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07 迷創断裂 兎河うさぎ

「生者」


「正解だ。簡単すぎたかな?」


アタイさんがキセルの煙を吹かせて言う。


「まず、死者は現実世界には存在しない。なくなった存在だ。言うなれば過去に存在したものだ。幽霊という存在がいようといなかろうと、現実世界で何かを生み出すものは死者ではなく今を生きてる者たちだ。今では、幽霊というものは睡眠障害や極度の疲労、または、先天的、後天的に個人に備わった脳の部位が作り出すエラー映像という風にみられている。幻覚に近いがね。科学も時代によって結論はコロコロ変わるから、どうなんだ?という者もいるが、科学が今、最も事実に近い結論を出しているからね。根拠のない宗教やそこらへんの年寄りたちの言葉を信じるよりはよっぽどマシだ。と、まあ、ようは、心霊現象という事象は、月のお姫様の能力で例えるなら、この場合、視覚による空想具現化能力といっていいかな。今でいうAIと似たようなものと言った方がわかりやすいか?より身近なものなら、起きてる状態で見ている夢といったほうがわかりやすいだろう」


さりげなく版権元のキャラの能力を例えで出しているけど、大丈夫なのか。メタ的な不安もひとつまみしつつ、アタイさんと話を続ける。



「言いたいことはわかります。現実世界での影響が強いのは生きてる者と。」


「ああ、ただ、いま生きてる人間より、圧倒的に死者の数が多いし、数の点でいえば、影響を与えられるという見方もできる。人間以外を含めると数え切れないだろう。必ずしも生きている人間だけが影響を与えているとは限らないという見方も正しい。死者が死ぬ前や死んだ後に精神的な影響を生きている人間に与えるといったこともあるし、一概に断言できないのもまた事実だ。だが、いくら死者の数が多かろうと、現実でこうして物事をやりくりしてるのは生きてる人間だ。死者ではない。現実世界では実体として、死者は存在しない」



「アタイが言いたいのは、始まりと終わりもこれに該当する。生と死を表す言葉でもある。現実世界では、循環の法則は生まれ変わりという意味でオカルチックに例えられるが、そんなものは立証されてない。詳しい説明は端折るが、この現実世界では、始まりは終わりよりも力が大きい。終わりには現実に干渉できるほどの力がない。死の概念でできてるからだ。現実世界で物理的に視覚的に影響を与えはしない。終わりの事象が起きてもその時点で現実にいない、なくなってるからだ。死者による心霊現象は聞いたことがあっても目にしたものはいないだろう。見たとしても、その大半が、人間の脳が作り出す錯覚現象、空想具現化現象だ。現実で見てる夢。現実で終わったもの」


「現実世界で目にするものということですか?」


「ああ。だが、全てではない。ここで生きてる者、死んでる者という形ではじまりと終わりで例えただけだ。反論はあるだろうが、とりあえず、始まりが現実世界に与える影響が大きいという理解で構わない。分かりにくくてすまんね。あやふやで分かりにくいものこそ、事実に近いのさ。真実は一つではなく、無数に転がってるってわけさ」


キセルを吹かせつつ、微笑を浮かべる。


「循環があってもなかろうとメイには関係ない。その循環のはじまりとおわりには属していない、「循環」というしくみをつくった外側にいる原初のはじまり、文字通りすべての理のはじまりがメイというわけさ。そして、原初の始まりを閉じれるのも原初の始まりそのものさ。つまり、メイは循環の外側、原初の終わりでもあり、表裏一体ともいえるね。といっても、本人は、始まりというだろうから、原初の終わりでなく、原初の始まりの力の一部といっておこう。二つの始まりを内包してるのも彼女。それは、メイを見ればうさぎもわかるだろう?そして、君自身の力が証明してる。特に2年前の全く性格の違うメイを見た君ならね」



何かとんでもなく、スケールの大きい話をしていることはわかった。それだけの存在がそばにいる。そして、それが発端で俺とメイの存在が消えかけてる。

「と、まあ、こんな感じで終わりと始まりについてはざっくりとわかったかい?」

「始まりの力のおさらいにもなったし、よくわかったよ」



「そこで、アタイにかわって、頼みたいのが今回の高森ミサキの依頼だよ」


はい?と俺は反応した。てっきりアタイさんの手伝いで呼ばれたと思ったのだ。確かに手伝いではあるが、俺への依頼となると嫌な予感がする。


「言ったろ?メイはもちろん、君自身にも関係がないともいえないだろ?」


「高森ミサキは終わりの魔眼を持つ人間だ。この世でただ1人のね。希少価値としては高いがーーーとはいっても、循環だろうがそれに属してなかろうが、それが、終わりという能力なら、力という面ではないに等しい。始まりそのもののメイと、君の場合は例外だがね」


始まりを持つ者がメイだというなら、存在そのものがないとはいえ、言葉の意味的に対局に位置するのが終わりを持つ高森ミサキだ。こうなると、厄介なことに巻き込まれるのが想像できる。今回の依頼、断りたいのが本音だ。


「アタイさん、俺は・・・」


「ふぅー、終わり、とっくに滅んでいたと思っていたけど、まだ現実に存在していたとはね、メイを狙う連中、特に世界維持機関からしたら、知らないとはいえ、メイ同様、確保したいもしくは滅ぼしたい対象そのものだろうね」


そういうアタイさんに疑問が浮かぶ。


「終わりって、現実世界でそこまで害をなすもの、脅威ってほどでもないように思えるんですけど」


「そうじゃない。メイと違って、脅威というよりもシステムにとって、都合が悪いのさ」


「世界維持機関(WSO)からしたら、反物質が出てきたってほどの眉唾な話だから。なんともいえないんだろうけど」


その例えに違和感を持ちつつも、アタイさんの話を聞く。


「いい機会さね。メイを狙う連中、世界維持機関は除外するとして、敵の尻尾を探るチャンスってこと。ということで君には、今回、高森ミサキの警護と能力を消す依頼を引き受けてもらいたいというわけさ」


アタイさんは笑顔でそういった。


「警護はわかるけど、能力を消すって何?」


俺の疑問を彼女ははぐらかす。


「それはあとで話すとして。今回、アタイの代わりにメイと一緒に高森ミサキと会ってくれ。ミサキさん自身のことや詳しい内容は本人にきく方がいいだろう。今の時代、リモートか電脳での対面が主流だろ?依頼人と実際にリアルで顔合わせてコミュニケーションするのは大事で貴重なことだから。いい練習にもなるしね」


「アタイさんは?」


「急遽、外せない私用が入ってね。とあるAIがらみの事件の話が入っててね。

だから、君に頼んだわけだよ。とはいっても、なるべく早く、君たちと合流するよ。日にちもずらせそうにないし、急な話だが頼む!君たちがくるということは、アタイから連絡しておくよ」


アタイさんは、俺の前で両手を合わせて申し訳なさそうにいったが、その顔がやけにわざとらしかった。微妙に口元がニヤついてる。アタイさんの頼みごとはたいてい面倒ごとである場合が多い。


「夜中に呼び出された挙句にそんな急な話、俺が、特にメイのやつが、はい、やりますっていうと思います?」


「もちろん、報酬は出すよ」


その言葉にハッと耳が反応する。


そして、アタイさんが手元のデバイスを操作し、今回の報酬内容を表示する。俺は提示された報酬を見て答えた。1つは金銭、もう一つは・・・伏せておく。


「あっーーえっと…まあ……はい、わかっいや、わかりました」


「よろ〜」


アタイさんはキセルを吹かしつつ、満面の笑みで言った。


コメント 家族以外と話すことがなくなって4年がたちました。

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