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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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13/21

七瀬とのデート

「あー、涼しい」


県警に入った瞬間、思わずそう声が出た。何しろ炎天下の中2時間、ほぼノンストップでチラシ配りを続けたのだ。汗で濡れたワイシャツに、エアコンの風が当たって心地よい。


「かぁー、うめえな。やっぱチラシ配りの後は、スポーツドリンクに限るな」


中垣も額をぬぐいながら、スポーツドリンクをのどを鳴らしながら飲んでいる。


「班長、あんまり一気に飲まないほうがいいですよ。スポーツドリンクって糖分多いから一気に飲むと、ペットボトル症候群って言って、急性糖尿病になることがあるそうです」山形が人差し指を立て、訳知り顔で言った。


「そうなのか。気を付けねぇとな」中垣が慌てて、ペットボトルから口を離した。


「そういう山形はコーヒー飲みすぎだ。胃が荒れるぞ」


「だって好きなんですもん」


途端に嫌そうな顔をした山形の手には、先ほどコンビニで買ったペットボトルのブラックコーヒーが握られていた。山形は毎日これを飲んでいる。若い時ほど体は言うことを聞いてくれないのだから、多少は我慢するべきだ、と村瀬は思っていた。


「そういう村瀬も、毎日菓子パンとおにぎりだけはやめろ。お前こそ体壊すぞ」


そこを突かれると何も言えない。確かに村瀬の手には昼食としていつも食べている、メロンパンと、たらこ明太おにぎりが握られていた。


「しょうがないじゃないですか、美味いんですよ」


「山形とおんなじようなこと言ってるじゃねえか」


山形と中垣は笑いながら、村瀬は少しばつが悪そうな顔をして、三人は捜査本部へと入っていった。


      2003年  椎名怜雄 


怜雄にとって今日は珍しく、学校も仕事もない休日だ。時計を見ると午前7時、いつもならまだ寝ている時間だが、今日は午前6時から起きて、家のクローゼットにある服を眺めながら、あれでもない、これでもないとうなっている。


なにせ今日は七瀬との水族館に行く約束をしている。いつもの服装でもいいが、やはりこういうときは、いつもと同じ服装ではあまりよくないのだろう。女心に疎い怜雄でも、そのぐらいの知識はある。


しかし30分ほど考えてみても、何を着て行けばよいのかさっぱりわからなかった。

ええい、こうして考えていてもしょうがない。この調子では3時間たっても決まらないだろう。こういうときはもう適当に、一番しっくりきたやつにしよう。そうして息を少しはいて、一番最初に目についた服をハンガーから外した。


結局いつも着ている服になってしまった。黒のTシャツに、グレーのズボン、お世辞にもおしゃれな恰好とは言えないだろう。待ち合わせ場所である、いつもの倉庫にはこれ以上ないほど似合う服はないが。


幻滅されなきゃいいな。ため息をつきながら倉庫の前までくると、既に七瀬が落ち着かない様子でスマホをいじっていた。


マズい、遅刻したのかもしれない。慌てて七瀬の眼前まで行き


「ごめん、七瀬。俺遅れたか?」


そう頭を下げた。


「全然。むしろ早いぐらいよ」


「ならよかった。どのぐらい・・・」


待った?と続けようとして顔を上げたが、言葉が続かなかった。普段着ていないようなおしゃれなスカートをはき、肌もいつもよりきれいになっている気がする。要するに、いつもよりかわいい。


「どのぐらい、何?」


「ああ、いや。なんでもない」


「ふぅん、ところでさ。今日の私、どう?結構頑張ったんだけど」


「まあ、うん。いいと思う。おしゃれだし」


少し上目遣いで、恥ずかしそうに聞いてくる七瀬の目を、どうにか見ないようにして、答えた。


「ホント?ならうれしい」


「なんかごめんな、俺こんな格好で」


「怜雄は隣にいてくれればいいの。それだけで十分。ほら、電車来ちゃうよ。行こ」


そう言って、七瀬は怜雄の手を引き、歩き出した。


「ねえ、怜雄。こっち来て。この魚すっごいきれい」


「はいはい、どうしたんだ」


そうそっけなく答え、美南のところへ向かう。せっかくのデートだし、本当ならもう少し、明るい口調で返事をしたいのだが、なぜか緊張してそっけなくなってしまう。


「あれぇ、なんか今日そっけないなぁ」


口ではちょっと寂しそうに言っているが、目は笑っている。



「何にやついてんだ。それで、きれいな魚って?」


「ああ、そうだった。今、一番奥にいるやつ」


美南に指さされた水槽を覗き込むと、6センチほどの色鮮やかな小さい魚がいた。

その瞬間に怜雄の脳内コンピューターが検索を始めた。すると、以前読んだ魚の図鑑のあるページが呼び起こされる。


「あれはニシキテグリだな。甲殻類なんかを餌にしてる魚だ。サンゴ礁とかに生息してることが多いな。ちなみに細胞が青色の色素を持ってる数少ない魚の一つでもある」


「へぇ、すっごい。水族館の説明通りだ」


七瀬が水槽の横にあるパネルを指さした。


「なら俺が説明する必要なかったか」


「もう、なんで今日はそんな態度なの。せっかくのデートなんだからもう少し楽しもうよ」


「楽しんでるよ」


「じゃあもっとこっち見てよ。なんか今日はあんま顔見えない。あ、見てみて。サメいる」


今度はサメがいる巨大水槽を指さし、瞬く間にそちらに向かっていった。今日は七瀬に振りまわっされぱなしだな、と自分自身に半ば呆れながらも、水槽の前で笑顔を作り、なるべく七瀬の顔を見るようにしようと自分に言い聞かせながら、怜雄は七瀬のもとに向かった。


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