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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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再びのじけん

捜査本部付の内線電話がけたたましい音を立てる。その瞬間に、先ほどまで談笑していた中垣、村瀬、山形の三人が一瞬動きを止めた。この電話が鳴るときは大体事件の応援要請だと、相場が決まっている。


「はい」中垣が固い声で電話に出た。


「ええ、はい、はい。えっ、どういうことだっ」


単なる事件の応援要請ではないのだろう。途中から明らかに声の調子が変わった。

「わかった。すぐ行く」

電話を切った後も、何回か息を吐き、こめかみを抑えている。必死に自分を落ち着かせようとしているようだった。


「どうしたんですか、班長」

山形が中垣を気遣うような声色で聞いた。

「・・・立花重蔵のものと思われる顔写真が見つかったそうだ」

「えっ」

思わずそんな声が出た。山形に至っては口が半開きのまま、言葉も出ないようだ。


「海に面してる倉庫街、あるだろ?あそこの外れで遺体が見つかったんだが、その遺体が立花の顔写真を持っていたらしい」

「遺体の身元は?」

「わからん。身分を示すものは何も持っていなかったそうだ」

三人の視線が合わさる。言葉を交わさなくても伝わった。

「とりあえず、現場に行ってみましょう」

どうにか自分を落ち着かせることに成功した山形が、不自然に高い声で言った。

「そうだな、行くぞ」

自らを鼓舞するように大きな声を出した中垣を先頭にして、三人は部屋を飛び出した。



「よう」

「ああ、お疲れ様です」

現場に到着すると、現場の責任者と思われる警部が頭を下げてきた。どうやら中垣とは知り合いらしい。


「で、立花の写真は」

「被害者のスーツの胸ポケットに入ってました」


これなんですがね、と言って彼が見せてきた写真は、海岸で撮った写真だった。左端には70代ほどの女性、真ん中には麦わら帽子をかぶった30代ほどの若い女性、そして右端には、立花重蔵が写っていた。遺体として見つかった時よりは若々しいが、間違いない。


「間違いねぇな。こりゃ立花だ。写真の日付は、ええと・・・」

「2006年10月25日。事件の4年前ですね」


老眼で細かい文字が読みにくくなっている中垣に代わって、山形が答えた。

「写ってるのは家族か?」

「わかりませんが、その可能性はありますね」

「で、問題はなんでこの写真を被害者が持っていたのか・・・」


村瀬は自分に再度確認するようにつぶやいた。そこで初めて、被害者のことを思い出した。


「そういえば被害者は?」

「こちらです」

その言葉を待ってました、とばかりに進む彼についていくと、堤防に横たわるように座る、胸のあたりが真っ赤に染まった被害者の遺体があった。50代ほどの女性に見えた。


「死因は失血死か」


「はい。それは間違いないと検視官が。心臓をひと突きだそうです。かなり慣れていないとこんなことは無理だと」

「死亡推定時刻のほうは」


山形が聞いた。


「おとといの夜から昨夜までの間だそうです。後で司法解剖にまわしておきます」

「頼む」

「では、私は一旦これで。部下たちに指示をださないと。気になることがあったら鑑識員たちに聞いてください」


そう言ってあわただしく、鑑識やほかの刑事たちがいる方向に走っていった。部下にあわただしく指示を出す彼を少し眺めた後、三人はまた遺体に視線を戻した。


「近くに海があるってのに捨てもせず・・・・」

舌打ちをして中垣が海のほうを向いた。

「ええ。やっぱり似てますね・・・」


11年前もそうだった。犯人の不可解な行動、身元不明の遺体、あの事件の感覚がよみがえってくる。答えのない迷路に迷い込んだような、あの感覚。


「ちょっと二人とも。感傷に浸っても始まりません。とにかく今はやれることをやりましょう」


山形がそう言って手を叩き、遺体のそばにしゃがみこんだ。そうだ、11年前の事件がどうとか、似てるだとかそんなことは一旦どうでもいい。今考えるべきは、この被害者の無念を晴らす、それだけでいい。


