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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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19/21

怜雄の覚悟

怜雄は自分が暴いたスキャンダルがニュースとなるたびに、いつもどこか滑稽な気持ちになる。この前までわが世の春を極め、自分の欲望を満たせるだけ満たして、人生を謳歌していたような男の人生をどん底まで突き落としたのは、たった二人の若者なのだ。しかもたった50万円のためだけに。


パソコンを開いて浩二からのメールを確認すると、復讐の依頼がまた来ていた。ターゲットは主に高校生、大学生、社会人であることが多いのだが最近は噂が広まったのか中学生、小学生からの依頼も多くなっている。


正直中学生や小学生からの依頼は困る。タコ部屋で働かせるほどの体力がないし、かといって、裏市場で売るのも気が進まない。


何よりも年代が下がるごとに復讐の動機が弱いのだ。「友達とけんかした」だの「この前の遊びに誘ってくれなかった」だの、子供のよくあるトラブルで簡単に復讐を依頼してくる。


もし仮にそのような復讐を実行すれば、最初は気分が良いかもしれない。しかし時が経つにつれ、依頼したことを後悔し、精神を病むだろう。本来復讐とはそんな簡単に実行すべきではないのだ。


そんなことを考えていると電話がかかってきた。相手は浩二だった。浩二からの電話は珍しい。新たな仕事か、それとも何か不手際でもあったのかも知れない。


「もしもし?」

「もしもしじゃねぇよ。お前が住んでる倉庫街で殺人事件起こったって、ネットニュースでやってるぞ」

「殺人事件?どういうこと?」


頭が混乱した。ただ死体が流れ着いたわけではなく、ここで殺人事件が起きた、もしくはこの場所に遺体を運んだということなのか。誰が、何のためにそんなことをする必要がある。


「お前今倉庫にいないのか?」

「いや、いる。朝からパトカーが来ているのは分かってたけど、ただ死体が流れ着いたとかだと思ってた」

「流れ着いた?ああ、そういやあの倉庫街、海に面してたよな。って・・・」


どうやら浩二もおかしさに気づいたらしい。電話の向こうで腕を組みながらうんうんとうなっている浩二の顔が想像できた。


「ただの殺人事件って感じじゃなさそうだな」


浩二の声はいつものお茶らけた声ではなく、どこか固さを含んでいた。


「普通海に捨てるよね」

「わざと遺体を残したってことは何か狙いがあるんだろうな。成り行きで殺して、テンパってそのまま逃げたっていう線もあるけど、もしそうだとしたら犯人は馬鹿だな」


ククッという独特の笑い声を響かせる浩二。もし自分が浩二の立場だったら、一緒になって犯人を笑うだろう。しかし、なぜか処理されていない遺体、というのが怜雄の心をとらえて、離さなかった。


「そういや倉庫街には防犯カメラあるのか?お前が映ってたらやばいぞ。消しとくか?」

「倉庫街自体には防犯カメラはない。ここに入る道路にはあるけど、いつも防犯カメラには映らないルートを選んでる。七瀬にもそうしてもらってるから、大丈夫だと思う」

「やるじゃねぇか」

「多分この倉庫街、監視されているだろうから、警察の捜査が落ち着いたらそっち行くよ。それまで仕事は全部リモートになると思う」


こういう時のために、一応ここに電波を引いておいて良かった。


「わかった」


そして浩二との電話は切れた。


電話を切ると、怜雄は一つ深呼吸をした。浩二と話しているときは無理やり抑え込めていた妄想が、自分一人になった途端にはっきりとした形を持ち始めていくのがわかる。そんなわけがない、ただの偶然だろう、何回も心の中で唱えても頭が勝手にストーリーを作り上げていく。


11年前のあの事件と今回の事件の共通点は、死体を処理できたはずなのに、なぜかされていないこと、これだけだ。これだけで、11年前の事件と今回の事件がつながっているとは言えない。それに、なぜ今頃になって犯行を再開したのか、という疑問も残る。


怜雄は、床に散乱している工具箱のうちの一つに近づき、開けた。中にはトランシーバーのようなもの、アンテナ、小型の機械、それらを修理、改造するための部品が入っている。


しばらくの間、目を閉じて考えた。リスクはあるし、下手をしたら怜雄自身が捕まる可能性もある。しかし、それ以上に安心したいという気持ちが強かった。自分の嫌な妄想を打ち消したかった。


怜雄はもう一度目を閉じた。今度は先ほどよりも長く、ぶつぶつと何かをつぶやいている。3分ほどたち、目を開け、倉庫のほこり臭い空気を目いっぱいに吸い込んだ。先ほどよりも静かにはなったが、人の気配は消えていない。おそらく鑑識が現場の遺留品でも集めているのだろう。


もう覚悟は決まった。いつになく真剣な表情で、パソコンの電源を入れ、キーボードを叩き始めた。



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