの空間を邪魔されたくないから。提案したのは怜雄なのに、ついついそのことを忘れてしまう。


 鍵をかけて、荷物を床に放り投げた。


「すまん七瀬。授業がちょっと長引いた」


怜雄もむかいの椅子に座る。二人の間の机にはチェス盤にチェスクロック、床には生き物や恐竜の図鑑、他にも様々な本やボードゲーム、二人分の布団、カップラーメンなどの食べ物まで転がっていた。


「今回は負けない」


「今回も勝つ」

そこから二人は今の目の前の対局以外の一切を頭から排除した。相手が何を考えているのか、どんな戦法を取ってくるか、頭の中で駒を動かしながら、チェックメイトまでの筋書きを作り上げる。


対局が終盤に差し掛かりそうになったころ、七瀬のルークが怜雄のクイーンを取った。目の前のクイーンという極上の餌、七瀬はそれに食いついた。怜雄の筋書き通りだ。キングの守りが手薄になる。そこから5手でチェックメイトとなった。




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