「心臓を一突きってことは、素人じゃないな」


どこか浮足立っていたように見える中垣も、いつもの調子が戻ったらしい。その顔はベテラン刑事にふさわしい眼光の鋭さを秘めていた。


「ええ。それに知り合いの犯行ですかね」


被害者の着衣に争ったときにできるような着衣の乱れはないこと、そして正面から刺されていること、これが根拠だ。


「プロの知り合い、となると・・・」

三人とも考えていることは同じだろう。この被害者も立花と同じように裏社会の人間ではないか、そうすれば立花の写真を持っていたことにもつじつまが合う。


「ただ遺体の処理をしていないってのは、やっぱ引っかかりますね。わざわざここに遺体を持ってきたみたいですし」


被害者の頭が当たっている位置に、血はついていない。もしここで刺されているなら被害者が倒れた時に頭がぶつかって、血が出るはずだ。しかし見たところ堤防に血はついていない。


「被害者の他の所持品、見たいですね」

「すいません。ちょっといいですか」


不意に声をかけられ振り返ると、青い遺体袋を持った若手であろう鑑識員たちが非常に緊張した様子で立っていた。どうやら遺体を持っていくらしい。


「ああ、すまん」

中垣が声をかけると、何人かの鑑識員が一瞬ぎょっとした表情を見せた。おそらく浦和署の鑑識員だろう。中垣の顔は本部では割と有名だ。そこまで驚く人間は本部にはほぼいない。


「おい、おれは別にやくざじゃねぇぞ」

「ああ、いえ。すいません。あの、顔が・・・」

「すまんな。班長の顔が怖くて。この人の顔は、もうこれ以上ないやくざ顔」


少し芝居がかった声と表情で山形が言うと、こわばっていた鑑識員たちの顔にも笑みがこぼれた。

「あんま気負いすぎんなよ。緊張するのはいいが、余裕がないと遺留品見落としちまうぞ」

村瀬も笑顔を作って言った。


「おーい。どうしたんだ。早く遺体もってこい」遠くから鑑識班の班長らしき人物が近づいてくるのが見える。その姿を見ると、鑑識員たちは慌てたように

「すいません」

と言って遺体をあわただしく、かつ慎重に袋の中に入れていく。


「あぁ、やっぱり来たんですか」


三人に声をかけてきたのは昔からのなじみである鑑識員の一人だ。おおよそ警察官とは思えない優しい顔をしているが、鑑識としての腕は確かであり、今は班長をしているはずだ。さっき遠くで鑑識員たちを呼んでいたのは彼だと、村瀬は気づいた。


「ちょうどよかった。被害者の所持品ってどこにあるんだ」

村瀬が聞いた。


「見てないんですか?あの写真ですよ」

「あれだけか」

「ええ」


被害者のズボンは乱れていなかったはずだ。ということは被害者はあの写真だけ持っていたのか。それとも手ぶらで出てきて、犯人があの写真を遺体に入れたのか。


「じゃあ遺留品は?」

「あるにはありますよ。ただ、詳しいことは分析してみないとわからないですね」

「防犯カメラがありそうなところでもないしな」

山形が辺りを見渡す。確かにもう使われていないこんな倉庫街には、防犯カメラはないだろう。

「ええ。でもここに入っていく道路には、防犯カメラはあるみたいですよ」

「わかった。ありがとうな」


中垣が礼を言うと彼は頭を下げて、鑑識員たちのところへ向かった。

「ここに入ってくる道路の防犯カメラか。ええと・・・・」

山形がスマホを取り出し、調べようとしたその時

「ああ、よかった。まだここにいたんですね」

彼と立ち替わるように息を切らしながら三人の前に現れたのは、先ほど三人に現場を案内してくれた警部だった。


「どうした」

「先ほど近くの防犯カメラを調べたら、昨日の夜にこの倉庫街に向かう車が写っていたんです」

「なにっ」

中垣が目の色を変えた。


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