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秘密の守り人  作者: 北見剛介


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12/21

10年後


         2003年 村瀬俊一

「おい山形、それこっち置いといてくれ」


「了解です」


「村瀬ぇ、伝票処理終わったかぁ?」


「すいません、あとちょっとで終わります」


「班長こそ、鑑識に証拠品持っていくって言ってませんでした?確かあれ、急ぎでしたよね」



「やべっ、そうだった」


中垣班長が禿げ頭を掻きながら、バタバタと部屋を飛び出して行った。部屋の正面には、「さいたま市老人殺人事件特別捜査本部」という立派な看板が掛けてある。しかし、それに反して、部屋は狭く、捜査員も中垣、村瀬、山形の三人しかいなかった。


「そういや山形、この前の連続強盗事件の時、大手柄だったらしいな」


「いやいや、たまたまうまい具合に推測が当たっただけですよ」


そう笑いながら山形は言うが、犯人の犯行の癖を読んで、次に襲われる家を特定、現行犯で逮捕するなど、並大抵のことではない。あのひよっこが立派な刑事になったなぁ、と村瀬は感傷に浸っていた。


「そういう村瀬さんだって、神戸で発生した通り魔事件、解決してたじゃないですか。兵庫県警からスカウトも受けてたんでしょ?」


「まあ、一応はな」


「良い待遇だって聞きましたよ。もったいないなぁ」


「馬鹿か、この事件ほっぽり出せるかってんだ」


「まぁ、そうですよね。だから俺も残ってるわけだし」


「中垣班長もな」


「酔っ払うといつも言いますもんね。この事件解決してから警察やめるんだぁ、って」


20年間未解決の「さいたま市老人殺人事件」自称佐々木こと、立花隆三氏が、自宅で何者かに刃物で刺され、死亡した事件である。遺体の身分を証明するものは、すべて持ち去られており、おまけに被害者が偽名を使っていた、という謎が多い事件だ。今でも平成の未解決事件として、取り上げられることがある。


「ただ依然として捜査は進まず。10年間ほぼ進展なしで、解決の糸口なし」


「で、俺らはなぜか残された捜査本部に留まり、いつまでも昔の事件に執着している亡霊扱い、と」


通常、捜査本部は、事件が解決すれば当然解散するが、未解決でも手がかりが一切ないような場合、時間がたちすぎているような場合は県警の本部長の許可があれば、解散することが多い。そしてその捜査は所轄に引き継がれるが、実質的には捜査打ち切りになる。


しかしこの事件は、そうはならなかった。なぜだか歴代の埼玉県警本部長は、この捜査本部の解散を承認しなかったのだ。時代の流れに従って捜査本部が縮小され、志願して残っている中垣、村瀬、山形の三人だけになっても、狭い部屋に追いやられているとはいえ、存続している。


といっても、今更捜査することなどないため、領収書の処理、他の部署の雑用、たまに事件の応援要請が来るという特殊な立ち位置ではあるが。


「いやぁ、参った、参った」


禿げ頭を掻きながら、中垣班長が部屋に戻ってきた。顔に大きな傷を持ち、目つきも鋭い、刑事というより暴力団のような見た目であり、自分の子供が小さい時にだっこしたら泣かれた、というエピソードを持っている。しかし実際は、誰にでも優しい気の良いお爺さんだ。


「鑑識行ったら、俺の顔見た新人の女の子があんまり驚いたもんで、その子が手に持ってた証拠品落としちまってよ。それで他の鑑識員に怒られて、なんか申し訳ない気持ちになってたら、なんでそんな顔面が怖いんですか、って俺まで怒られちまった」


「まぁ、班長の顔面は怖いですからね。にしてもなんで班長まで怒られてるんですか。一応警部なのに」

山形が不服半分、面白さ半分で言った。中垣の肩書は警部だ。確かにそこら辺の鑑識員より階級は高いだろう。ちなみに村瀬も山形も、階級は警部補だ。


「まあ、俺たちの立場考えればしょうがないわな」


「追いたい事件追わせてもらえるだけ感謝、ってことですかね」


「そういうことだ」


村瀬が時計を見ると、あと少しで12時、そろそろ出なければいけない時間だ。


「二人とも、そろそろ行きましょう。あとちょっとで12時です」


「もうそんな時間か。じゃあその前に・・・・」


三人は机の上に置いてある、被害者の写真に手を合わせた。いつか必ず、犯人を逮捕して見せます。そう心の中で語りかける。捜査本部がこの三人となってからは、ほぼ毎日続けている習慣だ。


「行くか」


しばらくして中垣がそう告げ、三人はチラシを持って部屋を出て行った。


「10年前、、南区で発生した老人が殺害された未解決事件について、知っている方いたら情報提供お願いします」


「お願いしまぁす」


うだるような暑さの中、三人は必死に声を張り上げ、道行く人にチラシを渡していった。昼休憩に行くであろう会社員、買い物帰りの主婦、ふらふらと歩いている若者。半分ぐらいの人は人は受け取ってはくれるものの、興味なさそうな目をしている者が多かった。家に帰ったらゴミ箱に捨ててしまおう、とでも考えているのかもしれない。


しかし、それでも良いのだ。少しでもこういう事件があったんだ、と知ってもらうだけでよい。それだけでも、こうしてチラシを配る意味があると村瀬は考えていた。


ここ最近は暑すぎて、セミの鳴き声も聞こえなくなってきているような気がする。夏の風物詩と言われているようなセミも、いつしか忘れ去られ、未来の子供たちにとってはセミは夏の生き物ではなくなってしまうのかもしれない。


この事件もそうなってしまうのだろうか、起きた当時は閑静な住宅街で起きた殺人として、随分騒がれたというのに。誰の記憶にも残らず、ただひっそりと消えていくなんて。それじゃあ被害者があまりにも不憫じゃぁないか。


いや、そうはさせない。そのために俺たちが、捜査本部があるんだ。


「すみませーん、10年前に起きた・・・」


改めて気を引き締め、村瀬は高校生ほどの若いカップルに声をかけた。



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