証明しろ
正道(遅い、遅すぎる)
正道(俺達が目的地に着いてからもう1時間も経っ
てるぞ)
エーミールを見ると木の上に登り足をプラプラ振りながらニコニコしている。
エーミール「?」
エーミールは私の視線に気づくと首を傾げて私を見下ろしている。
エーミール「遅いね〜」
正道「悪いな、いつもこうなんだ」
エーミール「いいよ〜、正道と一緒にいるの楽しい
し」
そう微笑むエーミールに無意識に私もはにかむと丁度三人が登場する。
両目「遅れた」
正道「一時間も待ったんだが」
三人の手にはソフトクリームやチュロス、フランクフルトが握られている。
正道「その手にあるものはなんだ」
両目「食べ物だが?」
正道「はぁぁぁ…」
右目「あ、例の亜人ってお前?」
右目がエーミールを見てそう言うとエーミールは木の上から降りてくる。
エーミール「多分そう」
右目「へ〜、大人の亜人か」
右目はエーミールの顔を掴むと長い舌で自身の唇を舐め口角を吊り上げた。
そして、その舌でエーミールの顔を舐めだした。
正道「お、おい!」
右目を引き剥がすと右目は手をパーにしてケラケラ笑う。
右目「ちょっとした味見だよ~」
右目は落としたフランクフルトを拾い何事もなかったように口をつけた。
左目「うわ…汚い…」
後で様子を見ていた両目が急にエーミールの元に歩いてくると目の前に立ち、エーミールを見下ろす。
両目「私達はこいつが人間の味方なのかを見に来
た」
両目「もし敵だと判断したら私はお前を殺す」
成人男性程の身長をもつエーミールをゆうに超える高身長の女に睨まれながら詰められるエーミールは元気よく返事をした。
エーミール「うん!」
両目「……そうか」
エーミール「僕はエーミール、よろしく!」
そう危機感もなく手を伸びしたエーミールに両目は戸惑いながらその手を掴む。
両目「…両目だ」
両目「右目を出している黒髪が右目、左目を出して
いる白髪が左目だ」
両目「私達の詮索はするな」
エーミール「わかった!」
エーミールの明るさに胸を撫で下ろし、話を戻す。
正道「さっそく今回の仕事の話をするぞ」
正道「今回はエーミールの初仕事で通報を受けたこ
の山の調査だ」
右目「はいはーい、しつも〜ん」
フランクフルトの串を口にくわえた右目が手を挙げる。
正道「なんだ」
右目「亜人は仲間になって日が浅いのになんで法律
の勉強とかなしで任務に出れるんですか〜」
右目「ズルいと思いま〜す」
エーミール「法律…?」
正道「任務に出るには法律とかいろいろ知っておか
ないといけないんだ」
正道「だから、任務に出るために筆記のテストが存
在するんだが…右目はそれに落ち続けて任務
に出れなかったんだ」
右目「それは言わなくていいだろ!!」
左目「でも、筆記は絶対なんじゃ…
どうしてエーミールさんは任務に…?」
正道「何度か上司にそれを言ったんだが…」
ー回想ー
上司「いや〜、それは俺も聞いたんだけどさ〜」
上司「上の人達が亜人は武器だから一刻も早く実戦
に入れろって言って聞かないんだよね」
ー回想終了ー
正道「だそうだ」
両目「何を考えているんだか…」
右目「まぁ、わかったから早く行こーぜ〜」
俺達は寂れた鉄柵とブロックテープで区切られた山の中を進んで行く。
森は木々で太陽光が遮断され、森全体が薄暗く風が葉を揺らす音が森の不気味さに拍車をかける。
エーミール「ゲホッ、ゲホッ」
エーミールは急に咳き込み顔を歪め、鼻を押さえる。
正道「どうした」
エーミール「変なにおいがする…」
両目「どんなにおいだ」
エーミール「腐った物のにおいと…甘いにおい」
俺達は顔を見合わせた。
右目「死体か…」
正道「エーミール、どこから臭うかわかるか」
エーミール「た、多分わかる」
エーミールを先頭に歩き出すと、進むに連れ俺達でもわかるほどの強烈な腐敗臭に顔を歪める。
エーミールは既に死にそうな顔をしているが、ナビゲートを続けている。
そして、たどり着いたのは大きめの洞窟だった。
エーミール「洞窟…」
正道「ここは昔炭鉱が盛んでなその残りだ」
中に入らずとも臭いは俺達の鼻を刺激し、左目は端のほうで嘔吐している。
正道「ここの炭鉱は昔事故で埋められたと聞いた
が…」
懐中電灯で中を照らすと中は深くはないもののそこには人間らしからぬ遺体がいくつも付き重なっていた。
正道「これは…」
全て腐敗していて、新しいものは人間の形がまだ残っている。
ハエがたかりうじが這っているその遺体の中に微かに動くものが見えた。
両目「出てこい…」
両目が警戒しながら近づくと、後から複数の足音が聞こえ遺体の中からは手と足が異様に長い亜人が顔を出した。
右目「新種だ〜」
左目「うぇ…」
両目「これはお前がやったのか…」
亜人「……」
両目「沈黙は了解とみなす、答えろ」
両目「この遺体はなんだ!!」
亜人「子供、たべた」
両目「そうか…」
両目「残念だよ」
両目は大きな針のような武器を取り出し、亜人に向かって一歩踏み出した。
ーガサガサガサガサー
右目「おっほほほほ!いいねぇいいねぇ!駆除駆除
駆除駆除!!」
左目「嫌だなぁ…駆除…」
両目は突然歩みを止め、振り返った。
