月明かり
白一面の壁、目の前の大きなガラス壁。
そのガラスに手を触れると目の前の部屋の中一面が赤く染まり、地面にはズルズルと黒い触手が引きずられていき、突然。
バンッ!
俺の触れていたガラスに人が叩きつけられ、何度も何度も人かも怪しくなるほどに壁に叩きつけられる。
俺は周囲を見回すと、周辺も血で染められ、死体が転がっている。
呼吸が浅くなり、震える手で壁に手を付け歩き出す。
進むに連れ、酷く体は重く感じ足を踏み出すことも難しくなってきた。
そんな時…目の端からヒラヒラとと羽を羽ばたかせる一匹の蛾が通った。
それは、何度もエーミールに読み聞かせてやった本に出てくる虫。
俺は咄嗟にその虫に話しかける。
正道「待て!待ってくれ!行くな!!」
そう叫んでもその虫は進み続ける。
そうして左手を伸ばした時…
正道「!?」
ビクリと体を震わせ目を覚ました。
寝汗が酷く、呼吸も浅い。
正道(変な夢だ…)
ベットから体を起こし周りを見渡す、大きなベットに複数人で寝る者やハンモックやソファで寝る者、虐めとかではない、全員好きな所で寝ている。
水を飲みに行こうとベットから降りると隣に寝ていたエーミールも起きてしまった。
エーミール「せーどー…?」
正道「悪い、起こしたな」
エーミール「うぅん…大丈夫…」
正道「まだ寝てていいぞ」
エーミール「せーどーは…?」
眠たそうな目を擦りながら、俺の服を弱々しく掴むと、窓から差し込む月明かりに照らされた瞳が光る。
エメラルドの様に綺麗な緑が不気味に光った時、無意識に全身に鳥肌が走り、手を跳ね除けた。
夢の光景が断片的に頭の中に流れ、冷や汗が額を滲ませる。
エーミール「せーどー…?」
エーミールはゆっくり私の頬に手を当て顔を近づける。
柔らかくて、温かくて…優しい手だ。
エーミール「怖いの…?」
正道「ぇ…」
正道「ち、違う…大丈夫だ…」
俺がそう言ってもエーミールは私の頭を抱きしめ
た。
エーミール「大丈夫だよ」
一定の間隔で鳴る心音が心地よく、私も抱き返し目を閉じる。
中身は子供のはずなのに体は成人した男、それでも体温は子供のように高くてまだ世を知らない未熟な頭。
正道(変なやつ…)
いつまでそうしていたのか、気づけばエーミールは俺を抱きしめる手を緩め眠っていた。
寝息を漏らす無防備な寝顔を少し眺めてベットから降り、水を飲むためにキッチンへと向かう。
カウンターに座り、コップに入った水を見つめていた。
明日は仕事だ、早く寝ないといけないのに変に胸がざわつき眠れない。
正道「はぁ…」
ため息を溢し煙草を吸うために外へ出ると月がいつもより明るい。
正道「雨が降ったからか?」
空気が澄んでいるのだろう、煙草を咥えライターを数回鳴らし煙草に火を付ける。
正道「ふぅ…」
白い煙が空へ上がっていき、独特の風味が口の中にいっぱいに広がる。
正道(明日はエーミールの初仕事か…)
煙草を地面に落とし足でグリグリと踏んでまた中へ入りベットに潜り込む。
エーミールの手を握ると懐かしさで頬を緩める。
正道(昔もこんな事をしたな…)
ピピピ ピピピ
俺はアラームの音で目を覚ました。
正道(あの後寝たのか…)
まだ寝ているエーミールの前髪を触り、顔を見ると寝顔は今も昔もそこまで変わらない。
正道「起きろ、エーミール」
名前を呼ぶとゆっくりと目が開き、体を起こすと大きなあくびをして寝癖のついた髪の毛を揺らす。
エーミール「おはよ〜、せーどー」
正道「あぁ、おはよう」
口元に涎を拭き取り、エーミールを連れて顔を洗いに向かう。
自分の歯を磨き、顔を洗い、髪の毛をセットしすぐにエーミールの身支度を整える。
髪の毛を梳かし、服を着替えさせるとリンと優人が朝食を作りカウンターに食事を置いていく。
真っ白なシャツに黒いスラックスを着たエーミールはまだ眠たそうに目を擦りながら朝食を食べている。
リン「ジョナサーン!ミトニーック!」
リン「起きやがれー!!!」
優人「エーミール、今日は仕事を教えてもらうから
しっかりね」
エーミール「はーい」
???「ねぇねぇ、亜人が俺らの部隊入ったって本当
かな?」
???「どうだろう…正道ならあり得そうだけどね」
???「どのみち今日会うんだからいいだろ」




