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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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3/21

老人の出自

NOVEL DAYS 、カクヨム、アルファポリスでも書いております。

「どう思う?この事件」


県警本部に戻り、捜査会議の準備をしていると中垣が村瀬に声をかけてきた。


「なんというか、不気味ですね」


「免許証とか保険証とか、パスポートとかそういうものが見つからなかったんでしたっけ。身元がわからない遺体を作りたかったんですかね」山形が口をはさんできた。


「家の中に身分証明がないってことは、犯人が持ち去ったって考えるのが妥当だろうな。だが普通身元がわからない遺体を作りたいんだったら、普通殺した後にどっかに捨てるか、人目がない場所に呼び出して殺すだろ。でも殺したあとになぜか遺体を放置して、身分証明の類を持ち去った・・・・・」


中垣が顎に手を当て、考える人のようなポーズを作った。


「衝動的に殺しちゃってパニックになったんじゃないですか」


「だったら部屋の中が荒れてるはずだ。パニックなら尚更な。それに普通パニックになったら、身分証なんて持ち去らないでそのまま逃げるさ」


今度は村瀬が答えた。


「てことは、あえて身分証を持ち出したことになる。でも発見者のおかげで、被害者の身元は判明してる。これじゃ意味ないだろ」


「偶然じゃないですか、そんな早く遺体が見つかるとは思ってなかったとか」山形が疑うような表情で聞く。


「それならいいんだが・・・もしわざとこういう状況にしたんだとしたら」


村瀬も中垣も同じ不安を抱えているのがわかる。こういう不可解というか、犯人の思考がわからない事件というのは、一番解決が難しいのだと警察官としての勘が告げていた。


「山形、この事件長引くかもしれねえぞ。覚悟したほうがいい」


捜査本部が出来て2週間、ここまで碌な進展がない。わかったことと言えば被害者のフルネームが佐々木岩治だということ、年齢が84歳だということぐらいだ。指紋やDNAは被害者のもの以外検出されず、遺留品も犯人の手掛かりになりそうなものは何も見つかっていない。


捜査会議で挙がってくる情報も、以前に虫歯の治療のために歯医者に通っていただとか、自炊はほとんどせず、外食が多かったことなど、どれもこれも情報と呼べるレベルのものではない。今日にいたっては、行きつけのレストランのお気に入りの席を捜査情報として挙げた班があった。日を追うごとに捜査本部の雰囲気は沈み、袋小路に迷い込んでいくのがはっきりと分かった。


今捜査員がやれることと言ったら、被害者の周りを徹底的に調べることぐらいである。行きつけのレストラン、通っていた病院はもちろん、町内会長にまで話を聞きに行った。


事件の前に何か変わった出来事はありませんでしたか、被害者の写真を見せて、この人をどこかで見たことはありますか、と聞いてみても


「知らない」


「特に何もなかった」


こんな言葉しか返ってこなかった。


この停滞している捜査を一気に進展させるもの、それは被害者の戸籍謄本を見つけることだと、村瀬は考えていた。戸籍謄本があれば、親戚、兄弟がわかる。


そうすれば被害者の人となり、人間関係が見えてくるかもしれない。被害者は本籍を移していないようで、浦和区役所では戸籍謄本を見ることはできなかったが、被害者の遺留品に何かしらのヒントがあるだろう。そう思っていたが・・・・・


「村瀬さん。この作業本当に意味あるんですか?」


「絶対にどこかにヒントがあるはずなんだ」


ほとんどの捜査員が聞き込みで出払い、がらんとした捜査本部に大量の遺留品を並べ、被害者がもともと住んでいた場所のヒントを探す。途方もない作業だが、現状これ以外に方法がない以上、やるしかなかった。


「ただ、被害者はやけに民謡が好きだったみたいだな」


中垣が言った。


「民謡ですか?」


「おう。見てみろよ、これ」


確かに津軽あんから節、鹿児島よさこい節、日本全国の民謡のCDが中垣の前には並べられていた。


「それならこんなのもありますよ。シャーロックホームズとか名探偵ポアロの英語版」


「その代わり、写真やカメラの類は一枚もなし。どうなってんだこりゃ」


被害者のことを知ろうとすればするほどに、逆にわからなくなっていく。ここまでくると犯人だけでなく、被害者も自分のことを隠そうとしているような、何か秘密があるような印象を受ける。そう考えた時、村瀬の頭に一つの可能性が浮かんだ。


「前科持ちの可能性はありませんかね。それも何か重大な犯罪で服役していた。殺人、強盗などの重大な犯罪を犯したことがあるなら、近隣住民にばれないように関わりを少なくするのも頷けますし、自分の身元につながるものはなるべく持たないでしょう」


正直ただの思い付きに近い。だが現状出せる答えの仲としてはまずまずなほうだろう。


「前科か・・・・なくはないな」


「それでその時の被害者、もしくは遺族がお礼参りをしたっていうことなら、筋も通りますね・・・きっとそれですよ!」


山形は興奮気味に言うが、あくまでこれは思い付きだ。証拠も確証も一切ない仮説にそこまで期待されても困る。


「俺問い合わせてみます!」


山形は捜査本部を飛び出した。多分法務省の犯歴照会センターに向かったのだろう。犯罪を犯した者の生年月日、罪状、刑の執行状況などがすべて保管されている場所だ。


「・・・飛び出してっちゃいましたね」


「まぁ、可能性がないわけじゃないからな。俺らはまた作業に戻るか」


そうして作業を再開して、2時間ほどすると、何ともいえない表情で山形が戻ってきた。


「その顔はなかったか」


「いえ、ないわけではないんですが・・・」


「どうした。やけに歯切れ悪いな」


「佐々木岩治という名前の前科がある人は15人いました。これがその人たちの個人情報です」


山形はバックから書類を取り出し、机の上に置いた。どさっという音がした。


「ただどの人も被害者と年齢が合わないんですよね」


「なら全部違うじゃねぇか。なんで持って帰ってきたんだ」


中垣が頭をこつん、と叩いた。


「いや、年齢は嘘ついてる可能性もあるじゃないですか」


「馬鹿野郎。被害者の年齢は病院で出した保険証で特定したんだぞ。忘れたのか」


「保険証を偽造したりっていうのは・・・・」


「ドラマの見過ぎだ」


村瀬がすげなく切り捨てた。


「地道にやるしかないってことだな」村瀬が肩をポンと叩いた。


「・・・・はい」


そうしてまた三人は、いつ身を結ぶかもわからない地道な作業に戻った。



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