両目「おい、エーミール」
エーミール「後ろッ!」
両目が視線を外した瞬間、亜人はありえないくらい口を大きく開け両目に噛みつこうとした。
だが、両目はエーミールに視線を合わせたまま亜人を壁に蹴り飛ばし話を続ける。
両目「証明しろ」
エーミール「ぇ…」
両目「お前が人間の仲間だと証明するんだ」
エーミール「え…ぇ…?せーどー…?」
正道「……」
エーミールは私の顔を不安そうに見つめ、両目、右目、左目と全員の顔を見て俯いた。
両目「……」
エーミール「わかった…」
エーミールは洞窟に入ると八本の触手が背中から飛び出すと徐々に背景に溶け込んでいく。
右目「へ〜、そういう能力ね」
左目「ちょっと、よそ見しないでよ!」
五人茂みから顔を出した亜人は全員手足が異様に伸び、体は年相応に小さい。
首にはエーミールと同じ番号が振り分けられ、右から264、322、189、499、98と番号はバラバラだ。
右目「犬にカエルに豚にカマキリ、蜘蛛」
右目「わかりやすくて助かる〜」
左目「研究でわかったでしょ?DNAは一人二種類だ
よ」
右目「知ってるし」
右目は胸に付けたナイフを取り出し、左目は肩にかけた鞄から金槌を取り出し亜人に向かっていく。
俺はエーミールの側に近づき肩に手を置き、耳元に近づく。
正道「大丈夫か?」
エーミール「うん、両目さんの蹴りが痛かったみた
い」
目の前の亜人は苦しそうに唸り声を上げ地面に膝をついたまま立ち上がっていない。
正道「なるべる一撃で仕留めろ」
エーミール「うん」
エーミールは触手一本を亜人目掛け動かすが、亜人はその触手を避け壁を伝いエーミールに向かって口を開いた。
ーバンッ!ー
だが、エーミールの触手は既に亜人の足を掴んでおり、そのまま地面に叩きつけた。
亜人の頭は潰れ、飛び散った血液がエーミールの顔に付着し頬を伝い雫として落ちて行く。
正道「エーミール、大丈夫か?」
エーミール「……」
エーミールは地面に散らばる臓物や脳を見つめている。
ハンカチで顔の血を拭き取るり、エーミールの肩を揺らすとエーミールはこちらを見て微笑んだ。
何と声をかけるべきかわからず口ごもっていると、後から両目達がエーミールの背中を叩き遺体をみてエーミールを褒めた。
右目「すげぇじゃん!」
左目「右目!デリカシー!」
両目「まぁ、同胞を葬ることは辛いだろうが慣れる
しかない」
両目「奴らは人間を殺し食った、許されざることを
したんだ」
エーミール「…そうですね」
両目「お前はこの死んだ子供達を弔った、そう思
え」
両目はエーミールの頭に手を置き、微笑んだ。
エーミール「うん…」
両目「正道、警察はよんである」
正道「あぁ、助かる」
子供達の遺体を預ける為に警察を呼び、俺達は警察の到着を待つ。
エーミール達三人は楽しそうに話しをしていて、俺はそれを遠巻きから眺めていた。
両目「にしても、大人の亜人があんなに素直なんて
思わなかった」
正道「亜人は全員子供だ」
不意に出た言葉にハッとし両目の顔を見た。
両目「は…」
両目は動揺しながらも平静を取り繕おうとしている。
両目「そんなわけ…」
正道「…本当だ、亜人は全員子供なんだ…」
俺がそう打ち明けると両目は自分の顔を押さえ下唇噛み締める。
両目「なんで…知ってるんだ…」
正道「……」
両目は呆れたようにため息をつく。
両目「詮索はしないでおく、でも、いつかその時は
くる」
両目「腹はくくっておいたほうがいい」
正道「あぁ…」
ーガサガサー
警察「あぁ、いたいた」
警察が到着し、俺達は下山した。
警察(あの子)なんで背中破けてるんだ…?)
エーミールは深呼吸し、新鮮な空気をずっと吸っている。
両目「エーミール」
エーミール「はい…?」
両目「今日は悪かったな…」
エーミール「え…?」
両目「いくら子供を殺していたからってお前の前で
亜人をあんな風に言った…」
両目「今度から気をつける…」
エーミール「き、気にしてないから大丈夫だよ!」
正道「珍しいな、お前が謝るなんて」
両目「まぁな…」
右目「ねぇねぇ、この後焼肉行こ〜」
左目「えぇ…よく食べれるね…」
両目「正道の奢りでな」
正道「お前…さっきの謝罪はなんなんだ…」
両目「?」
エーミール「面白い人達ですね」
結局高めの焼肉に行き、帰る頃には日が暮れていた。
エーミール達は私達の前を話ながら歩いていて、両目と俺は後からそれを眺めていた。
両目「正道」
煙草を咥えると両目がエーミールを見ながら私に声をかけた。
正道「なんだ」
カチッ カチッ
ライターを鳴らしながら答える。
両目「エーミールの能力は人前では使わないほうが
いい」
両目「今は亜人が私達の部隊に入ったってことは公
表されてない」
両目「それは亜人に人権を持たせたのと同じことだ
からだ」
両目「そんな事が世間に知られたら…」
正道「本格的に俺達が消されるかもな」
両目「組織亜人は批判が多い中無理矢理作った組織
だ、今以上に批判された時…」
正道「わかってる、気をつける」
正道「だが、今組織内ではもう知れ渡ってる」
正道「いつ暴露されるかわからんな」
両目「そうだな…」




