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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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怜雄の母

性的描写がございます。苦手な方はご注意ください

「まあとにかく、そんな感じで優しかった母さんはクスリにおぼれ、暴力をふるうようになっちまった。ただその時、唯一与えてくれたものがある」


「何をくれたの?パソコン?」


「生き抜くっていう、執念だ。俺は幼稚園なんて行ってなかったし、母さんも親戚づきあいなんてなかったからな。自分一人でも何がなんでも生きてやるって思ったよ」


「そっか・・・・いろいろ大変だったんだね」


「それなりにはな。でもまあこのぐらいの話なら、別にないわけじゃない」


「じゃあ、この後に何かあったってこと?」


「まあな。結局小学校に上がっても状況は変わらなかった、というか悪くなったな。学校はあんまり行かせてもらえなかったし、相変わらず暴力は振るわれたんだけど、それに加えて、母親が仕事を始めたんだよ」


「仕事ならいいんじゃない?って思ったけど、多分、まともな仕事じゃないんだよね・・・・」


「そういうことだ。母さんはインターネットの裏サイトを使って、俺の体を売らせたんだよ」


「どういうことなの・・・」


「そのまんまだ。最初は裏社会ですさんだ女が多かったな。それこそ母さんと同じ、極道の元愛人とか。たまに男のやくざもいたけど」


「ごめん、もうやめて」


俯きながら肩を震わせ、涙交じりの小さな声だった。体中のすべての気力を使って絞り出したような声だった。


「怜雄がそんなにつらい目に合ってたなんて、私知らなかった」


「いや、別につらくもなかったぞ。人間慣れるもんで・・・・」


「つらいのよ!!!」


「そんなことされて、自分のお母さんにそんなことさせられたら、つらくない人間なんていないのよ。しかも怜雄はお母さんのこと好きだったんでしょ?優しいお母さんだったんでしょ?」


涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただ自分の思ったことを、吐き出している七瀬。その様子を見て、怜雄はふーっと、重く、深いため息をついた。


「七瀬。少なくとも、俺はこうしてあの時のことを、冷静に、振り返ることができる。だから、もう大丈夫だ」

一音、一音、区切って、子供に言い聞かせるような口調で話した。


「ほら、俺はここにいるだろ?七瀬の隣で笑うことだってできる。だから、もう、大丈夫だ」


念のため、耳元で優しい言葉をかけて、七瀬を抱きしめる。泣いているときは、こうすれば泣き止む確率が一番高いことを、怜雄は知っていた。


「ごめんね、いきなり、取り乱しちゃって」



しばらくすると、ところどころつっかえ、鼻をすすりながらではあるが、多少落ち着きはしたらしい。


「続き、話しても大丈夫か」


「・・・・・うん」

「仕事をやり始めて時間が経ってくると、だんだん企業の専務だの社長だのが、たまに来るようになってな。この時にパソコンをもらったんだよ」


「そっか、この時にパソコンと出会ったのか」


「そう。企業の人たちは優しくてよ、俺にプログラミングの基礎とか、セキュリティの知識とか教えてくれたんだ。その時初めて仕事が楽しみになったよ。お礼にちょっとサービスしてやったりもしたな。そんな生活を小学校卒業までは続けてた気がする」


「周りの人にはばれなかったの?」


「ばれてなかったと思うぞ。家庭訪問の時とかは、客に母さんの服着せて、多少みすぼらしい格好させればいいだけだったし」


「でも近所の人とか・・・」


「もちろん家ではやらないさ。まあ、大体は都内のホテルだったかな」


「そっか・・・・でも小学校までってことは・・」


「そう、中学校からは少し変わったな。母さんが消えたんだよ」


「どういうこと?」


「さあな。クスリで頭がおかしくなったか、借金を返せなくなったか。そのどっちかだと思う」


「待って、お母さん借金までしてたの?」


「話してなかったっけ。母さんはクスリ足りないからってよく借金してたぞ」


「でも、怜雄の体を売らせたって・・・・」


「所詮素人だ。ただの薬中がやってる商売だし、客からしてみれば性感染症とかのリスクもある。多分相場の十分の一にも満たない値段だったと思うぜ。それにクスリの売人が値段を釣り上げてたはずだから、金を全部つぎ込んでも足りなかったと思う」


「じゃあ、中学校は通ってないの?お母さんがいないんだったら家賃だって払えないし」


「一人の客が面倒見てくれたんだよ。母さんと同じ、元極道の女の人でな。家賃払ってくれたし、お母さん役として三者面談にも行ってくれた」


「じゃあ、いい人・・・・だったのかな。いや、でもそれは違うか」


「当時の俺にとってはいい人だったよ。未成年を買ってる時点で、人間的にいい人じゃないけど」

「で、中学を卒業したんだ。高校はどうしたの?」


「高校に行かずに働こうとも思ったんだが、仕事の知り合いに高校は出とけ、って言われたんで、とりあえず家の近くの高校に行くことにした」


「仕事って・・・・ああ」


「そう。無修正のAVを売る仕事だ。一応俺にも仲間がいてね、売り上げは二人で山分けだ」


「そっか・・・仲間がいるんだ」


「気の良いやつでよ、飯おごってもくれたり、相談乗ってもらったりとか。人生で初めてできた同世代の話し相手だな」


ふと前を見ると、七瀬の目にはまた涙が浮かび、しゃくりあげないように必死に口を固く結んでいた。



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